盗賊 10
♢11♢
村に接近する盗賊を捉えた。二隊。二十人。
火神たちは商会の支部のある村。
最後に殺す貴族のいる村に戻った。
狼に確認させたから間違いはない。
夕暮れか……。
スカーレットを思い出す。
彼女と出会ったのもこんな時間だった。
盗賊たちを迎え撃つために村を出ようと、村の真ん中の道を歩いていく。
すると前方から、見覚えのある髪の色の彼女が、同じように歩いてくる。見間違いでも幻でもない。
「──スカーレット」
そう声をかけていた。
自分で理解できないくらい自然に。
「アスカ、やっぱりこの国にいたんだ」
再会は数日ぶり。
もっと長い間がかかるであろう再会は、簡単に訪れた。
「君、どうしたんだ。僕に来いって言ってたじゃないか……」
「お使いのついでよ。ついで」
お使いのついで……。
ムツの国での最後のあれは、そのくらいのものだったのか?
「ムサシまで来たから、ついでにムツに行くつもりだったんだけど、この国に出た。きっとムサシの彼に引かれたんだ」
ムサシの彼。それは──
「火神のことか。ムサシの彼ってどういうことなんだ?」
「火神……確かそんな名前だったわね。会ったの? 彼も貴族を倒してる。聞かなかったの?」
つまり、火神も貴族を殺した。
それならこの世界の一端には触れたはずなのに、盗賊を見逃し、その上ただ倒せばいいと思ってるのか。あいつは……。
甘いヤツだ。
それで世界が救えると考えているのなら。
やっぱり、一人でやる選択は間違いじゃなかった。
『黒崎、あなたも一緒に来たら?』
盗賊を探索した折に、カレンにそう言われた。
『スタークは一緒に行ってくれるやつを探せ。そう言ったけど、私たちと一緒に行かない?』
それを断った。
でも、一瞬でも迷ったのは間違いない。
誰かが隣にいてくれたら、そう思うことはあったから。
「スカーレット。僕は今から盗賊を狩りに行く。君はこの村にいてくれ」
「そのくらい手伝うわよ?」
「一人でいいよ」
「なら、勝手にやるわ。どっちから来るの?」
「話を聞いてたのか……」
「聞いてるじゃない。私だって、これから襲われます。って分かってるんだったら手伝うわよ」
一人でいいと言ってるのに。
彼女のこの強引さは自分には無いものだ。少しだけ羨ましくなるな。
「好きにしてくれ。僕も勝手にやるから」
「じゃあ、アスカそっち側ね。どっちが多く倒せるか勝負しましょうよ」
「いいよ。ただ、手は抜かないからね」
村から出て、誰にも気づかれることなく終わらせようと思っていたのに……。
スカーレットといると調子が狂う。
それでも手は抜かないけど。
影から狼が現れる。
瞬く間に盗賊の数の倍以上に増える。
「──ちょっと、それズルくない? アル様に聞いてたより大きいし強そう。そんなの対等じゃないわよ!」
「魔法は自分の力なんだからズルくはない。これでも少ない方だ」
スカーレットが三人倒す内に残りの盗賊を狩り尽くした。
これで残りは半分。
♢
スカーレットが倒した三人は息がある。
彼女も無駄な殺生はしないらしい。
なら、予定を変えてこいつらを使おう。
馬を尾けるのはやめて、こいつらに案内してもらおう。
もう少しだけ生かしておいてやる。
盗品を持ち帰る場所まで、連れて行ってくれ。
狼に追跡を頼んで場所が分かり次第、消しにいこう。この国の悪を。そのあとは貴族と、それに従うやつを。
だから、今の内に休んでおこう。少し気を張りすぎた。
「──なに、野宿なの?」
「スカーレット。お使いはいいのか? 帰った方がいいんじゃないか。心配するぞ、あの人」
「一日二日、帰らなくても心配しないわよ。それよりあなたでしょう。せっかく感謝されて、泊まっていってくれって言われたのに。それを断って野宿するのね……」
村を襲おうとしていた盗賊と戦うのを見られていた。終わったあと村まで連れて行かれ感謝された。
感謝されるとは思わなかった。
自分勝手にやってることなのに。
助けた女性に頼まれなくてもやったことなのに。
「いいんだよ。テントも必要な道具も揃ってる。君だけ泊めてもらいなよ」
「その道具もスゴイわよね。中どうなってるの?」
「……やっぱり聞いてないよな」
「テント一個しかないの? しょうがないわね……」
何がしょうがないんだろう?
「なにキョトンとしてるの。私も寝るわよ」
「……どこで?」
スカーレットはバンバンとテントを叩く。
嘘だろ。いくら彼女でもそんな真似は。
「早く寝るわよ。休める時に休む!」
冗談じゃないのか。
それで僕が休めると、本当に思っているのだろうか。
「見張りはいるんだから、自分は見張りをするは通じないからね」
言い訳もできないらしい。
諦めよう。この強引さには敵わない。
朝方、狼が戻ってきた。
盗賊の潜伏場所を見つけたのだ。
お前たちの盗賊稼業は、今日でお終いだ。