巨人
♢17♢
地面が揺れてる。その揺れで目が覚めた。
「……馬車の中か」
覚えのある天井。
先ほどまでのウサギの部屋ではない。
本当にちゃんと覚えてる。カレンは……。
隣にいた。まだ目覚めていないようだ。
あれからどうなった?
馬車は移動してる。
スタークが運転してるとして、リックはどこだ?
アオバさんもいない。攫われてた人たちは?
──ズン!
そう、浮き上がるんじゃないかと思うくらいの、衝撃を感じた。
「さっきからなんなんだ?」
「んっ……あれ。馬車の中?」
揺れと衝撃でカレンも目を覚ましたようだ。
カレンは、はっとした表情になり荷台から外を覗く。
「──そんな、こんなに大きいの」
大きいとは何のことだ。意味が分からない。
自分も外を見て揺れの正体と、カレンの言葉の意味が分かった。
山のような。
いや、まだそこまでの大きさではない。
現状ビルくらいあるものが歩いて来ている。
「なんだ、あれ……」
「あれが目覚めたやつでしょ。魔力を地面から吸い上げてる。このままだと、もっと大きくなる」
──今も巨大化してる?
あのウサギ、そんな話しなかったじゃないか。
……どうすんだ、アレ。
「二人とも起きたの。こっち来て!」
前方。馬車の正面から声が聞こえる。
「リック、お前が馬車を動かしてるのか? スタークは?」
「──説明するから、本当こっち来て!」
切羽詰まってる。そんな感じだ。
デカイやつが目立って気がつかなかったが、魔物が馬車に並走してる。鳥のような奴。
飛べない鳥。そんな名前だった。
飛べないこいつらは走っている。
馬車と同じくらいの速度でだ。
「こいつら倒せばいいのか?」
「ちがーう。いいからこっち来てー」
「みんな逃げてるんだ。あの巨人から」
逃げてる。アレは追いかけてきてるのか?
本当によろしくない、らしい。
「カレン、先行ってるから」
そう言って荷台の上に乗り移る。
カレンは魔法があるが、俺は自力で行くしかないから。
「ユウ、遅い! 大変だったんだから!」
大変だったんだろう。
馬車が通ってきたところを巨人は追ってきている。
木はなぎ倒され、岩は砕かれ、破壊の痕跡を残しながら巨人は歩いてきている。
「他の人たちは?」
「みんな先に行かせたよ。スタークが用意してたんだ。あの後、商会の人たちがやって来た。攫われてた人たちは全員、そっちの馬車に乗せて先に行ったよ」
あのチンピラたちにも活躍する場面はあったのか。
「スタークは?」
「巨人の上……」
「嘘だろ?」
♢
どっかに核があるらしい。
これ以上、デカくなる前に片付けないとな。
どういうわけか、このデカブツは村のある方向に進んでる。
理由は分からないが進ませていいわけがない。
土と水を吸い上げてるようだ。
水場を狙ってんのか?
土は足元にいくらでもあるからな。
「核は、やっぱ心臓の位置か?」
頭かと思ったんだが、爆破しても効果がない。
すぐに修復しやがる。
心臓部が弱点だとしてだ……。
「どうやって狙うんだ?」
下からじゃ不可能。
威力なんて足りるはずがない。
上から心臓部を狙うのか?
飛び降りながら正面からか。
それとも肩部分のここからか。
そろそろ魔力が足りない。大蛇に使いすぎた。
元から無いようなもんだからな。
「──スターク!」
「カレン? どうしたんだ、お前」
杖に腰掛けるカレンが目の前に現れた。
「どうしたは、私が言いたいんだけど……。銃で何とかなるの?」
「お前らが寝てるからだろ。俺一人じゃこうするしかねーだろ」
「魔法使うから、こっち来て」
飛び移れってことか?
……大丈夫なのか、それ。
「俺も杖に乗れんのか? マナみたいに力場作ってくれんのか? どっちだ」
「力場を作る。私もこのまま魔法使う自信はないから」
だろうな。
上手くはなったんだろうが、マナと比べるとな。
年季が違う感がある。
空中に魔法陣が現れる。
そこだけ足をつけられる。足場だ。
「──よっと。それでどうすんだ?」
「水が入ってるし、土人形に火が効かないのは体験済み。炙ったんじゃダメ。だから貫く!」
槍が一本、俺たちより上に出現する。
燃える炎の槍だ。
多数の槍ではなく一本だけだ。
「重なり合あって」
巨大化していく。火の魔力を与えられて。
デカブツが土と水で巨大化するように。
ここからでも熱を感じるくらいに。
「──貫け!」
魔法使いのカレンには、核である部分が分かっていたんだろう。
槍は、ちゃんと心臓部を狙って放たれた。
鈍い音がした。そのあと槍は爆発する。
魔力で押さえつけられていた槍がデカブツに当たり、半分くらい突き刺さったところで弾け飛んだ。
槍は炎を撒き散らす。
「──きゃあ」
「うおっ……今のでダメなのか?」
俺たちにも余波がある。
それだけの魔法だったし、威力だった。
「もう一度」
カレンは再び槍を生成し始める。
より大きく、より強くだ。
不意にデカブツは前進していた足を止める。
こちらを見た。
魔法を使うつもりのカレンを見ている。
そんな気がした。
「カレン、それでいいから撃て!」
「……まだ、足りないよ?」
先ほどと変わらない。
分かってる。だが、嫌な予感がする。
デカブツは腕を上げ、こちらに向かって伸ばしてくる。
「嘘、魔法に気づいてる」
「撃たれる前に排除しよってのか」
速さはないが、問題はそこじゃない。
防ごうとしてることが問題だ。
「だったら……」
別の魔法。火球が膨れ上がり、伸びてくる腕に当たる。
腕の軌道は逸れ心、臓部を槍で狙い撃つ。
デカブツの狙われている箇所に、水が吹き出す。
槍の威力を殺すためと、俺たちに対抗するためか。
その水の量は、空中の俺たちも届く。
オマケの岩石入りだ。
「掴まって! 回避して、もう一度攻撃する」
「そりゃあいいが……回避できんのか?」
追い討ちのように、さらに水が迫り来る。