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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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商会のお仕事

 一度に話を聞くつもりが異世界の歴史と地理だけで頭の中はいっぱいになってしまい、時間も思った以上に消費してしまい、貴族という存在についてと具体的な対策まで話はいかなかった。

 だけどムサシの村への対策は、いま商会がしていることができることの全てだとは理解できた。

 簡単には変えられないからこその支援なんだと知ったから……。


 その上で、自分が目指すべき世界を救うという目的への第一歩は、商会の支援が続くうちにこの国の貴族を退治すること。

 一日でも早く戦う力を身につけて、貴族の支配を一日でも早く終わらせることだ。

 そのためにはどうすればいいのかも一から考える必要はなく、ここまでの出会いによって知らぬ間に道筋はついていたらしい。


「ユウ、その気なら俺と一緒に来い。商会ならお前の力になれる。一人で一から始めたのでは、世界を救うなんて何年かかるのかわからないぞ。悪い話じゃないはずだ。考えてみてくれ」


 この会長の申し出は渡りに船。断る理由がないどころか、本来ならこちらから頼むべきことだろう。

 何より異世界の地理を知ったことで明白になった、最初から何も上手くいっていない俺の異世界行きは、会長との出会いによって本来の流れと変わらないものになったはずだ。

 俺は導いてくれる人を得たし、異世界の情報も下手すると商会の方が持っているのかもしれないし。

 結果としてだけど、悪くない出だしになったと思う。


 そして残る必要なものは貴族に対抗するだけの力。だが、それはおそらくもうある(、、)

 自身の向こうとの違いは片鱗だけど実感している。後はそれを自分で使いこなせるようになればいい。


 明日からスタークの手伝いでもして、魔物を相手にでもすれば経験にもなるし訓練にもなる。ステータスとやらがどのくらいのものなのか検証して見極められるだろう。

 何も見えなかったやることは短時間でずいぶん見えるようになったし、わかりやすくなったな……。



「──よう、新入りくん。今日の寝床はどうだね!」

「スターク。 ……どうって言われても、普通?」

「おいおい、屋根があって黙っていても飯が出てくるんだ。すぐにわかるようになるだろうが最高の間違いだぜ」


 今日の寝床として立てたテントに横になって頭の中を整理していると、テントの設置を一切手伝わなかったスタークが現れた。

 自分の寝床の用意が新入りという扱いらしい俺の初仕事だから文句はないが、できあがった後に現れた人間から明らかに煙草の匂いがしていると腹は立つな。


「今日はもうやることはないぜ。あとは飯食って寝るだけだ。明日は街に馬車の荷を届けて、その帰り道に近くの支部に寄っていく」

「ああ、そういうのは任せるよ。新入りだし」

「で、ちょっと聞きたいことがあるんだが。少し話いいか?」


 俺からではなくスタークからの質問とは意外だったけど、内容を聞けば世話になるスタークには話しておいた方がいいだろうことだった。

 異世界に。こちらに自ら来た訳と、世界を救うという目的について。

 知ってることだけになるが俺が話せることと、それに加えてスタークに会うまでの経緯を俺は話した。話したのだが……。


「──なんだそりゃ!? 女に頼まれたから。そんな理由で、こんなとこに自ら来るのか! わ、悪い。だけどな、笑うなってのは無理だ!」


 更紗(さらさ)に世界の危機だと言われたのを話した辺りから様子が変だと思っていたが、我慢できなくなったのかとうとう笑い出しやがった。

 大層な理由があるわけではないし、危機だって目先の危機しか理解していないが、それでもこんなに笑われることはないと思う。二度と頼まれたからなんて言わない。


「真面目な話をしてんのに笑いやがって……」

「わかりやすくていいじゃねえか。女のためだろ。カッコつけるだけにしては内容がアレだがな。実を言うと、金のためだとか言われたらどうしようかと思ってた」


 そういえば、俺たちの中に成功報酬を求めた奴がいるとスーツの男が言っていたな。

 確かに命が関わる以上は無償ではできないことかもしれないが、世界を救うってことに自分から値段を付けるなんてどういうつもりだ。


 そいつは俺より事情を知り得たはずなんだから、その分だけ危機についても知っていたはずだし、どのくらいの危険があるのかわからないはずもない。

 知っていてなおそんなことを言えるくらい余裕があるのか、報酬そのものがそいつの理由なのか……。

 一度、そいつを含めた他の四人に会ってみたいな。


「今ので思い出したんだけど、俺の他の奴がどうなったのかわかるか? 光の球は他に四つあっただろ」


「目下捜索中だ。ここから北に二人、南に二人と飛んでいった。真下のオレから見えたのはそんなところだ。真っ逆さまに落ちたお前さんは見つけやすかっただけで、他は少し時間がかかるだろうぜ」


 ……俺だけが動くことなく真っ逆さまに落下か。まぁ、ついたところも聞いてた狭い島じゃないもんな。

 しかしそうなると更紗の声は直前まで聞こえてたし、あの落下は押さえつけられるような感覚があった。

 あれは事故ではなく故意にやられたのか?


「──ったく、会長も会長だぜ。表から帰るなり全支部に光の球を追って保護しろだもんな。こっちは仕事中なのにそっちが最優先だとか言うしよ!」


「なぁ、さっきも表からって言ったよな。どういう意味だ?」


「あぁ、そういや会長は言ってなかったな。会長は表と裏。お前さんたちの世界とこっちとを行き来してんだ。あの格好は向こうから着てきたヤツだぜ」


「──はぁ!? 行き来ってそんなことできるのか。どうやって!?」


 かなり衝撃的な内容だが、こうして自分がその異世界にいるんだから逆もあるだろう。マヨイビトの件もあるし不思議はない。

 だが、それにしても行き来しているというのは衝撃だ。

 ──いつから、──なんのために、──どうやって。


「どうやってんのかはしらねーけど、何をしているのかはわかるぜ。会長は向こうから技術や物なんかを持ちこんでる。例えば……この銃なんかがそうだな。これは元々あった技術じゃない。今となっては珍しくもないけどな」


 魔法が普通にある異世界で銃なんて武器の必要性が出てくるのは、さっきの歴史が間違いなく関係している。

 人間が失った魔法の力を武器で補うためだ。

 会長は俺たちの世界からそんな技術を持ち込んで、商会という持ち込んだ技術を広められるだろう組織を率いている。

 それは下手すると今回のことに会長は関わっているのではないか? そうだとしても何の不思議もない。


「──俺が今ここにいるのにも会長は関係あるのか」


 何も、偶然なんかじゃないのかもしれない。

 転移直後の落下から故意で、そこからここまでも全てが予定通りなんだとしたら、手のひらの上どころの話じゃない。

 これは恐ろしく周到に用意されているシナリオの可能性もある。

 それなら俺を(、、)なのか。五人のうちの誰でもよかったのか……。


「本当のとこはわからないな。だがな、昨日のお前さんの現れ方は普通じゃなかった。あれは大がかりな魔法によるものだろ。会長にも、会長に同行してた魔法使いにもあんな真似はできないだろうな。オレに言えんのはこのくらいだ」


「そうか……」


「つーか、会長に直接聞けばいいじゃねぇか。別に普通に答えてくれると思うぜ」


「それはそうなんだけど……。そういや、会長はカレンに何の話があるんだ? 俺たちが追い出されてからずいぶん経つけど、あの人まだ戻ってきてないよな。もう日が暮れてるぞ」


 カレンに話があるからと会長に追い出されて、テントを立てたりこうして話したりしているが、会長の姿はあれから見えない。

 今日会ったばかりのカレンに話というのも、おかしいと言えばおかしい話だよな。


「あー……ウチに勧誘してんじゃないか? 魔法を使ったのを見たのは一度だけだがありゃかなりの腕だ。言い方は悪いがこんな村じゃ、あの力は役に立たないだろうしな」

「なるほど。それは思いつきもしなかった」


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