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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
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ムサシの村 ②

 商会という組織の評判と実際との差。

 聞こえてくる評判は悪いものばかりで、その悪いものの象徴のような貴族という存在と繋がりが深く、人間の敵だとさえ言われる嫌われ者。

 だけど村の守りの要である魔物除けを施したり、無償で食料を配給したり、子供たちに優しかったりもすると、目撃した実際には評判とは違う面がある。


 これをこの世界に来たばかりの何も知らない俺と、聞こえてくる評判が全てと思っていたカレンとで考えたところで、確かな答えなんて見つからない。

 やはり会長という男に話を聞く必要性は大きく、そのための場所となったカレンの家にと俺たちは急ぐことにした。


 目的の家は村の中を東に進み、住宅が密集するところにあった。先ほど行った兄妹の家は西側にあったから真逆で、向こうにも水場が近くにあったから、動線がいい場所に住宅は集中しているようだ。

 歩き回り概ね把握した村の内部地図は、南北の入り口の門からの通りには生活に必要な店が並び、主に東寄りに住宅が集中。そして西側の村の敷地の半分以上を占めるのが畑となる。


 これほど大きな畑の訳は、このムサシの村の主な収入源が農業で、農業を生業とする人が多いからだろう。

 カレンの両親も農業を生業としているとのことだから、そうだと直接聞いたわけではないが間違いではないはずだ。

 だけど……何か変じゃないか? 何か引っかかるような……。


「──お母さん。ただいま」

「お、おじゃまします」

「そんなに緊張しなくても」

「大丈夫だ。心配しないでくれ」


 両親と三人暮らしだというカレンが入ったのは、木造の周囲と同じデザインの家。ログハウスのように見えた外観はそのまま中にも適応されていて和風とは程遠い。

 フローリングの自宅とも違うから、異世界っぽいと思わざるをえない。電気もガスも水道もないのだから尚更だ。


「あら、おかえり。マー坊とスーちゃんは見つかったんだって。無事でよかったよ」

「うん。二人を助けてくれた人がいたんだ」


 お母さんと呼ばれて奥から出てきたのは、金髪に碧眼の恰幅のいい女の人。しかし親子と言う割にはカレンとはまったく似ていないな。

 カレンが黒髪だからかそう見えるのか、二人の体格の違いからなのか。それとも姿は見えないけど、カレンは相当に父親似なのか?


「それはよかった。って、もしかしてアンタかい?」

「えっ、あぁ、あの兄妹なら一応そうだと思います……」

「なるほどね。アタシはカレンが男の子を連れて帰ってくるもんだから、どうしたのかと思ったよ」

「──ちょっとお母さん!」


 似ていないとか考えてたところに、急に顔を近づけられて焦った。思わず後ろに下がってしまった……。

 そして村の中のことだからにしても耳が早すぎるだろ。あまり触れ回ることでもないし、もう十分に感謝されてきたんだけど。

 ……そして今度はなんなんだ。ジロジロと見られるけど。


「なんだか見ない格好だね。アンタどっから来たんだい? ここらじゃないとなると南からかい。もしかするとリュウキュウとかからかい」

「リュウキュウって琉球? 確か沖縄のことだよな」


 ムサシの次はリュウキュウという地名か。

 これは偶然に同じ地名なだけなのか。珍しくはあるけど聞いたことがあるからそう思うだけなのか。って、それがわからないから今から話を聞くんだよな。


「やっぱりリュウキュウかい。向こうは珍しい格好するって話を聞いたことがあるから、そうじゃないかと思ったんだ」

「いや、リュウキュウではなくて。えーと」


 東京と説明して伝わるわけはないから、リュウキュウでも構わない気はするけど、制服がリュウキュウの格好だと思わせてしまうのもあれだ。

 自分では目立つ格好には思えなくても、異世界からすると違和感なんだろうし。どう言うべきなのだろう。


「お母さん。彼、マヨイビトらしいの」

「マヨイビト。それは珍しい。見ない格好なのも納得だよ」

「それも、つい最近らしいの」

「あら、それは大変だ……」


 今のやり取りで「マヨイビト」という単語が周知されたものだとわかった。そしてマヨイビトだから大変だとわかるということは、異世界側は俺たちの方の世界のことを知ってるのか?

 向こうではゲートが現れなければ知りようもなかったことなのに、カレンもその母親も会長とスタークという男も知ってた。四人中四人が知っているのでは、たまたまではないだろう。


「ひとまず無事で何よりだね。だけどアタシは何も力になりようがない。カレン、村長さんはいろいろ顔が広いから相談してあげな」

「うん。そのつもり」


 状況的にはたいして変わらないのだが、実際のところはマヨイビトのようでマヨイビトではないんだよな。

 カレンは森で「勇者」と聞いて俺が普通のマヨイビトとは違うとわかっているけど、やはり自分でも情報が足りないから他の人に説明するのは難しい。

 しかしマヨイビトで納得してくれるのはいいけど、心配してもらうのは申し訳ないぞ。


「──そうだ! これ、よかったら使ってください。貰ったけど使い道がないんで」

「いいのかい。くれるって言うならアタシは本当に貰うよ」

「今から返すのもあれなんで遠慮なく貰ってください」

「そうかい、ありがとね。お昼は食べていきなよ」


 沈んだ雰囲気を戻すために貰った配給の布袋を利用するのもどうかと思うが、マヨイビトではない俺が他の人に余計な心配される必要はない。

 その分の心は俺にではなく別なところに向けてほしい。

 あとでカレンにも心配はいらないと伝えないと……。


「カレン、いい子じゃないか!」

「なんで私に言うの!?」

「アタシはいい子だから、いい子だって言っただけだよ」


 カレンのお母さんは言うだけ言ったら、「お昼の用意するからなかよく座ってな」と残して、台所があるのだろう奥にといってしまう。


「……お、お母さんに言われなくてもいい人なのは知ってるわよ。ちょっと疑っちゃったけど……」


 テーブルに手をついて下を向いたまま早口で何かを呟いていたカレンに、「心配はいらないから」と二人になったから早速言おうと思ったら、「お、お茶。お茶用意してくるから!」とカレンも逃げるように台所にいってしまった……。


◇◇◇


 お茶を用意して戻ってきたカレンは落ち着きを取り戻していて、今度は話しかけても普通に答えてくれた。

 マヨイビトではないから心配はいらないと話し、カレンが現れるまでの森での経緯を逆行して話していると、どちらからか「魔法」というワードが出たところから流れがおかしくなった。


「──魔法に興味あるんだ!」


 初めのこの時点というか、移動中もその片鱗は見えていたのだが。興味があると正直に答え、さらに興味本位で「森ではどんな魔法を使っていたのか?」と聞いたのが間違いだった。


「まずは索敵ね。これは生き物の気配ではなく、魔力の流れでその距離と数を測るの。精度はより感じとる力が強いほど増す。感じとる力っていうのは、魔力の扱いの上手さに比例するの。ざっくりと何人くらいと感じるか、より正確な人数を把握できるか、人数に加えて距離もわかるか、さらに力の大小も判別できるかと、索敵一つでも何段階にもわかれる。同じ魔法でもそんなふうに差が出るから、魔法使いの力量は偽れない。例えば、────」


 この後もカレンは永遠と喋り続けた。より詳しく、より深くという具合に、いつまでも終わることなく永遠とだ……。

 長い話しの中で俺にもわかったのは、カレンの索敵の魔法は人数と距離のところまではかなりわかるが、距離を伸ばせばその分だけ精度は落ちるということだけだ。


 カレンは魔法を使うからこっちは任せてくれと、村長の指示で兄妹を探索に出る男衆とは村を出たところで別れ、一人になってから魔法を使い兄妹を探し始めた。

 そして歩いては索敵し、歩いては索敵しを繰り返し、魔物ではない動くものをやっと見つけたと言っていた。

 人気のない静かな森の中でも、子供たちが発するような小さな力を感じとるのは難しいことらしい。


 カレンは普段はない変な感じがする方向が気になったことが、子供たちを見つけられたきっかけだったとも言っていた。

 それは大量のスライムたちのことであり、それを引きつける俺のことだったのだろう。


「気づいてなかったと思うけど魔物除けも使ってた。感覚的に隠す魔法だから姿を見られてしまうと効果ないんだけど、あの辺りの魔物は全部倒してしまったから問題なかった。魔物除けは強力になるとそれ自体を魔物が嫌がるものになるの。村や街にある魔物除けはこの強力なもの。たとえ見えていようと魔物は近寄らない。この二つの魔物除けは同じようで違う魔法なんだ。片方は、────」


 一つ話がやっと終わったと思ったら、二つ目がすぐに始まった。この話も一つ目と同じくらいに長い話だった。

 しかし、ふと我にかえって「またやっちゃった……」と言うあたり、自覚はあるようだし気をつけてもいるようだ。

 カレンは一度語りに入ってしまうと熱が入り、歯止めが効かないらしい。


 でも、それ仕方ないのかもしれない。

 ムサシの村にはカレンしか魔法使いはおらず、魔法に興味がある人間もいないから魔法の話ができる人もいない。これでは魔法に興味があると言った人間と話したいと思うだろう。

 何より、俺が更紗(さらさ)とそうだったように、好きなことを共有できる人間は見つけたら嬉しいんだよな。


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