イワキの地を目指して
次なるお話はスメラギの治める地までと、そこから白銀の地に向かうまでのお話です。
どちらもがスメラギの治める地での出来事ですが、果たして楽な道のりなのかは分かりません。
コウズケの国を出て五日目。商会の本拠地のあるイワキの国を目指しているが、まだその地へと入る事はできていない。
魔物を倒しながら進むというのは、考えられた以上に大変だった。ムサシの国では、魔物の掃討に多数の援護があった。コウズケの国では、自分と同じように魔物を引き寄せる黒崎がいた。
しかし、そのどちらもが無ければ魔物全部が自分に向かってくる。この中で魔物を倒しながら前進するというのは、仲間がいても中々に無理な宿題だ。
ただ目的地に向かうだけなら手こずることはなかったろう。だからこそ、歩みを遅くしているこの行為が無駄になる事がないように、経験を全て血肉に変えなくてはいけない。
それともう一つ。俺たちとは別な仕事を与えられたスタークが抜けたのも痛手だ。地理に長け、魔物にも詳しく、気のいい男が抜けた穴は大きい……。
それを実感しながら俺たちは、今日もイワキの国を目指し北上を続けている。
「ここら辺がいいな。よし、ここにするよーー!」
今日の馬車を停めておくところ決めたらしいリックが、手早く馬車を移動させて手綱を手放し、代わりに弓を手に取る。
「──それじゃあ今日もいってみよう!」
そして、お決まりとなってきた開始の合図を、馬車から飛び降り元気よく口にして、予め決めてあった今日の狩り場へと移動を開始する。
次いで自分も魔物除けのある馬車から降り、リックに続く。流石に森の中だろうと草原だろうと、移動にも慣れてきた。こんな事にも毎日の積み重ねを実感する。
「悪いな。毎日、中々前に進まなくて……」
五日目ともなれば、魔物退治に連日付き合わせてしまっていることに申し訳ない気持ちになる。
五日。普通に進んでいたらとうにイワキに入っていないとおかしい日数であり、下手したら商会の本拠地まで到着していてもおかしくはない日数でもあるんだから。
「何を今更言ってんだよ。魔物がいなくなって困る人はいないけど、魔物がいて困る人は大勢いるんだよ? で、ボクたちが頑張って困る人はいないんだ。頑張ろうよ! それに、これはある意味訓練なわけだろ? ちゃんとこなすにこしたことはないと思うよ」
サバイバルに慣れているはずがない俺とカレンへの訓練。会長からのこの宿題はその意味合いも間違いなくある。
野宿に近い生活では、今までの普通とは違うものが求められる。水も自分で確保しないといけないというのは、これだけで水道があるところから来た俺にはかなりのサバイバルだ。
「そうだよな。前進はしてるし意味だってある。悪い、変なこと言った!」
「謝んなってー」
「ああ、今日で終わりにするつもりでいくぞ」
「実際、終わりは近いんじゃないかな? カレンが偵察から戻らないのがその証拠な気がするけど」
リックがいい場所を見つけるまでの間、カレンは空から辺りの偵察に出ている。地形の把握と見える範囲の魔物を確認するのが目的だけど、そのカレンの戻りが遅い。
「……何かあったんじゃないよな?」
「──ないない。ユウは心配性だねー。カレンはかなり高いとこを飛んでるし、遠見も上手だ。飛ぶような魔物もここらにはいないから、魔物と戦ってるとかではない。戻らないのは別な理由だと思う」
遠見の魔法と浮遊の魔法を使い偵察するカレン。
彼女の魔法は攻撃的なものばかりが目立っていたが、板に付いてきた浮遊の魔法や、偵察には欠かせない遠見の魔法が心強いが、どんなにするなと言われても心配はしてしまう。
「それよりだ。こうしているのに、今日はまだ一匹も魔物が現れない。こっちの方が心配するべきだ」
「確かに……」
昨日までならとっくに、わらわらと魔物が集まってきていただろう。それが今日はまだない。
「おかしいな……。昨日の感じだと魔物はいるはずなんだけどな? ──あっ、カレンが戻ってきた!」
魔物の気配すらないことを不信がり、キョロキョロしていたリックが、カレンの姿を発見したらしい。
「……だけど、なんだかカレンの後ろに土煙が見える。ボクの気のせいだよね?」
「いや、遠見の出来ない俺にも見えるぞ。何かに追われてる? 違うな。低く飛んでいるのは土煙を上げてる奴を誘導してるからじゃないか?」
「結構な土煙だよ。何に追われてるって──」
引き連れてくるのには理由があるはずだ。
待っていてもカレンはやって来るが、こっちからも近づけば合流は速くなる。
「──ユウ!?」
「──リック、行くぞ!」
踏み出した足に魔力の負荷を掛けて加速。一気にカレンのところまで移動を開始する。
「もう、いきなりだな! 少しは打ち合わせしてから動いてよ!」
出遅れたリックが追いついてきたのを横目に見ながら、背中の剣に手を伸ばし引き抜く。
刀身にヒビが入っているから無理は出来ないが、何となく無理をしないといけないような気がする。
「何かは分からないけど地中に潜ったまま移動してる。地中であの速度はかなり速い。土煙から推測して大きさもある」
「あれは背びれか? あの形。まさか鮫……な訳はないよな?」
「──それだ! 砂にいる鮫がいたはずだ。茶色いヤツだって聞いたことが……白いなアレ……」
陸に鮫がいることにも、その身体が大きいことにも驚きしかないが、更に事態は深刻らしい。
見える部分の鮫のヒレと身体の一部は白い。まるで雪のような色をしている。