正義の味方
もし、なることが出来るのならそれになりたい。悪を挫き、弱きを助け、正義を成す。正義の味方に。
だけど、この時代にそんなものは流行らない。
この世の中、悪がはびこり幅を利かす。さも自分が正しいかのように振舞う。その最たるものに根絶だの排除だの謳ったところで、それが効力を持っていない。
正義を守るべき警察は、事件が起きた後にしか動かない。彼らは甘いのだ。人にある尊厳だなんだと理由をつけて、結局黙って見ているだけ。
そんなことだから、悪を見逃しのさばらせる。
要するに足りないんだ。何もかも。
なら、どうすればいいのか?
簡単だ。自分でやればいい。
役に立たない奴らには期待せず、己でやればいい。
それが正義であるのなら、躊躇う必要もない。
流行ろうが流行るまいが成ればいい。正義の味方に。
「やあ、頼んでないけど一階から屋上までわざわざありがとう。ずいぶんと息が上がってるようだけど大丈夫かい?」
「黒崎さん」
「自分の現状は聞いただろ。黙ってくたばってくれてもいいんだぜ。もしくは、僕から呪いを解く方法を聞き出してみるかい?」
「どうして……」
どうしても何も初めからそうだ。出会いから今日まで、何もかも予定通りになっただけのこと。
次の標的に決めた、とある組織。吐き気のするやり方で金を奪う外道共。いつものように始末を付けようとして分かった。
「オレオレ詐欺から特殊詐欺だとか言われるようになったけどさ、あれはネーミングにセンスがないよね。やってることがクソなんだから、もっと悪い事なんだと自覚させるような名前にしないと駄目だと思うんだ。あと、捕まらない奴が多過ぎる」
手順としては逆だった。辿り着いてから気付いた。
密かに行われている遊戯のためのテストプレイ。その内部で得た情報。そこに詐欺グループの情報。合わさって一枚の絵になった。
「君に掛けた呪いは本物だ。もちろん、他も順ぐり同じ目に合う。関わった者を全てを呪い殺す。上から下まで残すことなく始末するつもりだ」
「──僕はもう関係ない! とっくにやめたんだから!」
「面白いことを言うね。関係ないか……そんなわけないだろう? システムを作り、始めたのは君だ。上手いこと考えたもんだ。警察はおろか利用されている本人たちすら気付いてない。最も、同じようなことをやってるわけだから、いずれ同じように始末をつけてやるけどね」
末端は上の顔を知らない。繋ぎも一つ上の顔しか知らない。そうやって重なるピラミッド。
ピラミッドは上に行くほど、取り分は多くリスクは少ない。頂点ともなれば自分は何もすることなく、あがりだけが懐に入る仕組み。
「末端のフリをして実は頂点。それが君のやり方だろ。初めは勝手に利用した後ろ盾としての名前も、末端が増えるにつれ必要なくなっていく。末端はどうせ合うこともないし、捕まるのもそうだしね。本当に上手くやっていたと思うよ」
実に不愉快。本当に吐き気がする……。
根こそぎ駆除したくはあるが、何ぶん辿るのに時間がかかる。一つ消す間に二つ三つと新たに増える。けど、やめないし諦めない。
「死に至るほどの呪い。こいつを一人でやると呪う側も最後には死んでしまう。しかし、被害者たちがそれぞれが憎み恨みするなら、消えるのは呪われた奴だけだ。要はやり方の問題なんだ。みんなでやれば怖くないってことだ」
「呪いだろうと、殺すなんて許されるはずがない!」
「……それが? 君たちに許される道なんてないよ。警察に捕まった場合は罪を償って、許された気になれるだろうけど、それで満足するのは君たちと警察だけだ。騙された人たちは許さないし納得しない。死ぬ、以外に償うすべはない」
許さるだろうとか、謝ればいいとか、そんな都合の良い考えを持っているから、自分が一番だとか言えるんだ。馬鹿らしい。
「……はぁ……はぁ……」
「ははは、辛そうだね。いいザマだ。騙された人たちに見せてやりたいくらいだ。こいつが犯人ですって」
「なんで、こんなことをする?」
「僕はおじいちゃん子でね。そのせいか、どうにも年寄りを食い物にする奴らが許せないようなんだ。だから、そんな奴らを代わりに始末してやりたい。取り戻してやりたい。そう思うんだ」
けれど、その一番くんのおかげで見えた絵もある。そこだけは偽りなく感謝している。自分では見出せなかったチャンス。それを持ってきてくれたんだから。
「死にたくない。助けてくれよ……」
「いいよ、助けよう。君の持ってる有り金全部と他のグループの情報で手を打とう。さらに、異世界行きも僕が代わろう。全部失くしてやり直すなら、君だけは助けよう」
「やり直す……」
「留学するんだろ。この機会にゼロからやり直す。死んで終わりよりはマシだし、君は何も心配することなく生活できる。心のどこかでは思っていただろう? いつかバレるんじゃないかって。心配いらない。そんな可能性ごと全部消しておくから」
どう答えるのかは分かりきっている。というか、嫌でもそう答えるしかない。誰だって自分が可愛いし、理由もなく死にたくない。
まあ、僕に呪い解く技術なんてないんだけどね。