表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/337

 嘘と本当

 嘘をつく理由があるとするなら、それは本当を隠すため。本当を見えなくするのに嘘で塗り固める。

 けど、その本当すら真実とは呼べないとしたら? 塗り固められた中身すら嘘だったら? その本当はどこにあるのだろう。


『さっすが亮司(りょうじ)くん。やるぅー』


 呪いを斬り捨てた男に対する謝辞。

 演じる必要がなくなったキャラクターは捨てた。

 つまり、これが黒崎 優(くろさき ゆう)と名乗った男の本当。


「……まだいたのか?」


『いんや、もうゲートは越えたよ。声しか伝わんない。それも、もうじき終わるけどね』


「戻ったら覚えていろ。この落とし前はつけさせる」


『ははは、こわいこわい。でもきっと……亮司くんは感謝すると思うよ。鈍りきってたままじゃ、死んでたかもしれないからね』


 目的は達成された。己と誰かと誰かとの目的が。

 それはとても複雑で、一度には達成されないであろう全てを、男は一度に達成させた。


「このくらい鈍っていようとやれたさ。見くびるなよ」


『違う違う、その足元の一番くんじゃなくてだ。本番はこの後だよ。すぐに分かる。お互い生きて再会できたら飲みにでも行こうよ』


一番君(いちばんくん)? そういえばこれは誰だ」


『見覚えくらいあるはずだぜ。いくら役に立たなそうでも。いくら捨て駒でもよ』


 そして男には望まないものがある。それは死という誰にも訪れる終わり。

 その終わりを嘘でも男は望まない。それは誰よりも生の意味を考えるから。


 だから、死ぬはずの捨て駒を助けたのだろう。


「……そうか。最初から役に立ちそうにないとは思っていたが、役に立たないどころか、足を引っ張るほどだったか」


『イラついたからって殺しちゃダメだせ。そいつに価値はない。けど、それは死ぬだけの理由にはならない』


「すでに向こうにいるというのなら、もう手は出せないだろ? 口だけでなんとか出来るか?」


『もちろん出来る。そういうのは得意だ。理由を付けるなら、亮司くんがそこで殺すわけはないってのが一つ。殺す価値もないってのも一つ。後一つはお楽しみってことで! さっき亮司くんのデスクに封筒を置いといた。とりあえず中を見てほしいかな』


 立場のある人間が直接手を下すことはないと。

 必ず置いてきた資料に目を通すと自信があった。

 

「これは……尚更、彼を生かしておく必要がないような内容だな。これでは土神(つちがみ)も黙ってはいないだろ」


『そう。そうなんだ! 死ぬはずの奴が予定通りに死にもせず、面子を汚すようなもんだからな。そんな恥晒しを生かしとくほどウチ(、、)は甘くないんだ』


「手を出す必要がないというのは理解した。彼を土神に引き渡すのが僕のやることか?」


『それじゃあ消されちまうって。普通に警察呼んで、その封筒と一緒に引き渡してよ』


 理解の早さも取るであろう行動も予測済み。

 最も、それは一番合理的なやり方であるとも知っていた。火神 亮司(かがみ りょうじ)がそういう人間だと知っていた。


「それに意味があるのか? 結局、土神からは逃れられない。檻の中でも塀の中でも、逃げ場のないのは変わらないと思うが」


『とっておきの免罪符があれば別だ。流石に封筒の中身のことは知ったこっちゃないが、今回のこれに関しては、この土神(つちがみ) 乃亜(のあ)が一切の責任を負う。ソイツがやらされたって言えば無罪放免。塀の中で安心して過ごせるってわけだ』


「それには僕の証言も含まれてる気がするが?」


『当たり前じゃん。四家(よんけ)の筆頭様が言ったことならって付くのはよ。勘違いしないで欲しいのは、これはお願いじゃないってことだ。既に亮司くんには貸しがある。その貸しを返してくれよ』


 お願いであったなら、亮司は土神を敵に回すような可能性のある選択はしなかったろう。

 言われたままにしたのは、貸し借りという言葉があったからだと思われる。それはこの場でのことではなく、もっと前にあった出来事に起因する。



 ※



「封筒は二つあるようだが……」


『そっちはオマケだ。下手するともう始まってる遊戯(ゲーム)に関する資料だ。知り得た全部をまとめておいた。役立ててくれよ』


「ゲーム?」


『詳しい内容は資料を読んでくれ。もう限界らしい』


「なら、最後に本当の目的を聞こうか。あれやこれやと理由を付け。さも本当のことのように語り。こうして文字に残しているが、どれもが嘘にしか思えない。ノア、本当の目的はなんだ?」


『それは世界を救ってヒーローになりたいってやつに決まってんだろ!』


「嘘をつけ。お前はそんな奴じゃない。目的は(ゆう)だな」


『……だとして、もう手は出せないよな。理由は知らないが、こうでもしなくちゃ接触できなかった。何も知らないのは本人だけだ。亮司くんこそアイツに生きてられちゃ困るのか? それとも逆か? どっちだ……』


「答える義理はない」


『はっ──、なら好きにやるまでだ。火神(かがみ)の秘蔵っ子に風神(かざかみ)の姫。水瀬(みなせ)の魔女にとびきりのイレギュラー。ウチだけどう見ても役不足だったがこれで対等。あるいは一歩先を行くボクが優勢かね? 何人脱落するか楽しみにしてな』


「二人だな。脱落するのは二人だけだ」


『それは優ちゃんと一緒にいる風神の姫か?』


「一人は分からないが一人はお前だ。何をどうしようと起きる事は変わらない。入れ替わろうと入れ替わるまいと結果は同じところに行き着く」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ