盗賊 9
辺りに盗賊はいない。
それを知っていて、分かれて探索を提案した。
今のところはだけど、たぶん姿は見せないはずだ。
火神たちには悪いが、自分一人でやりたい。
潜伏場所があるはずだ。今も狼たちが探している。
見つかるのは時間の問題だったんだけどね。
……あの人。スタークと言ったか。彼の最期の一言。
「ただ、一つだけ。盗賊を発見したら馬にこれを付けろ。後をつけられる。あの馬は飼い主、つまり盗賊のところに戻るはずだ」
それは盲点だった。
盗賊を泳がせて潜伏場所を探るつもりはなかったが、あの馬が飼い主のところに戻れるとは知らなかった。野生に帰るんだと思っていた。
「魔物だらけの場所じゃ野生なんてない。安全なのは飼い主のところ。戻るのは確実だ」
不慣れな異世界。自分だけでは分からなかったな。
一緒に行ってくれる人か……。
思いつくのは緋色の彼女。
それくらいしか、そもそも知らないのだけれど。
「──どうかした?」
隣の杖に腰掛け移動する彼女が話しかけてくる。魔法使いとは浮けるし、飛べるのか。
「本当に魔法使いとは杖で飛ぶんだと思ってね」
「私も最近知った……。まだまだ練習中なんだけどね」
「上手く見えるけど?」
「集中してないと落っこちる。意識しないでできるくらいにならないと」
カレン。彼女は魔法使いとしては相当だと思う。アレを防がれるとは思わなかった。障壁まで届きもしなかった。
そして本気でもない。
その彼女が、まだまだなんだと言う。魔法とは底が見えないな。
「僕からも聞きたいことがあるんだけど、構わないか?」
「なに?」
「防御の魔法について。その魔法が欲しいんだ」
今より強力なやつが。
新たに作りはした。前の魔法は意味が無くなってしまったから……。
しかし、火神の攻撃を防げない今の障壁では完璧じゃない。守りたいものを守れる魔法が欲しい。
♢
「スタークはさ、なかなか分かってるね」
狼の先導の元。盗賊探しの途中でリックがそう言った。
「……何の話だ?」
「クロサキにカレンを一緒に行かせたことだよ」
黒崎からしたら全員初対面。
俺と黒崎では振り分けが偏りすぎてるから、妥当だと思う。
「妥当な判断じゃないのか?」
「ボクか自分という選択肢もあったはずだ」
「黒崎と行きたかったのか?」
「違うよ。自分たちとは違う奴を、クロサキにつけたんだ。カレンなら、と思ったんだろうね」
──カレンなら?
「ボクの思う一人のヤツは、一人で出来るヤツか、一人でやりたいヤツ。クロサキは一人で出来るしやりたいヤツ。他人を信じてない。必要としてない」
「……信じてない」
「たぶん、この探索中に盗賊なんて現れない。分かっててクロサキは提案したし、スタークは答えた。ボクたちが諦めるか、他の場所に行くか。そのどちらかを期待してね」
リックの言う通りだったとして、カレンを一緒に行かせた理由とどう繋がるんだ?
「カレンがいたら、おかしな真似はしないだろうからね。最初に森で言ったよね?」
「……血の匂いがするってやつか」
「そう。狼はもちろんクロサキからも同じ匂いがする。何人、何十人、下手したらそれ以上のね。分かるかい。クロサキの言う盗賊の討伐は、その命すら絶つことだ」
黒崎。あいつだって異世界に来たのは、俺と同じだ。俺たちは同じ日数しか、この世界を知らない。
それなのに……。
「驚くようなことじゃない。ボクやスタークでもそうするよ。必要があればね。殺すか殺されるか。奪うか奪われるか。結局はそれだからね」
「俺はそうは思わない」
「だから、カレンを行かせたんだろ。カレンもユウと同じような考えみたいだしね。ただ、キミら二人を一緒にしたら、喧嘩じゃ済まないかもしれない」
黒崎。あいつは強い。攻撃に躊躇いがない。
あれは命すら奪う覚悟があってか。
確かに盗賊たちは許せない。
だからといって命まで奪う必要はあるのか?
♢
結局、探索は空振りに終わる。
盗賊たちが動き出すのは夕暮れ。
黒崎と別れたあと。俺たちが南西の村を出たあとだ。
あの村に残った黒崎が、盗賊たちを村に入れることなく始末した。俺たちがそれを知るのは次の日だ。