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 仲間を得て 火神 編 3

♢22♢


「お互いこんなところか? 俺は、日々トモエのせいで遅れていた仕事をこなし、今日になってトモエが察した黒の気配を追ってきた。転移の実験も上手くいったし、お前たちも無事だ。不測の事態もない……人数も増えてるようだしな」


 一通り話を聞いたし話をした。


 この国で出会った人たち。

 見たもの、感じたこと。

 時間としては数日に過ぎないが、いろんな事があったな。


 話してみて分かったが、かなり密度の高い日々を過ごしていた。

 行く先々に出会いってのはあるらしい。

 その数だけ語れる事は増えるんだな。


 現実の世界では毎日なんて変わらないと思っていたのに、異世界に来てからは休む暇もないくらいに目まぐるしく変わっていく。


 どちらが良いというわけじゃないけど、異世界は退屈はしない。

 俺からしたら非日常であるけど、こちらの人たちにとっては日常であり、当たり前なんだ。

 どこまでが当たり前なのかは、まだ分からないけど……。


 世界はすぐには変わらない。

 ウサギの言葉を思い出す。


 世界は変わらなくても個人はそうじゃない。俺はそう思った。


 例えばリックは出会ったのは、この国に来てからだ。だけど一緒に行きたいと言われた。

 そこには何かしら変化や思いがあったんだ。


 会長はそんなリックのことを見ている。

 この人はリックのことを何と言うのだろう?


 ……何も言わないのかもしれない。


「リックと言ったか。道行きに困難もあるだろうが、こいつに手を貸してやってくれ。それと、これからよろしくな」


「いやー、ボクこそよろしくお願いします」


 以外だった。こんな反応をするなんて。

 そう言ってしまうとあれだけど、普通な物言いだった。


 もっと……そうじゃないな。

 この人は組織のトップだ。たくさん人を見てる。

 だから言うべきことと、言わないことを選んでる。


「……ところでだ。お前たち、一つだけ言ってない事があるよな。カレン、隠しているそれをこちらに寄越せ」


 ──どうしてそれを。


「誤魔化せないわよ。ワタシたちはね」


 雰囲気が一変する。


 会長に貴族であるトモエさん。

 そのどちらからも、絶対に逃れられないと思わせるような圧を感じる。


「おとなしく渡せばそれでおしまい。抵抗するなら……無理やり奪い取ろうかしら」


 トモエさんから、今まで酔っ払っている様子はなくなる。

 その気配はムサシの国の貴族のように重く、そこにいるだけで全てを威圧する。


「それは遊び半分に首を突っ込んでいいものじゃない。こちらに寄越せ」


「待ってくれ、俺たちは……」


「ユウ、お前たちはそれを触媒にしたものと戦ったんだろう? どうやって起こった現象なのかも分からずに、その石を持つのは危険だ。だから処分する」


 巨人の核であった黒い石は破壊した。

 だけど、石はもう一つあったんだ。


 降ってきた巨人の残骸を焼き払った空から落ちてきた。巨人の核であったものと同じ石が。

 巨人の中に混じっていたんだろう。それが壊れずに残った。


 カレンはそれを持ってきたんだ。

 彼女らしい。その好奇心に触れたんだろう。


 危険は無いと思ったわけじゃないけど、黒い石のことを知りたいと思ったのは、俺たち全員の意見だった。


 持ってきたのはカレンだが、全員が同じ気持ちだった。


「簡単には渡せない。俺たちは知りたい。それが何で、どう貴族に関わっているのかを」


「……誰に聞いた。余計はことを吹き込んだ奴がいたのか? それは知ってはならない領域の話だ」


「──待った! そこまでだ。カレンそれは諦めろ。会長に姉さんまで言うんだ。やめとけ、優。やり合うのは無しだ!」


 スタークが割って入ってくる。

 俺に戦うつもりはない。この二人は分からないけど。


「……わかりました。だけど一つだけ。これは生きているんですか?」


 生きている。あの石が?

 ……あの巨人は生きていたんだろうか。


 動いていたのだから生きていたと言えるのか。

 リックは知恵があるのかもしれないと言ったし。


「生きてはいない。石は石よ。ただ、生きていたものの記憶はある」


「──トモエ!」


「いいじゃない。この子たちから、ただ取り上げても駄目みたいだしね」


 記憶。貴族が石を残すというのなら、石にあるのは貴族の記憶。そういうことなのか?


「……記憶。今はそれだけでいいです。石はお渡しします」


 カレンは黒い石を会長に手渡す。


「仕方ない……俺からも教えてやろう。トモエが余計なことを言ってしまったからな」


 会長は受け取った石に力を込めていく。


「これは存在するだけで周囲の魔力を吸い上げる。黒い光は中に残る力が世界に戻る際に起きる現象だ」


 俺が壊してしまったはずの右腕で石に力が加わっていく。


「つまり、黒い石が減れば世界に満ちる力の量は多くなる。親である貴族が減ればそれだけ有利にことは進む。これは壊してしまった方がいいというわけだ」


 加わる力に耐えきれなくなり石が砕けていく。

 黒い閃光が溢れ後数秒で、辺り一面に撒き散らされる。


「ユウ、その剣ならこの光を斬れる。光が上がるメリットなど無い。斬り捨てろ」


 形のない光を斬れる?


 黒崎の銃は形を与えると言っていた。

 まるっきり逆のことが出来たとしても不思議はない。


 ……試してみよう。

 今の言葉が本当なら俺が思っていただけじゃなく、この黒い刀身の剣は本当に力を喰っている。


 溢れる光に向けて剣を振るう。

 斬り裂き、呑み込み、喰らってみろと思いながら。


「マジか……」


 スタークがそう言うのも分かる。

 黒い閃光は剣が通った道だけ無くなる。

 巨人の核と同じならしばらく続く現象のはず。


 直接、石に触れた方がいい。

 そう考えた時、会長は割れた石を空中に放る。

 刃は直接黒い石に触れ、黒い閃光ごと斬る。


「……どっちもどっちだよね」


 リックがそんなことを言っている。


「あれ、相当硬かったのに」


 カレンもそんなことを言っている。


 光はそれ以上、撒き散らされることもなく黒い石は床に落ち消えていく。


 ピシッ。そんな音が聞こえてた。

 最初はどこからした音なのか分からなかった。


「……お前、どうそれを使ってたんだ」


 会長のその一言に今の音は手に持っている剣から、その刀身から出た音だと気づいた。


「あーあ、壊しちゃって」


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