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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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カレン ③

 ムサシ村の中は商会という組織のテントはもちろん、村人たちも寝ている時間で灯りは最低限しかなく、門の見張りくらいしか起きている人間はいないのだろう静寂に包まれている。

 そんな真夜中に出歩く人影があった。

 

 人影は「横になっていればそのうち眠れるはず」と思っていた火神(かがみ) (ゆう)という少年。

 だが、ユウはいくら時間が経とうと寝ることはできず、散歩でもしてみるかとテントを抜け出し、結局村をぐるりと一周回って戻ってきただけだった。


(……戻ってきてしまった。変な時間に寝たのは失敗だったな)


 眠気がおきることなくテントが見えるところまで戻ってきたユウに、隠れては現れる月の明かりが道を示す。

 行きは背になっていて気がつかなかったテントのある近くの木の多く生えるところに、奥にと続く細い道があるのが見えた。


 気がつけば「何だろう?」と思うだろうし、未だに眠気がないのだから脚も向くかもしれない。

 そうやって一周回ったはずの村の中で、まだ訪れていない場所に向かってユウは歩いていく。


(何かあるな。こんなふうに見えないところに作るものなんて……誰かいる?)


 再び雲に隠れた月により木の向こうは開けた場所で、何かが複数立っているようだとしか見えなかった。

 しかし、真っ暗な静寂の中で微かに人の声が聞こえた。

 声に気づいたユウは近づくのをやめ木の陰に入り、声がした正面の様子を伺う。

 間もなく隠れた月が再び顔を出し、ユウは自分と同じ髪の色をした少女の姿を視界に捉えた。


「──カレン。こんなところで何を、してるんだ……」


 ユウはカレンに近づくにつれ複数立つものが石だと気づき、間隔を空けて並ぶそれらはまるで墓標のように見えた。

 加えて目につかない場所にあることも合わせれば、ここが墓地であることにもいきつく。


「ど、どうしたんだ。何かあったのか!?」


 次に湧いてくるのは「どうして?」という様々な角度からの疑問。

 こんな時間に。こんなところに。一人きりで。何があった。といくつも浮かんでくる。

 だが、暗闇の中だというのに一人で座り込み、頬から涙が流れている少女を見てしまえば、とてもではないが冷静なままは話しかけられない。


「キミ、どうして。もしかして私のことを、」


 カレンも「どうして?」と狼狽えるユウに対して思うが、頭のいい彼女は「自分を探しにきたのか」と言うのをやめる。

 代わりに涙をみえないようにして拭い、何でもないのだと平静を装うことにする。


「……カレン?」

「私は大丈夫だから」

「そうか……」


 出会って間もない二人には互いの距離を詰めるための時間も足りず、拭えば消えてしまった涙の理由を尋ねるにも答えるにも関係性が足りない。

 話してくれれば聞くことはできても平静を装われては踏み込めず、昨日会ったばかりの相手に話すには涙のわけは重すぎるのだ……。

 

「変な時間に寝たからか眠れなくてさ。散歩してみたんだけど結局眠気もなくて。たまたま見つけただけなんだけど……」


「そっか。私も眠れそうにないから」


「──やっぱり無理だ。今泣いてただろ。どうしたんだよ」


 だけど、そんな嘘だとわかりきった言葉で納得して立ち去れるなら、ユウは子供たちのところになど戻っていない。

 言いたくないし聞かれたくから嘘を言うんだと理解しても、見てしまったからには関わらずにはいられない。

 きっと何かしらはできるとユウは思うのだ。


「……」

「勝手で悪いけど放ってはおけない。そういう性分なんだ」

「…………」


 ここでカレンを一人にしてしまえば後悔するのは自分自身で、いつまで経ってもその後悔が消えることはないだろう。

 そんな思いがユウをこの場に止め、カレンが勇気を出して重い口を開くまでの時間を経過させる。


「……このお墓ね、私のお母さんのだったの。今まで気づきもしなかかった。違う、忘れてなかったことにしようとしてた」


「えっ……」


「私はキミと同じところからきたんだって。私もマヨイビトだった」


 ユウがカレンとその両親とに感じた違和感は、脳裏でカレンの言葉とゲートというモノの性質と合わさり、結果考えられる最悪の展開として脳裏に浮かぶ。

 親子でゲートを潜ってしまい、元の世界に戻れずに死に至るという、どこにも救いようがない展開が。


 残されたカレンがそのことを忘れようと、なかったことにすることしかできなかったというのが、更にそれが事実であるのだと物語る。

 ユウは自分が聞いたことを後悔するだけの衝撃があった。


「村の中にお墓があるとは知っていても、ここへきたのは初めてだった。私は無意識に避けていたんだと思う」


「……」


「……違う、私は周囲との違和感をずっと感じてた。髪も、眼も、私と同じ人なんて一人もいないって気づいてた。それをずっと誤魔化してきたんだ」


 無理に踏み込んだのが自分なのだから、聞いたことを後悔しようとユウにできるのは聞くことのみ。

 聞き返すこともせず、カレンが喋り続けるうちは聞いてやることだけが今のユウにできることだろう。

 聞いているユウが重いなら、話しているカレンはもっと重いのだから。


「時々ね、夢を見るの。こことはまるで違う景色の夢を。その夢の中の小さい私は女の人に手を引かれてるの。歩きながら女の人に食べたいものは何かと聞かれ、私が答えるとそれじゃあパパと同じだと笑われてしまう。そんな夢……」


 もう単なる夢ではなくなってしまった夢という記憶。

 顔も思い出せない母親を思い返す度に涙が流れ、夢だったらいいのにと、嘘だったらいいのにと思わせる真実。

 カレンのいっとき取り繕っただけの平静は剥がれ落ち、再び溢れ出した涙が流れていく。


「夢だったらよかったのに。本当のことを語られてしまったら、私は認めるしかないじゃない。ごめんね、こんなつもりじゃなかったのに……」


 カレンを孤独(ひとり)にしなかったユウにできたのは、自分の胸に顔を埋めて泣くカレンをただ見ていることだけ。

 一人では朝まで止まることがなかった涙を僅かばかり早く止めただけ。何もできない己が無力を知ることだけ。

 やはり子供たちのところに戻ったのと同じく、酷く愚かな行為である。


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