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 次への旅立ち 2

 取り返すことのできる失敗と、できない失敗。

 果たしてレンの、そして僕の失敗は挽回することはできるのだろうか?


 サラサがいなければ今頃はとっくに死んでいた。

 何もできないまま、成せないままで、向こうに帰っていたはずだ。


 悪い奴じゃないと思っていた。

 今だってそう思っている。


 だけど、何も知らない……。

 名前しか知らないと言っていい。


 何度も助けられた。

 でも、それは善意だったのだろうか?


 その内にどんな感情があったのかなんて、分かるはずがない。


「ウサギは逃げやがった! 直接戻しやがったのが証拠だ。 ……次会うときは、絶対にぶっ殺してやる」


 僕たちのいた場所。

 ムサシの国の平原に気がついたら戻ってきていた。


 そこに八つ当たりにしか思えないレンの独り言が、


「妹ちゃんの魔力の流れに異常はなかった。原因は別にある。アスカだと言うのなら、そうなのかもしれない。ただ、異常は見つからなかったし顔色も悪くなかった。すぐにでも目を開けそうだったわね」


アオバさんの見てきたことへの結論が語られる。


 どちらも重要ではあるし、どちらもどうしようもない。

 妹はいないし、サラサもいない。


 どちらともを解決する方法は一つしか無いのだと思う。

 レンの言った僕たちの失敗した結果。

 そんなことを聞くまでもない。


「結局、先に進むしかないんだろう? 考えつくのはそれだけだ。向こうでもおかしなことが始まったのは感じた。だけど僕たちにはどうすることもできない。なら、進むべきだ。そして一日も早く終わらせる。違うか?」


「……雑魚にそんなことを言われるとは思わなかった。やらかしたのと同じくらいショックだわ。だが、それしかねーな。向こうは向こうのヤツラが何とかする。それを信じるしかない」


「なら、動き出しましょう。みんなあそこに行きたいわけだし。壁を壊すところまで漕ぎ着けないとね」


 異世界にいる時点でやることは変わらないのだ。

 それでいい。目指すものと辿り着く場所が、より明確になった。


「オレは、どうしてもやらなくちゃいけないことがある。このまま魔王をぶっ殺しに行きたい気持ちを抑えてもだ」


「ヒタチを攻略するのに参加しないでか?」


「そこに用がある。あそこに行かなくちゃならない。ヒタチでオレにもしもの事があっても、見捨てて進めよ」


 このオレ様な男から、もしもの事なんて言葉を聞くとは思わなかった、


「あら、そんな殊勝なこと言えるのね」


「案外、普通なんだな。失敗するし間違える。未来が見えるなんて言ってもね」


「茶化すなよ。オレだっていろんなものを抱えてんだよ。言いたくても言えない。この気持ちを察してくれよ」


 一番、茶化しているのは自分だろ。

 そう言っては駄目なんだろうか?


「そうね。隠し事は仲間であっても必要よ。でも、一つ答えて。本当はスカーレットに聞くつもりだったんだけど。レン……」


 そういえば……。

 レンはスカーレットと知り合いのようだった。

 アルハザードと言う名前も口から出た。


「あなた、その鎧の内は人形ね?」


 人形? そう聞いて思いついたのはトモエさんの黒い人形。


「全身の鎧はそれを隠すため。違う?」


「……驚いた。流石は医者。気づくヤツは一人だけだと思ってた」


「否定しないってことは、間違いじゃないのね」


「ガラクタの人形が歩いてたんじゃ目立つからな。甲冑は拝借したんだ。騎士に見えるだろう? 似合ってるしな」


「茶化さない。今のが本当なら疑問がある。あなた男? それとも女?」


 鎧の立ち姿。そのシルエット。

 何より……男言葉だったし。男だと思っていたのに。


 鎧の中身が人間じゃないなら、もしかしてもあるんだろうか?


「えー、そんなプライベートなことを聞かれても……」


「答える気はないと。なら、あなたのしたいことって何? 世界を救うより優先したいことって」


「……会わなくちゃいけないヤツがいる。仲間からソイツを止めてくれと頼まれた。あの悲しそうな声は無視できない。オレが背負わせたんだ。あの時、間違えたのはオレだ」


 レンの言う、あの時とはいつなんだろう……。


「穴埋めのために来た世界で、それを後回しにしてもやらなくちゃいけない。あのままじゃアイツは救われない。それどころか自分で救った世界さえ壊してしまう。この未来だけはオレが変えなくちゃならない」


「そう。ただの、ちゃらんぽらんじゃないならいいわ。鎧の修繕はできないからそのつもりで」


 大きな戦いになるというヒタチの国。

 そこに全てが集まっていく。そんな気がする。


 まだ、連絡はこない。

 なら少しでも時間を短縮する方法をとるべきだ。


「まだヒタチの戦いまでは時間がある。その間、待っているつもりは無い。一匹でも多く貴族を消しにいく」


「勇者はオマエだからな。目的地を決めんのは構わないが、ここいらの貴族はつえーぞ」


「レンは百人力くらいあるんだろう? 何とかしてくれよ。それに実戦に勝るものはない。そう言うじゃないか」


「相模、下総、どっちにも貴族はいるがどっちに行く?」


「どっちもだ。効率よく行くなら相模を最初にして北上した方がいい」


 そうして進んでいこう。

 それぞれが目指す場所に辿り着くまで。


 これが最初の一歩だ。


 ♢


 スタークが見送りにやって来た。

 ただ、その顔は冴えない。


「お前ら、俺の代わりにエチゴに行かないか?」


「やだよ、雪山じゃないか。黙っていれば暖かい海側に行くんだ。スターク、自分一人で行ってよ。仕事でしょ」


 リックの容赦ない言葉がスタークに突き刺さる。


「どうせお前らもすぐに雪山なんだ。会長の言うことなんて無視して一緒に行ってくれよ。一緒に来てくれるだけでもいい!」


 そんなに雪山が嫌なんだろうか?

 あまり雪に経験があるわけじゃないし、雪国は大変なんだと思うけど。


「何しにいくの? 嫌な理由は雪山だからじゃないよね?」


「雪山も嫌に決まってんだろ。遭難したら死ぬぜ。もっと嫌なのは迎えに行く奴だけどな。一生をあそこで過ごせばいいのに……」


 それはあんまりじゃないか? 何も知らないけど。


「どんな奴なんだ? 誰かを迎えに行くんだろ」


「ウチで一番の魔法使いだ」


「マナさんじゃないのか?」


 カレンもそう思っていたようで、顔を見合わせた俺たちは同じ顔をしているだろう。


「人間としちゃマナが一番なんだろうが……」


「待て! 言わなくていい。もう言わないでくれ。リック、馬車を出せ!」


「聞くだけは聞いてあげようよ。絶対行かないけど、話くらいは聞いてあげなくちゃ」


 リックが止める。聞きたくないのに逃げられない。

 人間じゃない魔法使いって貴族だろ。


「貴族なんだろ……。流石に分かった」


「ただの貴族じゃない。現状、一番有名な貴族だ。姉さんより有名だぜ」


「──ボクわかった。ユウの言う通り、行こう!」


「最後まで聞こうよ」


 今度はカレンが止める。

 しかし、リックも俺に賛成するような奴なのか?


「お前ら……まぁいい。有名な理由がそもそもヤバい。そんな奴をどういうわけか会長が連れて来てな。今はウチにいるんだ。人前に出られないそいつは、人目に触れないようにスメラギの領地の中で誰も近づかない雪山にいる」


「それでそれで。何をやったの?」


「親を殺した。貴族である親をな。この世界で一番有名な犯罪者。その首には途方もない額の金がかかってる。いろんな意味でイかれてるやつなんだ」


 親殺し。それがどんな意味を持つのか。

 この異世界であれば意味合いは違ってくるだろう。


「その後も貴族を殺して回ったそいつは、誰でも知ってる最悪の男だ。辺り一面躊躇いなく火の海に変える奴なんだ。そんな奴に会いに行きたいか?」


「「行くたくない」」


「私はちょっと会ってみたいかも」


「「──カレン?!」」


 このままでは興味を持ったカレンは行くと言いかねない。

 何とかしなくては……。


「あんたら、まだいたのかい?」


「──げっ、ばあさん」


「……スターク。言われた仕事はちゃんとこなすもんだよ。ちょっと来な!」


 一目で状況を察したエバノさんがスタークを引きづっていく。


「行くか。スタークは大変だな」


「そうだね。立場のある人間って感じだね。ボクらも行こうか」


「……残念」


 ……俺たちは言われた道を行こう。

 スタークも大変なんだろうが、俺たちだって魔物狩りがあるんだ。楽な道のりじゃないはずだ。


 イワキの地に向けて、またここから進んで行く。


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