表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/337

 渓谷 10

 こちらからは見えない崖の陰から光がほとばしる。

 衝撃を持って大地を揺らすほどの閃光。


 思わず目を閉じるほどの光の強さ。

 響く音は爆発と言っていい。


「おいおい、何だ。今のは……」


「──スターク、下ヤバい! 崩れるよ!」


 ミシミシいってはいたが、とうとう限界を迎えたらしい。川の真ん中から地面が沈む。


 地形が変わるのか。

 勇者って奴らが戦うと……。


 自分たちがやったことなど、ヒビ割れを大きくしたくらいだろう。

 リックと二人巻き添えを避け、崩れてない部分まで飛び移る。


 大蛇は飛べはしないし、ジャンプもできない。

 あの、重量では下に落ちるしかない。

 思い通りにはなったが、向こうが心配だな。


「蛇はもういい。優たちの方に行くぞ!」


「ボク、魔法使いすぎて疲れたんだけど……」


「それでも、俺と優の強化は維持してくれよ」


「こんなに暴れたの初めてだよ」


「そうだろうな。こんなのに遭遇することなんざ稀だ。愚痴は後にして行くぞ」


 その俺たちが目にした光景。


 爆発で砕けた崖。

 そちらこちらに威力の大きさを思わせる破壊の痕。


 その惨状で立ってるのは三人。

 黒崎(くろさき)、スカーレット、アオバ。


 どうして、アオバがいるのかは後でいい。

 優は倒れていて、カレンの姿は見えない。

 盗賊は……死んでるな。


「──カレン!」


 離れた位置に倒れているカレンを、リックが見つけたらしい。カレンはリックに任せよう。


「黒崎、今の爆発はお前さんだな。まだ、やんのか」


「そんなに怖い顔しないでくださいよ。目的は達成した。もう、ここに用はない」


「お前を殺すんなら今なんだろうが、俺の役目は優とカレンを、イワキまで連れてくことだ」


「なら、これで失礼します。貴族を殺しに行かなくちゃいけないので」


 流れてる血の量は傷が浅くないという証だ。

 それでも、貴族を殺しに行くつもりなのか。こいつは……。


「アオバ。お前は、どうしてそっちにいるんだ?」


 尋ねるまでもない質問をする。


「──助けて! 無理矢理連れてこられたの!」


「そんな嘘が、通じると思ってんのか」


「……思ってないわよ。カレンによろしくね。私は、この子たちと行くことにしたから」


「個人の自由だが、そいつに着いて行く意味は分かってんのか?」


「世界を救うんでしょ? 楽しそうじゃない。医者は必要よ。それに大人もかしらね……」


 そういうことか。

 掴み所のない女だと思ってたが、姉さんみたいな奴だ。


「黒崎、ウチの会長からだ。俺の邪魔をすれば殺す。トモエが何と言ったか知らないが、俺は勇者だろうと目障りなら容赦なく消す、だそうだ。気をつけな。姉さんより、会長の方がおっかないぞ」


「……忠告ですか。火神(かがみ)が邪魔をしなければ、今回だって何も問題なかったと思いますよ。邪魔をしたのは火神でしょう?」


「俺は、お前のやり方まで間違ってるとは思わない。ただな、そう思わない奴もいるんだ。覚えておけよ」


 世の中がそんな奴ばかりじゃ、世界なんて狂ってる。

 そうじゃない、他の道を探す、そんな奴らがいるから何とかなってんだ。


 俺やお前とは違うやつもいるんだよ。


「準備できたわよ。三人で移動するとか……無理だからね。失敗しても文句言わないでよね」


 地面に魔法陣を作成していた、スカーレットが口を開く。


「そういうわけだから──」


 アオバが黒崎に一撃を入れる。

 やはり限界だったらしい黒崎は、簡単にその一撃を受ける。


「医者としては、こんな怪我人に無理はさせられないからねー。ちょっと寝てなさいな」


「早く行くわよ! そのままにしてたら、アスカが帰っちゃう!」


 ──帰っちゃう?


「おい、どういう意味だ?」


「カガミくんも同じ。彼らには回収するための魔法もかかってる。本人が命の危機に陥ったりした時の保険ね。 ──本当に行くわよ!」


「スカーレットは、せっかちさんね。男の子って重いのよ?」


 こいつらに構ってる場合じゃない。

 優はどうなんだ? 意識はあるみたいだが……。


「ユウもカレンも大丈夫よ」


 二人の状態は確認してやがったのか。


 スカーレットの転移の魔法が発動し、三人は姿を消した。


 アオバの口ぶりからすると、貴族とは闘わせないな。転移先は不明か。


 ……あいつらの後は追えない。

 それに、こっちも貴族どころじゃねーな。


「リック、カレンを運んでこい! 俺らもここからずらかるぞ」


 ♢


 黒崎を止められなかった。

 それどころか、カレンすら守れなかった。

 盗賊は全滅し生き残りはいない。


 ……それが結果だ。


 何もできなかった。

 足りなかった。力ってやつが。


 攫われた人たちを助けたのも、俺以外のやつだ。

 本当に何もできなかった。


 もっと強かったら、違う結果になっていただろう。


 あの盗賊の頭は、俺に何と言うつもりだったのだろう……。

 その言葉を聞くことはできなかった。


 黒崎が正しかった。


 そういうことだったんだ。

 俺のやろうとしたことは、偽善でしかなかったんだ。


「それ以上はいけません」


「進めば、彼のようになってしまいます」


「少し、ワタクシとお話しいたしましょう」


 真っ白なウサギが立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ