仲間を得て 火神 編 2
村まで全速力で戻ってきた。
真っ先に向かったのは、バックスという男の屋敷があった場所。
あったはずの建物はバラバラになった。
一部分だけを残して。
その一部屋だけが無事だった。
破壊はあの部屋から行われたのだろう。
建物はこの有り様なのに、屋敷の使用人たちは全員無事。どうしたらいいのか分からずに、今も立ち尽くしている。
俺たちも同じだ。
自分たちがどうするべきか考えている間に終わってしまった。彼らのように立ち尽くしてしまう。
「破壊はあそこからだね。どうやったのか見当もつかないけどスゴイね。誰一人傷つけることなく貴族たちだけを殺すなんてね」
自分たちなら、これほど上手くやれただろうか。
これにスタークの言った策はあったのだろうか。
「どうやったんだろう?」
建物の断面は鋭利な刃物で切ったような跡だ。
一切淀みなく綺麗に切られてる。
多分だけど刀とか剣じゃない。
もっと細い……それこそ糸のようなもので切ったんじゃないか?
魔法ならリックのような風。
ただ、そんな現象は見えなかった。
本当にサイコロ状にバラバラになったと表現するしかない。
「……屋敷を刻んだのはおまけだ。貴族を始末してから屋敷をバラバラにしたんだ。中に入り込んで貴族を殺すとはな」
跡だけ見ればそうなのかもしれない。
貴族と屋敷は違う人間がやったということなんだろう。
「中に入り込んでって、どういうこと?」
「客としてそこに座ってた奴が貴族を殺った。屋敷をバラしたのは姉さん、貴族を殺ったのは会長か」
予想外の人物の名前が出た。
この国にいるはずのない人の名前が。
「──会長って、なんでこの国に?」
「さあな。本人たちに聞きに行くしかないな。どうやってこの国に来たのかも聞きたいな」
「誰? ボクだけ知らない人? ……仲間はずれにしないで教えてよ」
「スタークの上司で商会の一番偉い人かな? ここにいるはずはないんだけど……」
ここに会長の姿はない。いるとするなら支部か。
「行ってみようぜ。もう貴族はいないんだ。姉さんもいるみたいだしな……」
俺たちは、そう決めて商会の支部へと向かう。
♢
商会の支部の扉をくぐると見覚えのある光景が広がっていた。
見習いという名のチンピラたちが床に倒れている。
壁に突っ込んでいる奴もいる……。
どうやったのか分からないが天井にも穴が開いている。二階に飛んでいったのだろうか。
この惨状を作った本人であろう人物は、バーカウンターのようなテーブルに座っていた。その隣には女の人。
その人物こと会長は俺たちに気がつく。
「お前ら早かったな。 ……貴族は始末しておいた。そっちも片付いたようだな」
スタークの言ったことは本当だった。
だけど……。
「本当に、あなたが貴族を殺したんですか?」
カレンがそう言った。
……俺もそう思った。貴族を殺すことが出来るのかと。
「障壁はこいつが割った。俺は首を捻っただけだ。障壁が無ければ、あれはただの人間だ」
こいつと言われたのは隣の女の人。
「コイツじゃなくて、奥さんですって紹介しなさいよー。ヒック……」
完全に酔っ払っている女の人が、振り返りこっちを見た。
──えっ。
「馬鹿みたいに強い酒だって、あたしゃ言ったんだけどね。聞きゃしない……」
「だから、帰ってからにしろと言ったんだ。全くこいつは……」
いや、今スゴイことを聞いた気がした。
それに振り返った女の人。
「──奥さん。今、奥さんって言わなかった?」
驚いているのは俺だけ。
別に会長に奥さんがいてもおかしくはない。その瞳が赤くなければ。
「そうか、ユウは知らなかったな。ムサシじゃ寝てたのか。こいつはトモエ。見ての通りの貴族にして商会の後ろ盾」
「──どうして最初に嫁が出てこないのよ!」
「酔っ払いは黙ってろ。エバノ、これ見ててくれ。こいつがいては話にならん」
「……しょうがないね。トモエ、あたしが相手してやるから」
「聞いてよー。酷いのよ、零は。私を……」
トモエさんと呼ばれた女の人は、エバノというらしい商会の支部長さんと話し始めた。
会長は俺たちの方にやってくる。
「姉さんはいつも同じだな」
「あれは大体ああだろう。 ……トモエの話はいいんだ。お互いに、いろいろ話をすることがあるようだな」
俺たち近くのテーブルに移動し、
「新顔も増えているし少し話をしようじゃないか」
そう言って俺たちに座るように促す。
俺は凄く驚いているのだけれど、俺意外は誰も驚いていない。
「会長、俺はあんたの話から聞きたいね。どうやってこの国に来たんだ?」
「そうだな。ただ、話すならお前らと別れた後から話さないとだな」
ムサシの国を先に出た会長の話が始まる。