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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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カレン ②

「──おや、誰かと思えば珍しい客だ。お前は十年経とうと大して変わらんな、小僧」

「そういうアンタはこの十年でさらに老いたな、ジジイ。笑えるくらい見る影もない」

「……相変わらず口が悪い奴め。これが普通だ」


 これは会長という男がムサシの村に到着した際、挨拶してくると言って向かった村長という老いた男の家での会話。

 この村を作った村長という老いた男には知られていないことだが、今と昔でそれぞれ会長という男との関係がある。


 どちらもが今よりずっと若い頃の戦いの中での関係性。

 この土地に村を作る際のあれこれの中での関係性。

 逼迫した食糧事情に対する今回の関係性と、もはや数十年に渡る付き合いが男たちにはあるのだ。


 しかし今回の食糧の配給も顔を合わせることなく行っており、こうして直接顔を合わせるのは実に十年ぶり。

 身寄りのなかったカレンをこの村の夫婦に託した時以来の再会である。


 そして、今日という日に偶然この村を訪れることになった会長という男は、幼い頃の面影からカレンに気がついており、それを尋ねるために別に顔を出す必要もなかった村長のところに現れたのだ。


「──急なことだったにも関わらず食糧の融通を利いてもらい助かった。村を代表して礼を言う」

「別にお前のためにやったわけじゃない。紙切れ一枚の自分の思いが伝わったなんて勘違いするなよ。それよりだ。一つ聞きたいことがある」

「わざわざ顔を見せたからには何かあると思ったが、聞きたいこととはカレンのことか?」


 村の事情も国の事情も把握している、商会という組織を率いる男の知りたいことなど、思い当たるのはそれだけだったから村長が推測するのは何も難しいことではなかった。

 村長はこの村に来てからのカレンのことを、わざわざ尋ねに現れた男に話した。

 村の子供たちと同じように親の元で幸せに過ごしていると話した。


「──そうか。それならいい」

「だがのぅ、小僧よ。いつまで本当のことを言わずにいるものかと思うのだ。儂が生きてるうちには真実を伝えなければならんだろ」

「あの子がそれを望むと思うか? 俺は今更言うべきではないと思う。それにそれはお前と里親の問題だろ。俺を巻き込むな。じゃあな」


 間違いなく今の幸せに亀裂を入れるだろう真実なんて、言う必要はないと会長という男は思うのだ。

 幸せな分だけ真実というものは重くのしかかると男は知っているから……。


「おい、待たんか!」

「俺は忙しいんだ。食糧は融通してやるからもう少し耐えろ。配給が続くうちに方を付ける」

「おい、その男を行かせるな!」


 男は聞くだけ聞いたら会話を打ち切って立ち上がり、呼び止められようと構わず、さっさと外に出ていこうとする。

 それを村長は家の前にいるように指示した見張りに止めるように言うが、そんなことで男が脚を止めることはなかっただろう。


「邪魔だ」


 だが、思わぬ再会が起きた。

 家の前に見張りがいて余計な人間が中に入れないようになっていては、村長に用がある人間は出直すことを余儀なくされていた。

 しかし他が出直していく中で一人だけ、会話が終わるのを外で待っていた人間がいた。初老の男だ。


「あ、あなたは……。あの時の」

「お前……」


 家の前で顔を合わせた男たちは互いに見覚えがあった。

 片方は年月の分だけ老いていたが男はひと目で気づき、もう片方も変化のない姿にひと目で気がついた。

 まさかもう一度会うことがあるとはどちらも思ってすらいなかったが、今日という日に再会を果たした。

 それは偶然などではなくそうあるべきこととしてだ。きっと何も偶然などではないのだ。


「おぉ、いいところに来た。呼びに行っていては間に合わないところだった」

「村長。どうしてこの人が?」

「たまたまと言いたいところだが、そうではないかもしれん。娘に本当のことを伝えるべきかと言っておったな」

「えぇ、いつまでも子供は子供ではいないですから……」


 そして村長と父親に押し切られるかたちで話は決まった。いつかはカレンに話すべきことを今日という日に話すと決まった。

 その結果として男はカレンに真実を告げ、本当のことを言われてしまったカレンは涙を流して飛び出していってしまったのだが……。


◇◇◇


「──追いかけてもらえるか。俺にはその資格がないのでな」


 カレンを追いかけようと思ったが、会長という男はそれをやめた。

 男には彼女を追いかけるだけの資格も、追いかけたところで言うべき言葉も見つからなかったから。


「あなたに追いかける資格がないと言うなら、私たちにも資格はありませんよ。この十年であの子はずいぶん明るくなった。しかしそれは私たちに心配されまいとして、本当は気づいていた真実から自分を守るために、そう振る舞っていただけだった……」


「ずっと魔法の勉強に打ち込んでいたのもそのせいだったんだね。他のことに集中することで母親のことを思い出さないようにしてたんだ。あたしはお母さんなんて呼ばれても、何にも気づいてやれなかった……」


 周囲との違いを自分一人で抱え込み、他の誰にも気づかれることなく過ごすということは、それを知らない人間からしたら察することすらできないことだろう。

 カレンはそれを十年という長い間続けてきた。


 どれだけ幸せだろうと違和感は決して消えず、絶えず違和感を感じながらもどうすることもできない。

 一度でも違和感に向き合ってしまえば、幸せが幸せでなくなるだけでは済まない。

 なら、違和感を誤魔化しながら続けるしかないではないか……。


「時折、あの時の子はどうしているだろうかと考えることはあった。ムサシの国の支部から離れたこの村のことは報告させていたし、今回の食糧難もおかげで早く知り動くことができた。だが、もっと早く訪れるべきだった。どうせ話すならもっと早くそうしてやればよかったと今更になって思う」


 大人たちはカレンのことを思って、真実を話す機会を少しでもカレンが大人になってからと考えた。

 そして時が経って今が幸せそうに見えるから、十年経ってカレンが大人になったから本当のことを話した。

 真実がどれだけ残酷だろうと、それに代わるものがあるはずだからと話した。


 だけど、真実が与えたのは結局何も変わらぬ残酷さだけ。

 どれだけ経とうと消えない傷を結局与え、誰かしらの悪者を必要とするだけだった。

 なら、大人たちはどうすればよかったのだろう。

 彼らもまた十年という時間悩んでいたというのに……。


「──先ほどお前が言った通りだ。これは偶然じゃない。今日という日を境に世界は大きく動くだろう。それには異なる場所から来たユウ。同じところから来たカレンも無関係ではいられない。これはそういうこと(、、、、、、)なんだろう」


 男は誰も悪くはないはずなのに、後悔だけが残る結果に意味を持たせる。

 たとえ真実を伝える選択を間違えたとしても、遺された魔導書を託すという選択に間違いはなかったから、そこに意味を見出せば後は繋がっていく。


 男の脳裏には魔導書をカレンに渡した際の、「すごく頭のいい子です。これは魔法を教えたらスゴイことなりますよ! だから是非ともマナの弟子に、そして妹に!」という青い魔法使いの言葉が浮かび、その通りになった今がある。


 今を変えるだけの力が気づかぬうちに育っていた。

 後悔を。過去を変えることはできないが今を変えることは可能で、変わった先には必ず今以上の幸せがあると男は信じる。

 その幸せは失くしたものを思い出しても大丈夫なくらいに丈夫で、きっと残酷の真実をも乗り越えさせると信じる。


「貴族に対抗するための駒を得た。俺はそれを使い貴族の支配を終わらせる。そのためにはカレンの協力も必要で、あの子の力はそのためのものだ」


「……本当ならそんなことに巻き込まないで欲しい。しかしあの子には力がある。本人が望むなら私たちにはあの子を止められないでしょう。その時はあの子をどうか頼みます」


「だが、あの子を巻き込む気はなくなった。俺はそんな自分の気持ちに驚いている。カレンが戻ったら後は頼む」


 そう言い残して会長という男は家から出ていった……。


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