戦いの前
♢21♢
『──籠城ですか? マナの魔力量では無理ですね。障壁を村全体に張り続けるのは不可能ですし、氷で覆うにしても本当に薄くがせいぜいです。そんなのカレンちゃんに頼んだらいいんじゃないですか? あの子の魔力量は、ユウくんと同じくぶっ飛んでますから。それはできない。何でですか? ……それはそうですけど……。うーん、他に思いつくのは──』
今日、貴族を討つとなった。
つまり、その間は村の防衛が必要だ。
会長はマナさんに相談しろと言ったんだが、彼女の反応は芳しくない。しかし、俺の顔を見ていたマナさんは何かを思いついたのか、ニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
『魔力が足りないなら、余ってるところから貰いましょうか!』
──と。ここまでが回想だ。
いつのまにかバックれていたマナさんは、スタークを連れて、商会のテントのところにあった荷物を積んだ馬車で戻ってきた。そして、商会の人たちが積荷をどんどん降ろしていく。
木箱が瞬く間に積み上がる。木箱の中身は何なのかと考えていると、降ろしおえたのだろう。スタークとマナさん以外の商会の人たちは、それぞれ散っていってしまう。しかし、一人残ったスタークは何やら作業を始めた。
俺はマナさんの言いつけで身動きはできない。なので、しばらく黙ってスタークの作業の様子を見ていたんだが。
「──思いつきにしてはいい案だな! 魔力量だけはあるヤツから、それを奪うとはな。俺じゃあ思いつきもしねーな」
「やっと起きてきたくせに……」
マナさんに起こされるまでテントで寝ていたスタークは、寝てない俺とは違い十分休めたのか、調子が良さそうだ。
「スタークくん、うるさいです! 見てるだけだから簡単に言いますが、集中しないと難しいんですから黙っててください。もしくは、マナにではなくユウくんに話しかけてください」
「えっ……俺もしんどいんですけど」
寝ていないせいもあるのか、力が抜けていくのを時間の経過と共にはっきりと感じる。でも、マナさんの壁作りを邪魔させるわけにもいかない。
「何でそんなに頭濡れてるんだ?」
さっきから気になっていた。スタークの髪は水でも被ったように濡れている。
どうせこの距離では話しかけてくるのだから、こっちから話を振ろう。少しは気がまぎれるかもしれないし。
「起こしに来たマナにやられた。何も水を頭からぶっかける必要はないよな?」
「一回で起きないからですよ! 全くこんな状況なのに一人だけ呑気に寝てるからーー。いけない、集中。集中」
最もな意見を言うと、マナさんは壁作りに集中するつもりなのか目をつぶった。本当に話しかけるなということだろう。
「なぁ、それ……」
スタークがしている作業が何なのかが分かった。スタークが組み立てているのは銃だ。
「これか? 街に持って行くはずの積荷だ。荷の大部分は武器だ。ごっそり買い込んだんだ。この国のお偉方がな」
「それを使うのか?」
「だから組み立ててんだよ。それに会長も言ってたぜ、『金はまだ貰ってないんだ。どう使おうが自由だ』ってよ。俺としちゃ、自分たちが用意させた武器でやられるとか笑えるよな。欲をかくからこうなるんだ」
いきなり侵攻するような奴等に同情するつもりはないが、酷すぎると思ってはいけないのだろうか。向こうも向こうだがこっちもこっちだ。
「で、普通の銃なのか」
組み上がった銃の見た目は、実物を見たことがあるわけじゃないが大型のライフル銃のように見える。
「いや、そんな物なら量はともかく買わなくてもある。こいつは新製品。特別な加工をしてある。狙撃が目的じゃない。銃が大型なのは、まだ小型化が出来てないからだ」
「この銃を買った奴等は何に使うつもりだったんだ。人間相手にじゃないだろう?」
素人目からも人間に向ける物ではないと思う。
異様な気配をはらんでいる気がする。
「ゆくゆくは貴族を殺すつもりだったんだろう。武器を揃えれば殺せたかもしれないからな。武器を作る技術は、貴族を殺せるところまでもう少しだと俺は思う」
スタークの台詞に驚いた。
「魔法に頼らずとも戦えるなら。そう思ってる奴は少なくないはずだ。会長の剣は見たんだろう? あれは僅かしか魔力が無くても、それを蓄積し増幅させて使うことができる。結果、起きる現象は魔法と変わらない。俺の銃も同じだ。弾に同じ効力を持たせられる。今は作れる人が一人しかいないから量産できないが、技術が確立すればあっという間に世界がひっくり返る可能性だってある」
魔法が使えない人間が、魔法を使える人間と同じことが出来るようになる。ということに。
「この銃にも同じことができる。流石にウチじゃ銃自体には組み込めなかったみたいだが、弾に予め魔法が込められている。それにより、物理攻撃を防いでしまう自動障壁も、魔力による壁も貫通できる。つまり、当たりさえすれば貴族だって殺せるはずだ」
その技術の一端を自分が味わったことに。
会長の飛ぶ斬撃。あれは僅かでも貫通していた。
「……」
「怖くなったか? もしかしたら自分は死んでいたんじゃないかって。まあ、会長は全力でやってたと思うぜ。勿論。殺す気でやってますってフリだったんだろうが、わざわざ手の内を見せたんだからな」
「正直……」
その続きを口にするのを躊躇ってしまう。
弱さを見せるなと言われたからだ。
「──悪い、何でもない。一回味わったからな。もう大丈夫だ!」
そう誤魔化す。求められているのは強さだ。
なら、不安や迷いは口に出すべきでないと思うから。
※
スタークに道ながら話を聞いて、かなり状況は把握できた。敵は約五百。その内、九十四体が人形。
残りはこの国の支配者の兵士たち。その全ての兵士が魔法を少なからず扱える。でなければ、お抱えの兵士にはなれない。
他に魔法の専門が何人もいるだろう。魔導士と呼ばれる、魔法使いより格上とされる人たち。
彼らは等しく魔法を修めている。あらゆる魔法を扱えるはずだ。
少し魔法を使えるからといって、私にそれらに対抗するだけの力があるのだろうか?
この場合の力とは魔力の大小より経験の力。
実戦を経てしか培われないものだ。
それが自分に不足しているのは明白だ。
私は実戦の経験など無いに等しい。自己鍛錬しかしてこなかった。村から街までの用心棒が唯一の実戦といえるのかも。
魔法も魔物相手にしか使ったことがない。もし、人体に使えばどうなるのかが分かりきっているから。
しかし、相手はそれを理解した上で魔法を使うだろう。そうやって何人。何百人と殺してきている。
命令だから?
逆らえないから?
それとも……。
それ自体に取り憑かれてしまったのだろうか。
魔法とは、そんなことの為に使う力じゃないはずなのに。
私は魔導書の作者からそう教わった。顔も知らない人だけど、その理想と理念は共感するものだった。
殺す為だけの魔法に意味はないと思う。それが半面だと理解できても、もう半面も絶対に存在すると思うからだ。だから、認めなくない。負けたくたい。
「この国の魔導士の人数は分かる?」
そう、隣を歩く。この国の果ては世界の全ての場所の、あらゆる情報を知り得る組織の男に尋ねてみる。
「魔導士? ……確か三十人くらいだな。お偉いさん一人あたり四人は雇ってたな。側近として二人。残りは兵士たちの指揮官ってとこだな」
「そんなに……。この村には魔法使いの一人だっていないのに」
ムサシの国は、貴族の屋敷のある街とその近隣に四つの村が存在している。村ごとに特に名は無く、北の村、南の村と方角を付けて呼ばれる。
そして、それぞれに村を治める貴族からの使いの人がいて、彼らが村の管理を行っている。
南の村。私の村でいうなら村長さんにあたる。ごく普通のおじいちゃんに見える村長さんは、昔は何やら偉い人だったと話を聞いたことがある。
「ほとんどが名ばかりの奴らだぜ? そこらの魔法使いよりは上なんだろうが、正直なところ魔導士と呼ばれるほどの実力はないな。はっきり言うと、お偉いさんの見栄ってとこだな」
この国にそれほどの戦力があるなんて、私は知らなかった。魔法使いに魔導士がそれだけいれば、村どころか国だって攻め落とせるだろう。集められた税はその戦力の拡張のために使われていたんだ。
「それでも、何もない人が魔導士と呼ばれるはずないわ。それに何のために戦力が必要なの?」
「戦争でも始めるつもりだったんだろう。支配者気取りたちは、本当の支配者になろうとしたのさ。武器を買い込み、兵隊を増やし、後は機を伺って仕掛けるつもりだったんだろうな。だが、欲をかきすぎた」
スタークの言葉に戦慄を覚えた。同時に、そんなことのためにと思ってしまう。人を何だと思っているのだろう。
「いつかは戦火がこの国を襲うはずだったってこと……」
戦う用意があるのなら、後は命令一つで戦いが起こる。この国の全てを巻き込むのも明白な戦いが。
「遅すぎたくらいだろう。表向きは従っているフリをして、裏では爪を研いでたわけだ。貴族を消すつもりが、自分たちのケツに火がついた。あくまでも自己保身が一番の連中だからな。敵うか分からない貴族より、確実に勝てるこの村を消すことにしたのさ」
刃を向ける相手を間違っている。
人間同士で争っても何も変わらない。
貴族のいいように運ぶだけなのに……。
「何かを変えたいなら、自分でやるしかないぜ? この村のやろうとしてることは正しい。気に入らないなら逆らうしかない。力には力で立ち向かうしかない」
誰も傷つけたくないと思うのは甘えだ。
そんなことができるのは、それこそ貴族のような圧倒的な力があってこそ出来ることなんだから。
「……分かってる。誰もできないのなら私がやるしかない……」
スタークに向けたのか、自分に言い聞かせたのか分からない言葉が口からでた。




