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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
28/337

 侵攻 ③

♢17♢


 多勢に無勢。勝ち目など無い。

 勝ちの目がないサイコロを転がして何になる。

 出目がどうとかいう次元ですらない。

 サイコロを振るまでもなく、結果は見えているというのにだ。


 それなのに……。


「いいか、もう一度だけ言う。敵の数は五百。その内の百は人形だ。残りも全員が魔法を使う。これを聞いて、どうしたら戦うなんて言えるんだ?」


 ここへはマナから聞いたことを伝えに来たはずだった。逃げろと。村を捨てて生きろと。

 だが、話はさっきから平行線のまま……。


「なら、儂も同じ台詞を言おう。儂らは逃げん」


 何て話の分からない奴だ。

 まったく忠告を聞き入れやしない。


「正気かジジイ。老い先短いのを悲観して死ぬにしても、やり方は他にいくらでもあるだろう。賢く生きろよ」


「お前は変わったな」


「……現実を見ろと言ったんだ」


 時代が違う。歯向かうことすら無意味。

 まともに戦う事すら出来やしないんだ。


「儂らにはこの村が全てだ。今さらどこに逃げる? お前が匿うと言っても限界があるだろう」


 ジジイの言葉に、他の連中からも賛同の声が上がる。こいつらも全員、ジジイと同じ意見とは。呆れ果てるしかない。


「……なら、わざわざ殺されるってのか? 逃げなきゃ、村ごと皆殺しにされるんだぞ。何も馬鹿共の道連れで死ぬことはないだろう」


 急な侵攻。今回のこれは、貴族の取り巻きの人間たちが馬鹿をやった結果だろう。そんな奴らのために死んでやる必要などないだろう。


「だから、戦うと言ったんだ。むざむざ殺されてやりゃしない。死ぬのは貴族に一矢報いてからだ」


「ジジイ……当てがあって言ってんのか? お前の妄言には付き合えない。虚勢をはるのも大概にしろ」


 この年老いたジジイの、いったいどこからこんな自信がでてくる。未だに自分は昔のつもりでいるのか。それは過去の栄光でしかないと分からないのか。


「当てか。無論、当てならあるぞ。儂の目の前にな」


 そう、ジジイは俺を見て言いやがった。

 こんな奴しかいないのか?

 何で。こうも愚かでいられる。

 どうして。そんな可能性の無いことを信じられる。


 このジジイにしても……ユウにしてもだ。


 俺には、希望などというまやかしを信じ、触れれば壊れるような脆い理想を語り、見たくないと現実から目を背けているようにしか思えない。


 世界には希望も理想もなく、あるのは残酷な現実だけ。それが、俺が得た真実だ。


「皆……悪いが二人にしてくれんか? 時間が惜しい。此奴は儂が説得する。女子供にはいつでも逃げられるように用意させてくれ。戦うものは準備急げ」


「「──応」」


 イかれてる。戦力差を理解することすら出来ないのだろうか。戦って死ぬ事に意味など無いとすら分からないのだろうか。


 それに、たとえ今向かって来ている奴らを退けたところで、貴族が出てきたらどうするというんだ。

 貴族が直接出てきたらどうしようもないんだぞ。


「何故、偽名なんて使ってる?」


「…………」


「答えぬか。ならば聞くまい。ただな、一度世界を救ってみせた人間が目の前にいて、それに期待するなと言うのか?」


 俺がやったわけじゃない。

 アイツに付き合っていたらそうなっただけだ。

 やろうと思ったわけでも、やりたかったわけでもない。それに……。


「ジジイ。アンタの言ってる奴はとうの昔に死んだんだ。そんな奴は、もう世界のどこにもいやしない」


「それが答えか。なら、商会とは何のための組織なんじゃ? 貴族のいいなりに動いてる訳ではあるまい。衝き動かす何かがあるんじゃろ?」


 俺は、誰にも何も語るつもりはない。

 これは俺だけのものだ。


「そこまで死にたいと言うのなら勝手にしてくれ。俺たちは手を引かせてもらう。せいぜい悔いが残らないように死ぬんだな」


 俺はこんな所で死ねわけにはいかない。

 やっと道筋が見えてきたんだ。もう少し、あと少しで手が届くところまで来たんだ。ここで台無しにされてたまるか。


『…………本当にそれでいいの?』


 ユウを貴族にぶつけるのは、まだ早い。

 十分と思う奴もいるだろうが、まだダメだ。

 貴族を一匹二匹を殺せればいいわけじゃない。

 魔王まで、たどり着いてもらわなきゃならない。


 いくらユウでも、今戦っては楽勝とはいかないだろう。リスクは減らせるだけ減らす。

 魔物相手にでも経験を積ませればいいだろう。それには時間が必要だ。今すぐには無理だ。


 ──いや、何を考えてるんだ俺は?


「人間は簡単には変わらんよ。ここで、儂等を見捨てるお前でもあるまい。カレンのことでも分かっておった。そこにつけ込むようで申し訳ないが、もう一度、この村を救ってくれ。頼む。この通りだ」


 そう深々と頭を下げられる。

 だが、何と言われようと手は貸せない。


 シナリオにない戦いなどする用意はない。

 この村を見捨てて、シナリオ通りに事を進める。

 それが間違いのない選択肢だ。


『何もせずに見捨てるの?』


 不意に、俺に語りかける誰かの声が聞こえた気がした。幻聴か、あるいは化けて出てきたのか。どちらかは知らないが、懐かしいものであることだけは確かだ。


『──そんなヤツじゃないでしょう』


 どうしろと言うんだ。勝算なんてあるのか。

 アイツなら……何て言うだろうか?


 不利な状況の戦いなんていくらでもあった。それを切り抜けこられたのは、周りが優秀だったからだ。先導するヤツがいたからだ。


『違うでしょう。諦めなかったから。抗い続けたから。だから私たちは、無理と言われたことだってやれたのよ?』


 俺は……。


『あなたは今でもそれを続けている。なら、分かるでしょう? どうするべきなのか。このくらいで諦めるような男じゃないはずよ』


 ずいぶんと懐かしい声が聞こえた。

 あの魔道書をカレンに見せられたからだろうか。


「俺は利己的な理由でやってるんだ。商会もその為の手段にすぎない。利用できるものは全て利用する。それがなんであれな。ジジイ、一つお前の口車に乗ってやる」


「何をするつもりだ?」


「──試すのさ。これから世界を救ってもらわなきゃならない奴を」



 ※



 賭けてみよう。

 試してみよう。


 果たして目論見に至れるのかを。

 ジジイに唆されたわけじゃない。決めたのは俺だ。


 この地は俺にとっては出会いの場所らしい。

 始まりは、この場所だった。


 ならば、今日は再び始まる日なんだろう。


 勝てば全てを手に入れ。

 負ければ全てを失う。


 やる事は変わらない。


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