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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
31/337

 一騎打ち

♢20♢


「ふんふふーん。ふんふふーん。ふふふのふーん──」


 マナさんはいったい、いつまで続けるつもりなんだろう。もうかれこれ一時間はこうしている。ついには鼻歌までまじり始めた。


「マナさん」


 最初は籠城のために周りの壁を補強する。それだけだったはずだ。なのに一向に終わる気配がない。

 それどころが徐々に壁が凄くなっていっている。


「──マナさん! もういいんじゃないですか。もう十分だと思いますよ」


 そして続けた結果、壁は城壁のようになっている。そりゃあ丈夫に越したことはないが、あの細工とか本当に必要なんだろうか? それとも、実は凝りだしたら止まらないタイプの人だったのか?


「いいじゃないですか。どうせ暇なんですから。何よりカッコいい城壁を作りたいんです!」


「そんな理由なのか。緊張感がない……」


 マナさんは暇だと言うが、そんな奴らは俺たちだけだ。他はみんな慌ただしく動いている。やる事などいくらでもあるはずだ。これから戦いが始まるんだから。


「ツノかなぁ。門の上にツノも付けたいなぁ」


「はぁ……俺も何か手伝いに行きたいんですけど?」


「いいから。おとなしくしててください。ユウくんの役目は一番重要なんですよ。会長との戦闘で分かりましたよね?」


 思い出したくはないのだが、ついさっきの事だけに恐怖どころか、リアルな感触まで再現されてしまう。


「……酷いもんだった。はぁ……」


 そう思わずにはいられない結果だった。

 あれを勝ちとは思えないし、思いたくない。


「そうですか? なかなか良かったですよ。あの会長から一本取るというのは、誰にでも出来ることではないですからね。このご時世に剣一本で戦うなんて馬鹿は、会長とユウくんくらいです」


「そうですか。ありがとうございます」


「──えっ、褒めてますよ? 本気ですよ?」


 気を使ってくれているのであろうマナさんだが、その言葉を素直には受け取れない。アレは対した者にか分からないことだろうからだ。


 いくらかやれると思い上がっていた未熟な自分。

 振るう刀がカスリもしない不甲斐なさ。

 それとは対照的な相手の技術。力量の差。

 あの人は、会長は本物だったのだ。


 それも当たり前。あの人はこの世界で生きてきたんだから。多少剣を振れるだけの奴に、生きるために剣を振ってきた人間に敵う道理はなかったのだ。


「マグレだろうと勝ちは勝ちです。二度と会長と闘わなければ、ずっとユウくんの勝ちで終わりですよ? 勝ち逃げするつもりでいきなさい!」


「アレはマグレですらないです。本当なら何回死んでるか分からないですし。はぁ……」


「ダメだこりゃ。ほっとこう」


 でも、闘い自体は必要なものだったんだろう。

 始めから村の人たちと俺だけじゃ、どうにもならないのは分かってた。会長に協力を得るのは絶対に必要なこと。だから闘った。


 勝ったほうが我を通す。戦うのか逃げるのか。

 知らぬ間に俺の勝ちには、村の命運が懸かってしまっていた。



 ※



「俺とこの村の連中とは意見が合わなくてな。逃げるというのなら手を貸すつもりだったんだが、こいつらはどうしても死にたいらしい。俺たち商会はこの件から手を引く。だから、お前も諦めて一緒に来い。ユウ、こんなところで死ねないだろう?」


 商会という組織のトップにして、会長と呼ばれる男は言う。だけど、その真意まで伺うことはできない。


「そんな訳にはいかない。ここの人たちは何も悪くない。理不尽なのは貴族って奴等だ」


「それが世界の仕組みだ。仕方がない。仕組みを変えるには力が必要でその力は無い。抗ったところで無意味。戦うにしても相応の用意と手順が必要だ。分かるよな?」


「分からない。それに俺は決めたんだ。この村を守ろうって。誰のためでもないが、それを成すのに必要だと言うのなら俺は戦うつもりだ。何より、逃げないと死ぬのが分かっていて、それでも戦うと言うこの村の人たちを見捨てることは、俺には出来ない」


 答えは、予め予想されていた答えだったのだろう。俺の言葉を聞いていた会長の口元には微かに笑みが浮かぶ。


「そう言うと思ってた。森で子供を助けたお前を見た時からな。だが、お前に死なれちゃ困るんだよ。ユウ、このままではいつまで経っても平行線のままだ。そんな事をしているうちに敵は攻めてくる。我を通すにも力が必要だ」


「……どういう意味だ?」


「話は簡単だ。勝った方の意見に従う。これでどうだ? 口先ではなく、お互いに納得のいくやり方だと思うが、ほら──」


 会長は何かをこちらに放り投げる。

 掴んで、目で見て、その重さを感じて驚く。

 放られてきたのは鍔がある剣。日本刀だ。


 掴んだそれを鞘から僅かに出し、内部の銀色を目にして確信した。これは本物の刀であると。

 そして刀であると理解した途端に、背筋に冷たいものを感じる。


 これで何をするのかを悟ったから。会長は勝った方と言った。つまりは、これで闘えということだと。


「死なれちゃ困るのは本当だが、俺くらいに殺されるなら必要ないとも言える。ユウ、闘う気があるなら抜け。お前が構えたら、それを始まりの合図にさせてもらう。止めるなら、諦めるなら今だぞ。ここで諦めても笑わない」


 これはルールのあるスポーツである剣道とは違う。防具もなければルールもない。斬られれば死ぬし、斬ったら死なす。


 刀を抜くのが合図ということは、その覚悟があるのかを試されている。闘うことが出来るのかと。斬る覚悟があるのかと。


「手は抜かないし、俺の戦闘という行為における選択肢の中に手加減という言葉もない。甘い考えは捨てろよ。俺はお前を殺す」


 会長から今感じるものが殺気というのだろう。およそ日常の中には存在しないものだ。

 斬り合うのだから殺す気でやるのは当然だ。


「ふぅ……」


 落ち着け。できる。やれる。

 何も殺す必要はない。寸止めでいいんだ。


 それに武器も条件も対等なら、更紗の魔法がかかっている俺の方が有利だ。

 その一端は見た。ステータスと言われた力なら俺の方が上だ。身体能力も上がっている。マナさんからお墨付きももらった。


 ──これならやれるはずだ!


 鞘から刀を引き抜き鞘は投げ捨てる。

 意識していなかったが、もう身体に剣道が染み付いているらしい。無意識のうちに行動が出来ている。


 なら、構えもいつも通りに。

 前を向いて両手で構えを取る。


「──残念だ」


 一切、視線は外さなかった。瞬きもしなかった。

 会長は構えるどころか、腰の剣を抜いてすらいなかった。それなのに、視界からその姿が突如として消える。


 ──はっ? そう言葉を発する間もなく、理解する間もなく、背後から首に衝撃を受ける。

 衝撃で傾く身体をなんとか踏ん張り、振り返りざまに刀を振るうが、崩れた体勢からでは刀を振っても威嚇にもならない。会長はそのまま剣に力を込め続ける。


「硬いな。全力でやって傷一つつかないとは。刃が通らなくても、首を折るくらいの衝撃はあるはずなんだが、それも意味はないみたいだな……」


 今の、何も見えなかった……。


 気配も無かった。歩法術にしたって並じゃない。

 それに寸止めでも、剣の峰でもない。

 刃が首に触れてる感触がある。冷たさすら感じる。

 ああ、この人は本気だ。本当に俺を殺すつもりだ。


「どうした。そんなもんか? 覚悟も力も。口先だけで成せる事など有りはしないぞ。何より、その程度で守るなどと笑い話にもなりはしない!」


 再び会長の姿が消える。見えない以上、同じところに攻撃が来ると予想するしかなく、首の辺りに刀を向けるが、会長の剣は横から薙いでくる。


「ぐっ──」


 横っ腹に直撃した剣はそのまま身体を吹き飛ばす。そして転がる俺に、続け様に突きが飛んでくる。

 剣は刺さらずに、ギギギッ──と、会長の剣が何かに擦れるような甲高い音が上がる。


「本来なら、ここまでで三回は死んだな。大した防御力だがいつまでも続くかな?」


 自分の身体の周りには見えない壁が存在していて刃を防いでいると分かったが、会長が言ったように、いつまでも耐えられるのかと考えてしまう。


 これが無かったらもう死んでる……。


 ──ピシッ、刃の振れる部分からそんな音が聞こえた。その瞬間にドクンと大きく心臓が跳ね、鼓動が早くなる。恐怖が全身に回っていく。


 恐れが現実になりつつある?

 このまま続ければ死ぬ……。


「立て。始まったばかりだろう。今更、怖くなりましたなんてのは受け入れない。あと何回殺せば死ぬのかを試させろ」


「うわぁぁぁぁぁぁ──」


 叫んだ自分ですら自分の感情が分からない。

 恐怖からなのか、別の何かなのか。

 ただ確かなのは、こんな奴の刀が届く相手じゃないということだ。


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