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 ムサシの国。その後。 7

  小綺麗に片付けられている部屋。

 掃除もいき届いているようでゴミも埃もない。

 何よりベッドがない。


 やはり、執務室にベッドのある違和感は相当だな。

 帰ってからは見慣れた光景だったが、それかおかしかったんだ。撤去させよう。


「聞いてんのかい、お前ら」


 エバノは丁寧に説明してくれていたが、トモエを連れてきた時点で結論は決まっているのだ。


「村の内情はいい。邪魔ならバックスって奴も消すだけだ。もう、始まってるんだ。邪魔者は排除して進む」


「裏で汚い事も随分とやってるようだからね。貴族の後ろ盾を使って好き放題。殺されても文句言えないが……自分にも当てはまると思わないのかい?」


「だから何だ。俺を殺したいならやってみろ。立ち塞がるなら殺して進むぞ……お前でもな」


 たとえ誰であったとしても。

 トモエのおかげで後には引けないし、元より引くつもりはない。


 勇者が世界を救うのに邪魔が入る。

 そうなるのが分かっている。

 そうなる可能性がある。


 そんなものに阻まれてたまるか。

 一切合切消してやる。


「エバノ、やめなさい。こう見えて朝から不機嫌なの。本当に殺されるわよ」


「老い先短いから構やしないけど、平和な世界ってのを見ないと死にきれないね。ガキ共のこともあるしね」


「なら、黙ってなさいな。明日からも、何も変わらず同じように過ごす。それでいいじゃないの」


「そのための障害は排除してやる。どの道、ここを通り過ぎても目的地がムツである以上は、俺の邪魔をすることになるんだ。ここで殺しておく」


「平和な世界が見たいのなら尚更ね。ワタシたちに任せなさい」


 呼び出した責任者より立場が上の奴が来るんだ。

 無下には出来ない。貴族の前まで行けば詰みだ。


「何か武器はあるか?」


「なんだい……お前らどっちも丸腰で貴族の前にいくつもりだったのかい。呆れたよ」


「あら、ワタシは武器なんて物騒なもの持ったことないわよ?」


「だろうね。トモエは全身凶器みたいなものだからね。必要ないものを持つ奴はいないよ」


 引き出しを開け取り出された、レトロな銃が目の前に置かれる。


「これしかないよ。古いもんだが手入れはしてある」


「懐かしいな。それだけは手放せなかったのか?」


「そんなところだ。今の代物には敵わないが鉛がでりゃ一緒さ」


「違いない。少し借りていくぞ」


 人を殺すには十分な代物だ。


 ♢


 鉛であっても撃たれれば死ぬ。

 親にはある再生する機能が子供たちには無い。


 だが、自ら修復する機能がなくとも技術として習得すればいいだけの話だ。

 そうすることで親のように不死に近い構造に近づける。


 しかし、そんなことをする奴はいない。

 親譲りの莫大な量の魔力がある。

 それを使った方が、楽だし間違いがないからだ。


 貴族は魔力に依存している。

 自分たちが持つその突出した、人と違うと思い込んでいる力に。


 だから見下している。


 今の人間にはどうしようもないと。

 自分たちの方が上だと思い込んでいる。


 もうすぐ、その有利は無くなるとも知らずにだ。

 そこまであと少し。


「──随分と身勝手なことを言う。同じ貴族といえども見過ごせんぞ」


「あら、アナタとワタシが一緒? 馬鹿なこと言うわね。冗談はやめて」


 バックスの屋敷には問題なく入れ、そのまま貴族のいる部屋に通された。


「……ここが誰の領域となっているのか理解できないのか?」


「知ってるわよ、そのくらい。ここがアナタの場であり、侵入者であるワタシたちに不利だってことくらい」


「なら、スメラギという名前にこの場所で力があると思っているのか」


「思ってない。 ……まどろっこしい問答はやめにしましょう。ワタシはアナタが気に入らない。目障りよ……とっても」


 空気が変わる。

 貴族の持つ力がその片鱗を見せ始める。


 最初に感じたのは近くにいる者。

 貴族の取り巻きに、バックスという屋敷の主人、屋敷の使用人。


 建物の中の人間たちだ。


「場は結界の意味合いもある。ここで何があっても誰にも分からない。スメラギという貴族が死体になったとしても」


「口ばかりね。怖いのかしら。力に恵まれただけの坊やには」


「──貴様!」


 空間を黒の力が埋め尽くす。

 纏わりつき縛り上げる力が。


「あら、鎖の魔法……」


「締め上げ後悔させてやる、逆らったことを。 ……女として生まれたこともか」


「きゃあ、こわいわー。助けてー!」


「今更遅い。後悔しろ!」


 ……俺にやれということか。

 用意した癖に、トモエは何もする気が無いらしい。

 鎖の魔法と聞いたからだろう。


 床からいくつも鎖が現れる。

 動きを、そして力を縛る鎖が、ジャラジャラと音を立てて標的であるトモエに向かっていく。


「こっちだ」


 その一言に鎖は標的を変更し俺に巻きつく。

 そして体の自由を奪われる。


「……何、どうなって……」


 魔法を使った貴族がそんな声を上げる。

 自分の描いた結果とは、何もかもが違う結果に。


 俺まで届いた鎖は五本。こんなところだろうな。

 絞め殺すにしろ、身動きを封じるにしろ足りるだろう数ではある。


「どうしたの? なにか顔色が悪いわよ?」


「黙れ! この男をすぐ殺して、次は貴様だ!」


「出来るといいわねー」


 余裕だな。人に丸投げしたわりには。


 鎖が纏わり付いたまま、貴族へと進んでいく。

 鎖は締め付ける力を強くしより巨大になっていく。


「ど、どうして動く! 何故縛れない!」


「その鎖は自分より弱い者にしか役に立たない」


「──なら、ただの人間を殺せないはずがない!」


「頭が悪いな。自分より弱い者しか縛れないと言ってるだろう?」


 貴族に手が届く。

 しかし、障壁があり触ることはできない。


「トモエ、障壁くらい割れ。そのくらいは働け」


 多数の何かが貴族の障壁にぶつかる音が響く。

 じきに絡まって仕舞いとなる。


「──お前らこの男を殺せ!」


 魔法頼りの貴族に他に手はなく、取り巻きにその命令するが無駄だ。


「無理です。一切身動きができない。指一つ動かない……」


「あら、それは大変ね。無理に動くとバラバラになっちゃうからそのまま見てなさい」


 動きを封じている本人はこんなことを言っている。

 トモエのこれも鎖の魔法に当てはまる。

 見えないくらいに細い糸のようなものが部屋中に張り巡らせてある。


 ただ、トモエ本来の使い方はこうじゃない。これは応用しているに過ぎない。


 トモエは、貴族に気づかれないよいに張り巡らす作業が終わるまで、だらだらと話していたのだ。


「スメラギ、貴様の魔法だな!」


「そうよー、もう遅いけどね。誰も助けてくれないわよ?」


「何故、この男だけ動く。障壁も持たない人間が……」


 そう、糸は張り巡らされているのだから俺にも影響はあるはずだ。普通ならな……。


「捕まえた」


 トモエのその言葉の後、貴族の障壁が砕ける。

 そのまま切断もできるはずだが、やはりやらないらしい。


 捕まえた。その言葉の通り俺の右腕は貴族の首に届く。


「……がっ……どう、なっている……」


 貴族の首に手がかかったまま持ち上げる。


「俺はすでに呪われた身でな。この程度の呪いなど受け付けない。誰かの足を引っ張っぱる魔法。実にお前たちらしい」


 このまま息が止まるのを見ていてもいいが。


「……はな……せ。息が……」


 酸欠でも死ぬ。人間のように……。

 そのくせ自分たちは特別だと思い込んでいる。


 お前らは人間と変わらない。

 少しばかり優秀なだけ。長く生きられるだけ。


 それだけだ……。


 ゴキッと折れるような砕けるような音がする。ダラリと力が抜けていく。


「さて、あとはお前か」


 貴族から手を離し身動きが取れない男。

 ここにいるだけだった男に銃口を向け引き金を引く。


「あら、何の言葉も聞かないで殺しちゃった……」


 必要ない。どうせ死ぬんだから。


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