巨人 3
足を失った巨人がぐらつく。
バランスを保てるはずもなく倒れてくる。
俺たちのいる方向に。
右側から右足を斬ったんだから、右に倒れてくるのは当たり前なんだろう。
「やっぱり縦には斬れなかったね」
「足も片方しか斬れなかったしな。っていうか、こっちに倒れてきてるけど……」
「──もう一回いってみよう!」
斬撃では破壊は出来ない。
ダルマ落としにでもしていくしかないか。
「迫ってきてるし、早くな」
再び強化の魔法が用意される。
俺には強化の魔法はバフ以外の効力を持つ。
その性質を斬撃に変換できる。
この剣があればだが、他の人にはそもそも出来ないらしい。
魔力の受け渡しと変換。
それが、マナさんが俺を分析して導き出した結果だ。
今は変換できるのが斬撃だけだし、武器が無くては出来ないが、先があると言われた。
先とは何だろう。
ただ、一人では無理なんだろうと思う。
渡す相手がいて、受け取る相手がいて価値のある力なんだから。
「三秒くらい受け止めるから、あとよろしく!」
「倒れてくる巨人をか? どうやって……」
「斬るだけが風じゃないってことさ。いくよ」
飛ばした攻撃じゃ駄目だった。
直接触れないと胴体は切断できない。
「──よし! いって」
リックの言葉通り、本当に巨人の倒れるのが止まる。
どうなって……三秒しかないんだったな。
駆けるだけの力を残して、残りは全部くれてやる。
──いけ! 今度は真っ二つにしてやる。
♢
下の二人はやりたい放題だな。
ついにはデカブツを真っ二つにしやがった。
カレンの火は相性が悪かったんだろうが、それを引いても大概だな。
マナの取扱説明書ってやつか。
こんな規模の魔法なんて、貴族か、魔力量がおかしいやつにしかできねーだろうからな。
巨体相手にも、全く危機感を感じさせない魔法使いを見てそう思う。
「スターク、今の内に上から石を狙う。ちゃんと狙ってね」
「──はいよ!」
「優の攻撃に合わせる。もう一撃、飛んでくる斬撃に」
カレンの言う通り、足を胴をぶった斬った斬撃の三撃目が飛んでくる。
足、胴、首。
貴族を殺した時の一連の動きか。
おそらく技なんだろう。
剣術には詳しくないが、そう見える。
一切無駄が無い。
会長の言う昇華された技術。
あの人が魔法に使う言葉だが、変わらない。
ただ、剣を振り回してるようには見えなかった。最初からな。
戦う必要のない世界から来たやつの技術では無いと感じていた。何を成す為の力なんだろうな……。
「風の壁もある。下には燃え広がらない」
カレンの手元に大剣が出現する。
火の粉を撒き散らす、触れるものを焼き斬る剣が。
「カレン、それ振れんのか?」
「……無理」
「どうすんだ。優にぶん投げんのか?」
優なら使える。これで、貴族を斬ったんだから。
「そうしようかな」
……マナと同じ考えなのか。
「冗談だよ。私は振り回せないけど、動かすことはできる」
紐でもついてるように大剣が動く。
動かす指と同じ動きをする。
「風を受ければ火は大きくなる」
風を呑み込み勢いを増した炎の大剣が、巨人の心臓部を今度こそ貫く。
「──見えた! スターク!」
貫通した心臓があるはずの位置。
そこに光る黒い石が確認できた。
「小せえな。外さねーけどよ」
黒崎のようにただじゃ撃てないが、強化の魔法に武器。あと弾もか……。
──揃ってれば同じようなことはできんだよ!
♢
巨人に開いた風穴。
次いで赤い銃弾が黒い石を砕く。
黒い光の柱が上がる。
俺の目の前には燃える大剣。
掴めってことか。
こいつは、偶然ここに来たんじゃないのか。
カレンの位置から、巨人の下の俺は見えるのだろうか?
あとは落下するだけになった瓦礫と岩の下は。
「それなに、どっから来たの?」
「カレンの魔法だよ」
「周り燃えるよ」
「燃えないよ。こいつは全部を燃やしたりしない」
下に瓦礫を落とすなってことか?
「……リックもう一回強化くれ」
「もう終わったのに?」
「いいから」
カレンがやってみせたように、火に風を合わせる。
二重の魔法。二つの剣。
左の大剣が圧倒的に重量オーバーな感じだけど、一回振るうくらいはできる。
右の剣の風に、下から大剣を振り上げる。
両手じゃないから、いつものように振り上げたわけじゃないけどな。
大剣は内に秘めた炎を空に噴き出し燃やす。
風は炎を大きくする。
巨人の残骸。その瓦礫を跡形もなく燃やし尽くす。
地面にはわずかばかりのカケラが落ちるだけだった。
「うわっ、瓦礫が空中でなくなった!」
……これでいいのか?
「黒い光も見えなくなったな」
空が燃えてるみたいだ。
登る黒い光を隠すような光景だった。
役目を終えた大剣は消えていく。
不要なものを燃やすことなく。
これにて一件落着です。
特にヒヤヒヤすることなく見ていられましたね。
黒崎 飛鳥。彼との戦闘こそがイレギュラーだったのです。
本来なら、このくらいはやれる方たちなのです。
人間らしさが足を引っ張りますが、それが人間。
様々な情に左右される。
人とは、そういうものでしょう?
それに、効果はあったようだ。
何のことか?
……何のことでしょう?
ワタクシ、口は出しても手は出さない。
そう決められておりますので、何のことかわかりません。
次は、いよいよなお話。
語りはワタクシがいたします。