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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
29/337

 侵攻 ④

♢18♢


 待っていろと言い残したきり、なかなか戻ってこない会長を探して、村の中を歩いているんだけど騒がしい。

 これは既に、侵攻を目的とする軍団が現在進行形でこちらに向かってきていると、村中に知れ渡っているということだろう。この事から、会長は知らせたのだとは分かるのだが、本人はどこにいるのか戻って来ていない。


 あの人もあの人だ。

 どこに行くのかを言っていけば、こんな事を──


「──あれっ? カレンの家の前まできちまった。マナさん、こっちじゃないんじゃないですか?」


 スタスタと歩いていくし、てっきり当てがあるんだと思って後をついていっていたのだが、実は道が分からなかったのか、マナさんはカレンの家の方に来てしまったようだ。


「何を言っているんですか。会長は村長さんのところに行ったんだから、こっちじゃないですよ?」


「なら何で、俺たちは関係ないところに来てるんですかね。大分、時間を無駄にしている気がしてるんですけど……」


「カレンちゃんに話をしておいた方がいいですよ」


「いや、何も今じゃなくても……」


 カレンに母親は生きているかもしれないと伝えるのは、何もこんな状況じゃなくてもいいはずだ。これはあくまで可能性の話であり、何の根拠も確証もないのだから。


 今は村に向かって来ている奴等のことだろう。話すと言っても、それが済んでからでいいはずだ……。

 この村の人たちがどうするのかは、分かりきっているけどな。


「先ほどからなんだか嫌な予感がします。マナの感は当たるほうです。だから、最期になる前に、さっきの事を伝えてあげたほうがいいと思います」


 最期とはなんだろう。ついさっき、この人に簡単には死なないと言われたのに、いきなり死ぬような事態になるんだろうか。


「というか、マナさんはカレンのことを知ってるんですか?」


 カレンちゃんと呼び、こうして家まで知ってるということは、面識があるのだろうか。


「知ってますよ。十年前に会ってますから。マナは一度会った人の顔と名前は忘れません。カレンちゃんは森で一人でした。状況だけ見れば絶望的ですけど、世界にはちゃんと希望も奇跡もあるんですよ。遺体が見つかってないのなら、希望を捨てるのは早いです。会長はカレンちゃんを想って母親は死んだことにした。でも、マナはユウくんと同じで生きてるかもしれないと思うです」


「マナさん……」


 この世界には希望も奇跡もあるか。そうじゃなきゃ困る。無い人間がいるのだから、ある人間にいてもらわないとやり切れない。


「それ、聞いていいですか。マナさんの言った奇跡ってなんですか? あったんですよね。奇跡」


 奇跡。それがあると彼女は言った。

 本当にあったのなら、奇跡とはどんなものなのか、それを知りたかった。


「んーーっ……特別ですよ。マナは、昔ある人に助けられました。幼かった自分には、どうしようもない運命から。希望もなく諦めていたマナに、その人は奇跡を見せてくれました。きっとその人は、『そんなのは奇跡なんかじゃない』そう言いますけど、あれは奇跡っていうんですよ」


 そうか。奇跡というものは本当にあるのか。

 奇跡を起こした人がではなく、奇跡を見た人が言うのだ。奇跡は本当のことなんだと、マナさんの顔が語っている。たとえ抽象的に濁されていても、本当なのだと伝わってくる。


「ちなみに。今のって会長ですよね?」


「ナイショです。いっさい質問には答えないです。すぐに今のは忘れなさい。 ──もう! 恥ずかしから、こっち見んな!」


 俺の指摘はずばり当たりだったらしく、顔を赤くしたマナさんに杖でバシバシ殴られる。照れ隠しなのか、かなり本気で叩いているようで相当痛い。


「痛い、痛いですし、あんまり人の家の前で騒ぐと迷惑ですから! そろそろやめてください!」


「むーーっ、確かに」


 一応は納得したのか、マナさんは渋々と言った感じではあるが杖を下ろした。

 俺は魔法使いの物理攻撃力を舐めてたようだ。あんな杖でも凶器に変わるのだと知った。


「あれっ? おはようございます」


 マナさんの背後。俺からすると正面から、こちらに向かって歩いてくる人がいると気付いたら、カレンの親父さんだった。


「んっ、君は昨夜の……。ここで何をやってるんだ?」


 今のを見られていなかったということはないと思うのだが、親父さんの反応は何か、今のやり取りを見ての反応ではないような気がする。まるで、俺が声を掛けるまで気付かなかったような反応だった。


「あのっ、えーと。ちょっとカレンに話があるんですけどいいですか?」


「それは構わないが、君たちはどうするんだ?」


 なんだ? 「君たちは」と言ったよな。

 それは自分たちは決まっているということだろう。しかし、いったい何のことだ?


「何の話ですか?」


「私たちは戦う道を選ぶ。村の人間ではない君たちを巻き込みたくはない。君たちは、早く逃げる用意をした方がいい」


 えっ……。


「それは本気で言っていますか? ……そして会長が戻ってこないのはそれが理由ですね」


「ああ、本気だ。もしも貴族が攻めてくるようなことがあれば戦う。皆そう決めていた。もう、我慢も限界だ」


 戦うって言ったのか? 逃げるじゃなくて。

 勝てるのか? その見込みは?

 勝てる可能性はあるのか……。


「そうですか。マナには決定権はないですし、やりたいという人たちを無理に止めることもできません。頑張れとも言えないですし」


 いや、無理だろう。

 素人から見ても無理だと思うんだ。

 そんなことは、分かっているんじゃないのか?


「そういう訳だ。私は準備が整ったら、すぐに村長の家に戻る。君たちは早く村を出たまえ」


 そう言って親父さんは家の中に消えていく。

 その覚悟を決めた人間の背中を、俺は立ち尽くして見送るしかなかった。


「──ほら、しっかりする! つっ立っていては何も始まりません。当初の目的を達成する。まずはそれです。いきますよ?」


 そんな俺とは違いマナさんに変化はない。

 この差は年齢の差か、それとも生きてきた世界の差か。


「おはようございます。カレンちゃんはいますかー」


 元気に挨拶しながらドアを開けるマナさんの後に、何も言えないまま続くと、入ってすぐにおばさんと目があった。


「あら、おはよう。昨日はありがとね。それにしても、今日はずいぶんと早いね。どうしたんだい?」


 何もないような朝の時間のように思える。

 いつもと変わらない。そんな時間のように思える。


「あっ……おはようございます。あの、カレンは?」


 親父さんは奥に行ってしまったようで、朝食の準備をしていたらしいおばさんしかいない。カレンの姿も見えない。


「あの子は昨夜から部屋に閉じこもったままさ。声をかけても返事もないよ。壁なんて薄いんだから、聞こえてると思うんだけどね」


 おばさんは知っているんだろうか?

 知っていて、それでも平然としていられるのか?

 だとするなら、俺には何も言うことが出来ない。


「……そうですか。じゃあ改めて来ます」


 口は勝手に改めてと発した。改めてとは、いつの事なのかも分からないというのにだ。


「いいよ、わざわざ来たんだ。何かあるんだろ?」


 話すべきことはあった。だけど、それを口にするような場合ではすでに無い。そう思う気持ちが強い。


「ユウくん?」


 何とか説得して、戦うなんてことをやめさせるべきなんじゃないのか? いや、そもそも俺にそんなことを言う資格があるのか? あまりにも自分は無関係すぎるのではないか?


 マナさんが言ったように止めることは出来ない。そんな資格も関係性も足りない。

 無理だからやめた方がいいなんて、間違っても言えない。それは、無理を承知で戦うと言う人たちに対して侮辱でしかないと思うから。



 ※



「あの…………」


 何と切り出したらいいのか。そんな場合ではないのではないか。逆に、そんな場合だからこそ話しておかなければならないのではないか?

 そんな内容が頭の中をグルグルと回り、思考がまとまらない。こんなままでは上手く話せる自信がない。


「ユウくん? おーい……仕方ない。ユウくんがヘタレなので、マナが話します。話というのはカレンちゃんのお母さんについてです」


 この切迫した状況でマナさんのように、平気な顔をして喋れるようなメンタルは俺にはない。これが羨ましいとは思わないが、喋ってくれるというならやってもらおう。


「あんた。どうしてそのこと……」


「カレンちゃんも、聞こえてますよね?」


 マナさんの言葉に、当然だがおばさんはかなり驚いている。あと、ヘタレと言われたわけだが、反論のしようはない。


「簡潔に言うと、カレンちゃんのお母さんは生きてるかもしれない。ということです」


 おばさんが、ハッと息を飲んだのが分かった。聞こえているのなら、部屋にいるカレンも同じだろう。


「どういうことだい? 墓だってあるじゃないか」


「あれは石だけです。下は空っぽですよ?」


 墓があれば死んでいるんだと誰もが思う。そういうことだ。その人が本当にそこに居るかなんて、確かめられない。


「なら、その人はどこに行っちまったんだい?」


「それは分かりません。遺留物と血痕があっただけで、不自然な点が多い。だから可能性はあると思いますよ」


「……………………」


 死体を見たなら死は覆りようが無いだろう。

 それは世界が違ったとしても同じこと。

 しかし、そうじゃないのなら。

 万が一。億が一が、あってもいいと思うんだ。


「──今の話は本当なのか! 魔物にやられてしまった可能性はないのか?」


 マナさんの話は親父さんにも聞こえていたようで、奥から飛び出してきた。おばさんが先ほど、壁が薄いと言っていたのは間違いないようだ。


「魔物にやられたなら、何かしら痕跡が残ります。しかし、それも見つからなかった。ここからはマナの推測ですが、初めからカレンちゃんだけがこちら側に来てしまった。そうは考えられませんか? もしくは──」


「お母さんだけが元いた世界に戻ってしまった。ですか? カレンはお母さんと一緒だったって言ったんですよね?」


 当たりだったようだが、急に喋り出した俺に続きを奪われたのが気に入らないらしく、マナさんからの視線が痛い。


「こほん……ユウくんの言った可能性もあると思います。この十年で、商会で保護したマヨイビトの人たちがいるんです。その方たちの証言によると、彼等が現れた場所には、ゲートが少し出現したままだったそうです。だけど、戻れる保証があるのか分からなかった。そして──」


「──怖くてもう一度入る気にはならなかった。その人たちは、そう言ってるんですね」


「──黙っているなら最後まで黙ってなさい! どうして大事な部分だけいうの! わざとなのか!」


 マナさんは俺に振り返るのと同時に、杖で本気で殴りかかってくる。二回めなので杖の軌道は見切れるけど、うっかり魔法を使われたらヤバい。


「わざとじゃないんです! すいませんでした!」


「次はないですからね? ……こほん。そう証言されています。それと、こちらに来たとしても、またすぐに戻った人もいるんじゃないか。個人的にはそれもあると思ってます」


 ゲートか。空にあったものと同一のものと考えていいのか? ゲートの向こうが、この世界なのは間違いないけどな。


「それじゃあ本当にカレンの母親は生きているかもしれないと?」


 頷いたマナさんに、両親は顔を見合わせる。


 この二人が本当のだろうと、偽物のだろうと、確かなことがある。この人たちがカレンを支え育ててきた。それは確かだ。


 どちらも本物で差なんかない。

 お互いが、親だと思い、子だと思うなら。

 それは家族と呼べるはずだ。


「だから、カレンちゃん。あなたが自分を責める必要はないのです。責められるべきは隠していた会長ですし、もしもの時は、ユウくんが責任をとってくれるそうなので、心配することなど何もありません!」


「いや、俺言ってないですよね? それ」


「細かい男ですね。いいじゃないですか。カッコつけたいなら最後までやりきるべきですよ? それに言葉に責任を持てと言われましたよね。それは、嫁に──」


「──もう黙ってください。お願いですから!」


「じゃあ、ちゃんと自分で言いなさい」


 すごく不満顔だが黙らせるしかない。

 喋ってもらったのは大変助かったが、あと喋ることがあるとするなら全部余計なことだからだ。


「そういう訳だ。カレンが諦めないなら、二つの世界間を跨いだって俺も手伝うから。俺自身、全然知らなかったんだけど、親父は異世界関係の仕事をしてるらしい。今回無茶を聞いてやったんだ。カレンのことを調べるくらいはやらせてやる。だから──」


「──後はカレンちゃん次第です。あなたはどうしたいんですか?」


 マナさんにやり返された。

 大事なところで台詞を奪われるとは。

 ニヤニヤしているからわざとだな。


「マナは、別にお母さんが二人いたっていいと思いますよ? どちらか一人を選ばないといけないなんてことはないんですから。そうですよね?」


 二人いたっていいか。

 とてもマナさんらしい言い方なんだろう。

 でも、両親ともに頷いている。


 そうだな。決めなきゃいけないようなもんじゃない。


「その通りだよ。あんたが忘れてたことが酷いなんて、あたしたちは思わない。小さかったあんたには仕方なかったんだよ」


「そうだ。その魔法の力があれば、なんだってできるし、何処へだっていける。それは、その為に得た力だろう」


 後は任せてしまっていいだろう。何もしてない気もするけど、それならここから巻き返すだけだ。

 どうやら、やらなきゃいけない事が出来たからな。


「マナさん。俺、この村守りたいんですけど、どうしたらいいですか?」


 やりたい事かもしれない。

 誰かのために。違うか、自分のためにだ。


 足りないものは、自分のためにやるってことでいいだろう。自分のためにこの場所を守りたい。

 これならやめろとは言わないし、誰のせいにも出来ない。


「……本気ですか? 数が数です。逃げ出しても誰も責めませんよ」


「本気です。それに、自分だけ逃げられませんよ。何せ勇者らしいので」


「分かりました。会長のところに行きましょう。個人的には協力してあげたいですが、その……これ以上、勝手なことしてるとですね……あとがヤバい。ですので、自分で会長を説得してくださいね?」


 何をした者が勇者と呼ばれるのかは分からないが、そう呼ぶ人がいて、それだけの力があるのなら。


 ──俺は俺を試してみよう。


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