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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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カレン

 火神(かがみ) (ゆう)という少年が眠れずに夜の村に出ていくより前。

 少年たちがカレンという少女の家から、話があるからと追い出された後に話は戻る。


 そのカレンへの話というのを勧誘だとスタークは言い、ユウはそうかと納得していたが実は違うのだ。

 二人を追い出した会長という男は、その程度の話なら誰を追い出すことなくする。

 話を聞かれたくないから男は邪魔者を追い出したのだ。


 十年ぶりにムサシの村を訪れた男と、今日の今日まで商会という組織を悪だと信じていた少女とには、ある関係性が存在する。

 ユウが感じたカレンに対する違和感がその正体だ。


 明らかに周囲から浮いた容姿。似ても似つかない母親。

 そして、魔法の素養がない両親からできあがるはずがない魔法の才能。受けるべき魔力の制限を受けていない不思議。

 まるで世界を救いに来た少年たちのように、彼女もまた異世界の理から外れた存在なのだ。

 これは彼女がなんなのかを明確に示している……。



「──カレン。君は誰に魔法を習った?」


 一度戻ってきた母親が再び家を空けたため、家にはカレンと会長という男の二人きり。

 自分だけに話とは何事なのかと緊張していたカレンに、男は暇つぶし程度の質問を投げかける。


「それは……」


 しかし、魔法の師匠などいないカレンは答えに困る。

 魔法とは習うことが当たり前で、独学で覚えたなんて言えるはずもなく。本当のことを言ったところで信用されるわけもないから。


「ちょっと待っててください」


 だけど、今日という日に信じていた悪は間違いであると知り。

 信用とはいかないが少なくとも敵ではないと知った男になら、本当のことを言ってもいいかとカレンは思った。


「信じてもらえないかもしれないけど、私はこの魔導書を読んで自分一人で魔法を覚えました」


 カレンが部屋から持ってきたのは、どちらの表紙にも何も書かれていない魔導書だという本。

 大事にされているのだろう本には目立つ汚れもなく、カレンが手にした時から変わらずにあるものだ。

 だが、著者名すら書いてない本で魔法を覚えたなんて言えば、嘘だと言われるのが普通だろう。


「ずいぶんと綺麗なまま残っているな……。子供に魔法を教えるんだって息巻いて書いた割に、内容がどう見ても子供向けではなくてな。後から書き足した落書きで本人はフォローしたつもりだったが、子供には難しかったんじゃないか?」


 しかし手に取りはしたが開くことなく、会長という男は本の中身を言い当てる。

 手書きのこの世に一冊しか存在しない本で、落書きのようなアドバイスが散りばめられたおかしな本が、どういう目的で書かれてどうしてこうなったのかを男は語る。


「えっ──」


 それは読んだ人間にしかわからないことのはずで、カレンは自分が十年間この本を持っていたのを覚えている。

 誰に貸すこともなく、他の誰に読ませたこともないと知っている。


 それなのに男が本の内容を知っている理由に、幼い頃の記憶が合わさりカレンは自分で辿り着く。

 自分はちょうど十年前にこの本を誰かに貰って、その誰かは自分と同じ年頃の女の子を連れていて、以来一度も会ったことはないが十年前というキーワードで全てが繋がっていく。


「……私は貴方のことを知ってる。十年前にこの村で、貴方に私はこの魔導書を貰った。一緒に青い髪の女の子がいて、貴方はあの時から姿が変わってない? 私は、」


「そこまでにしよう。俺たちだけで話せることは何もない。君の両親が揃ってからでないと何もだ」


 男が思った以上にカレンは賢く、素振りもなかったはずが少しのきっかけで次々と思い出し、真実にと辿り着いてしまったことには驚いた。

 男ですら面影を感じるくらいで、村長と話すまでは半信半疑だったのに、そこまで鮮明に記憶があることにはカレンを黙らせるしかなかった。


「「……」」


 そのあと少しして、父親を呼びに行っていた母親と父親が戻り、どちらもが浮かない顔をしてテーブルにつく。

 両親の様子から二人ともが話の内容に心当たりがあるということをカレンは察し、辿り着いた真実の信憑性が彼女の中で増していく。


「カレン。実は……。実はな……」


 父親は言葉に詰まり、母親は何も言い出せない。

 両親にとってもいつかはと思っていた真実が急に来てしまえば、それを伝える言葉にも詰まるだろう。

 カレンが幸せそうだったほど真実なんてと思ってしまうだろう。しかし、カレンに真実を言うと決めたのは父親なのだ。


「私が話しましょう。お二人は何も悪くないのですから、どうぞその子の隣に」


 父親を見かねて恨まれる役を代わる男は、本当のことなんてわざわざ言うつもりはなかった。

 村長のところで顔を合わせた父親と、男がジジイと呼ぶ村長に押し切られて男はこの場にいるに過ぎない。

 それでも、親たちに恨まれる役をやらせるくらいなら自分がと男は役を代わる。


「カレン。君は本当の(、、、)両親のことを覚えているか?」

「ど、どうしてそんなことを聞くんですか。私の両親はこの二人です。それでいい。それでいいじゃない!」


 カレンは自分は両親のどちらにも似ていないと昔から思っていた。髪も眼の色も異なることに違和感を感じていた。

 だけど、その違和感は自分以外の全ての人間に対して言えることだったから、カレンは違和感などないと自分を誤魔化してきた。


 違和感の先には何か悲しいことがある気がしたが、自分を誤魔化してそこに踏み込まないで、今日まで上手に生きてこれた。

 しかし今日という日に、カレンは自分と同じ髪と眼の色をした、マヨイビト(、、、、、)だという少年と出会ってしまった。

 

 本当は少年がマヨイビトだと聞いた時、カレンは心臓が止まるかという思いをしていた。本当は少年にこそ尋ねたいことがあった。

 しかし、それをしてしまえば自分をもう誤魔化せなくなるからできなかった……。


「もういいから、終わりにして。これ以上何も言わないで」

「悪いがそれはできない。俺は何も覚えていないなら酷だと思っていたが、君は本当は自分のことに気づいていたのだろう?」

「やめて、やめて、やめて……よ」


 カレンが求めていないなら両親はここで躊躇っただろう。

 この先もずっと隠してはいけないとわかっていても、この瞬間を守るために隠す選択をしただろう。

 だが、残酷だろうと真実を男は口にする。この家族のために。


「君はマヨイビトだ。十年前。この村を訪れる直前に俺が保護していた。君は母親とともにこちら側に来て、」

「やめて、聞きたくない! そんなわけない! だって……それじゃ……」


 いくら口で言葉をさえぎろうと、カレンの頭の中では最悪の結末が浮かんでしまう。

 この場にいてはダメだと警報が鳴り、語られる前にここから逃げるようにとカレンに訴えかける。


「──カレン! いつかは話さないといけない事だと思っていた。今日、この人が再び現れたのは偶然じゃない。そう思うんだ」

「あの時、もう少し早く君を見つけていたら。君だけでなく君の母親も助けられた。だが、間に合わなかった……」


 カレンは「いつかは」と言った父親の言葉に、立ち上がり飛び出していこうとするのを止める。

 いつかは真実を言うつもりだった父親に絶望感を感じて振り返ると、その父親と男とが「すまなかった」と自分に深々と頭を下げるのが見えた。


「それで私はどうすればいいの? 貴方を恨めばいいの? お父さんお母さんを恨めばいいの? ……違うよね。一番酷いのは何も知らないふりをしてきた私だ……」


 カレンは嘘を最後まで隠してほしかった。

 自分は助かっているし、本当の子供のように育ててもらったし、誰も何も言わなければ自分をきっと誤魔化し続けられたから。

 きっと母親のことを忘れたままでいられたから……。


「あの時の俺には二つの選択肢があった。母親を亡くした君をこちらに残すか、あるいは元の世界に帰すべきか。だが、向こうに連れて行くことは簡単でもその先が問題だった」


「やめて……」


「向こうで君の血縁を探すのは当時の俺には難しく、こちらでも大きな仕事をいくつも抱えていて余裕もなかった。そこに子供を亡くした夫婦がいると聞かされ、それならその夫婦に子供を託そうと決めた。全て俺が決めたことだ」


「もう、いいから……」


「親のいない子供ほど不幸なものはないという俺の考えが招いた結果だ。二人は身寄りのない子供を引き取り育てただけ。それだけだ。恨むなら俺を恨んでくれ」


「恨むなんて、そんなことできるわけないじゃない!」


 カレンは涙を溢れさせ、暗くなった外にと飛び出していった……。


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