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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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異世界の歴史

「──昔、この世界には魔王と呼ばれた男がいた。今で言う貴族たちを従え、魔物を使役し、人間を滅ぼそうとする。まさに魔王だろう」


 これは異世界というところの昔の話。

 その始まりは二百年以上は前のことになる。

 以降二百年もの間続いた、人間と今は(、、)貴族と呼ばれる存在との戦いの話が、異世界の歴史となる。


 異世界というここを語るのに欠かせない貴族という存在が、貴族と呼ばれるようになったのはつい最近のこと。

 この二百年のうちの一割と少しほどの時間でしかない。

 で、二十年と少し前に何があったのかと言えば、人間が貴族との戦いに負けた。だから人間は貴族に支配され今に至る。


 しかしこの歴史には誤りがある。人間は一度は貴族に勝利しているのだ。

 貴族の上に立つ者を。魔王と呼ばれた男を人間たちは討ち、一度は世界を自分たちの手に取り戻した。

 なのにどうして人間は貴族に支配されることになったのか? それはそこにこそ物語があるからだ。

 火神(かがみ) (ゆう)という少年にこれを聞かせる、今は(、、)会長と呼ばれる男の物語が……。


「──長く貴族との戦いは続いたが、魔王を討つことで人間は戦いに勝利した。魔王を討った者は勇者と呼ばれ、この世界で知らぬ者はない存在になった。話はそこからだ」


 魔王を討ちはしたがその瞬間に戦いが終わるわけではない。残る貴族たちとの戦いは魔王亡き後も続いたのだ。

 勢いに乗る人間たちは後の戦いでも勝ち続け、長く魔王の支配にあった多くの土地を人間の手に取り戻し。

 逆に魔王という支柱を失った貴族たちは一人一人と孤立していき、少しずつ数を減らし追い詰められていった。


 人間側には勇者と呼ばれた者とその仲間たち。貴族の側には魔王の懐刀とその同胞たち。

 魔王亡き後に続いた戦いの最後は貴族たちが戦力をある場所に結集し、人間たちがそこに乗り込むという、魔王を討ち取ったのと同じ場所での決戦になった。

 とはいえ戦いの規模は魔王討伐の時よりはるかに小さくなり。勢いのままに貴族を一箇所に追い詰めた人間たちは勝ちを確信し、最大の戦力を最前線に投入して早期の決着を目指した。


 魔王の懐刀。前線に出張ることはないが貴族たちを指揮する、その男こそを人間たちは討ちたかった。

 この男を討ちさえすれば貴族たちは支柱だけでなく、頭脳をも失うことになるからだ。

 そうなれば後はどうにでもなるというところだろう。

 しかし逃げ回りながらも戦力を結集させ、決戦にまで持ち込んだ男を。今現在、魔王と呼ばれる男を人間たちは甘くみていた……。


「──最後の戦い。人間たちは残る強力な貴族たちを後に回し、まずは懐刀をと戦局を進めた。絶対に負けるはずがない戦いだった。だが、勇者は死に仲間たち共々誰も戻ってこなかった……」


 これにより形勢が一気に逆転する。

 人間側が失った最大の戦力はそのまま支柱であり頭脳でもあり、人間側は一度に失くしたものが大きすぎた。

 戦局はみるみるうちに貴族側に傾き、瞬く間に人間側の戦力は削り取られていく。

 戦う者たちが一人一人と死んでいき、いよいよ戦わない者たちのところにまで貴族の手が伸び始めた……そんな時だった。


『──二百年、実に長い戦いだった。この間に常々思っていたことが私にはあるのだ。戦いなど無駄な事はもう終わりにしようではないか。これまでのことは互いに水に流し、戦いなどない世界にしようではないか』


 新たに魔王と名乗り出した男はそう人間に言った。

 終わりの見えない長い戦いに疲れ切っていた人間たちにその言葉は甘く、負けの見えた人間たちに「嫌だ」と言う選択肢もなく、人間たちは魔王の言葉を受け入れた。

 とうとう人間は屈してしまったのだ。


 そして、もちろんそんな甘いだけの話は存在しない。

 魔王は人間の技術や生産性を評価していたが、力を持ったままの人間をそのままにはしておかなかった。

 人間たちの最たる力である魔法。その魔法の力を人間に供給する場所を破壊し、人間たちから反抗する術を奪い取った。


 この世界の人間たちは主に世界に満ちる魔法の力を使い魔法を行使していて、それを失うということはそのまま人間の力を落とすことになり。

 逆に自己の内部の膨大な魔力で魔法を行使する自分たちを絶対の支配者としたのだ。

 それから今まで人間たちは貴族の支配の元にある。



『──従わぬ者は殺すしかないが、従う者たちには生きる権利を与えよう。戦いなどない世界で暮らす権利だ』


 与えられたのは当然の権利だけ。

 未だに戦いはあり、人は数え切れないくらい死んでいる。


『──我が同胞たちを貴様らの王とし、各地に配置しようと思う。何、王が変わるだけのことだ』


 貴族という人間たちの支配者は、それぞれが好き勝手に振る舞い、思い通りに人間たちを支配し。

 貴族に与することに成功した一部の人間だけが贅沢を手に入れた。

 この異世界と呼ばれる世界の歴史はこんなところだ。


◇◇◇


「──簡単にだがこの世界の歴史は以上だ。そして話の中では世界と表現しているが、実は世界全体の話ではない。これはこの国だけの話だ」


 もはや二十年以上も昔のことを、その経過した時間と同じくらいの年齢にしか見えない会長という男が細かく語った。

 そして今度は歴史の話ではなく地理の話を男は始める。

 

「ユウ、この場所はお前がいたところと変わらない形をしている。ここは日本なんだ。ムサシというここの裏側。お前がいたところで言うと、ここは東京となる」


「いや、意味が……」


「だが、俺たちにとってはここが世界の全てだ。本来ならあるはずの日本大陸より外には出られないからな」


 会長という男は「地図はあるか?」と、運搬を仕事にする以上は地図を持っているはずのスタークに声をかけ、取り出された魔法がかかる地図に指を滑らせていく。

 すると地図は中の縮小されていた図が指の動きと同じく動き、指を広げるようにすると図も広がっていく。

 そして現れるのはユウがよく知るものとほぼ(、、)同じ形をした大陸。


「に、日本だ。だけどこれは何だ。壁? それにこれ……」

「壁は前の魔王が作ったものだと言われている。以来二百年以上も魔王亡き後も立ち続けている」


 ユウが気づいた自分が知る日本大陸には存在しない二つのもの。

 一つは日本大陸を円形に囲うように存在する壁。壁はまるで日本を世界から閉ざすように立ち、そこより外の地図は空白になっている。


「こっちの、この大陸はなんなんだ?」

「そこも魔王が作った土地で、奴がいた城がある」

「壁もだけど大陸を作った? そんな奴がいるのか……」

「おそらくだが日本の近くの陸地を利用して、魔王は壁と自分のいた陸地を作ったのだろう」


 もう一つは本来は存在しない陸地が、日本海の真ん中に存在していて。日本大陸と壁との間に位置するそこに、今も変わらずにある城に現魔王はいる。

 魔王を討ち世界を救った勇者と同様に、最終的にユウも目指すことになるだろう大陸。


「ちなみに壁は見える囲いの部分だけでなく、上部にも見えない魔法による守りを持っていて、空からの出入りもできなくなっている」


「それで本当に日本より外があると言えるのか。この地図みたいに空白、何もない可能性だってあるんじゃないのか?」


「いや、それについては自称だが外から来たのだという人間がいる。その人物曰く壁の外はあるとのことだ。手段については……理解し難い方法だな。つまり外については俺たち中の人間は知らない。これにはもう答えようがないぞ」


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