仲間を得て 黒崎 編
♢19♢
死というものを初めて実感したのは小学生の時だった。
祖父が亡くなり、その次に祖母が亡くなった。
悲しかった。あんなに元気だったはずの人たちが、もう目を開けないのだから。
僕は生きていてほしかった。
いつまでも……。それが不可能なのは分かっていても、自分を見守っていてほしかったのかもしれない。
祖父も祖母も死にたかったわけではなかったはずだ。
人には寿命がある。
何もなければ生きられる時間。
病気や事故がなければ生きられた時間。
最期の時、生涯を全うして生きられたと思える人はどれくらいいるのだろう?
これは僕の考えであり、果たして祖父や祖母はどうだったのだろう。
答えは見つからない。
それを尋ねられる人はもうはいないから。
♢
死んでほしくなかった人。
それとは逆に、どうしてこんな奴らが生きているのだろうと思ったこともある。
祖父の葬式の時だ。
涙が溢れてくるのを止められなかったことを覚えている。
この場所にいる全員がそうなんだと思っていた。
これだけの人が死をいたんでくれる。
なら、祖父は生涯を全うして死んでいけた。
そう思っていたのに……。
「「死んでくれてよかった」」
そんな声が聞こえてきた。
あの時の自分には理解できなかった。
今だって変わらないが、言葉の意味は理解できる。その裏側も。
財産が欲しい。そんなところだったのだろう。
……どうして。こんなことを言える奴がいて、のうのうと生きているのかが分からなかった。
祖父も医者だった。
だから、医者を目指そうと思ったのだろう。
病気を治すというのは救うと同じだろう?
人を救うことができたなら。
そんなことを思っていたのかもしれない。
だけど、それは遠い未来の話だ。
今、自分には何の力もない。誰も救えない。
妹一人すらだ……。
「それがオマエの内側か? 黒崎 飛鳥」
♢
──今のは夢か。
ずいぶんハッキリした夢だったな……。
体を起こそうとして鋭い痛みが全身に伝わる。
そして思い出す。斬られたことを。
……ここはどこだ?
最後に覚えている景色とは違う。
だってテントの中だから。
それに明かりがついている。
火神に斬られたのは昼間だった。
夜になっているってことは、ずいぶん寝ていたみたいだ。
「おい、コイツ起きたぞ。聞いてんのか? ──アオバ!」
テントの外からそんな声がして、声の主はテントの中に入ってくる。
今、自分は動いてもいなかった。
どうやって気がついたんだ?
それに……この鎧は誰だ?
全身を甲冑に身を包んだ奴がテントに入ってきた。
顔も分からない。完全に覆われている。
声もこもっているためか男女の区別もつかない。
ただ、鎧姿は男だと思われる。
無理矢理、体を起き上がらせ手を伸ばす。
「誰だ……お前は」
銃は手の届く範囲にあった。
この痛みの中でも引き金を引くくらいはできる。
「オマエだと? 口の利き方に気をつけろ。ぶっ殺すぞ!」
斬られた傷の上から蹴られる。
痛みで手から銃は落ち、涙が出るんじゃないかと思った。
「──なに、するんだ」
「雑魚が、やろうってのか。かすり傷くらいで情けなく寝てたくせによー」
銃を拾い上げ、本気で撃つつもりだったところに制止がかかる。
「「──やめろ!」」
スカーレットともう一人。
火神たちと一緒にいた……白衣の女性。
「せっかく縫ったのに! 血滲んでるじゃないの」
「怪我人になにしてんの!」
鎧男は二人に詰め寄られている。
誰かは分からないがいい気味だ。
「オレが悪いのか? 口の利き方も知らないコイツが悪いんじゃねーのか」
「自分の姿を鏡で見てきたら? 誰だって、鎧が立ってたらおんなじような反応するわよ!」
「スカーレット。自己紹介させたら? ──あっ、私もか!」
状況が飲み込めない。
テントは貰ったやつ。
スカーレットと白衣の女性は知ってる。
鎧男は誰なのか分からない。
ここがどこなのかもか……。
「アオバです。一緒に行くことにしました。よろしくね? アスカくん」
……一緒に行く?
「手当ては貴女がしてくれたんですよね。ありがとうございます。ただ、一緒にってどこに?」
「決まってるじゃない。世界を救いによ。お姉さん枠は必要でしょ」
この人は、なにを言って……。
「アオバが行くのは決定よ。お姉さん枠なんてのはないけど、医者は必要だし、何より彼女はアスカの探してた医者その人よ」
僕の探してた。
それは二つの世界の技術を持った医者ということか?
確かに傷口は縫われている。
魔法による治癒だけじゃない。
こんなに簡単に見つかっていいのか?
それに一緒に行くとまで言ってくれている。
「さっきはごめんね。医者としては無理させられなかったのよ」
「なんのことですか?」
「……じゃあ、いいわ! 謝ったし、この話はおしまい。次どうぞ」
アオバさん。彼女は何に謝っていたんだろう?
ただ、意識の無くなる直前に彼女を見た気がする。
「オレ様も一緒に行ってやる。少しはマシになんだろ。雑魚に医者の二人で世界は救えねーからな」
「私は?」
「スカーレット。オマエは一回、過保護のところに帰れ。雑魚の面倒はみといてやるからよ」
「勝手なことを言ってるなよ。なんなんだ、お前は」
この鎧男は勝手なことばかり言ってる。
それにこういうタイプは好きじゃない。
こんなやつと一緒に行動したくない。
「テメェ、わざとだな? いい性格してんじゃねーか。嫌いじゃないが……ムカつくから、どっちが上か教えてやる!」
「傷口が開くって言ってんでしょ! スカーレット、その鎧縛って向こうに置いてきて! 自己紹介もできないの。いい大人のくせに」
「……わかりました。分かったよ。悪うございました。レンだ。よろしくな黒崎 飛鳥。しばらく厄介になるぜ? 旅は道連れって言うからな。地獄の底まで付き合ってくれよ」
「そんなわけだから」
……だから?
スカーレットはそれ以上口を開かない。
今ので終わりということなんだろう。
「僕の意見とかは無いのか?」
「えー、いいじゃない。みんなで仲良く世界を救いに行きましょうよ」
「遠足に行くみたいなもんなのか。ガキが二人いるみたいなもんだな……。雑魚でもいないよりはマシだし、我慢するか」
スカーレットも自分勝手だと思っていたのに。
それが三人になるのか? ……冗談だろ。