盗賊 8
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森での戦いの後。お互いの誤解も解け、この国での目的も同じだと分かった。
黒崎も盗賊を追っている。それならばと情報交換することになった。
場所は目的地だった村。商会の支部から南西の村だ。
「背後にいるのは貴族なのか……」
「赤い目の若い男。そいつが黒幕らしい」
そいつが盗賊を使い、村を襲い、女の人を攫ってムツの国を目指している。
俺がこの話をしている間、黒崎は表情を変えなかった。
「盗賊から背後にいる奴の話は出たけど、誰なのかまでは知らないみたいだったから助かったよ。ありがとう」
「俺だって、他に盗賊を追ってるやつがいて助かる。相手は人数が多いみたいだからな」
「一隊十人程度。それが十隊あるみたいだよ。三つ潰したから後七つ」
黒崎は一人だ。それなのに、もうそれほどの数を倒している。
「……詳しいな。黒崎、お前さんずっと一人か?」
あまり口を挟むことのなかったスタークが、黒崎に訪ねる。
「一人といえば一人だけど、手伝ってくれた人たちはいましたよ?」
「力もある。それなら問題ないんだろうが、誰か一緒に行ってくれるやつを探せ。一人ってのは、やめといた方がいい。いろんな意味でな」
「……そうですね」
黒崎はそれ以上はスタークの話に答えなかった。
そして、ずっと話しかけたかったらしいカレンが手を挙げる。スタークが話していたから我慢していたようだ。
「私も聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
カレンの聞きたいこと……きっとあれだろう。
だんだん分かってきた。カレンは見たことないもの、知らないことへの関心が強い。
外の世界が見たい。これが最たるものだ。
全部を含んでいる。未知への好奇心とでも言うべきだな。
「──あの魔法はなに? どうなってるの? それに、その銃もどういう仕組み? ムツの国ってどんなところだったの? ……とりあえずこのくらいで」
そんなに聞いても、一度には答えられないだろ……。
「君にはすまない事をした。だから、僕に答えられることなら答えるよ」
カレンに悪いことをしたと思っている黒崎は、カレンの質問責めに付き合うようだ。
なかなかハードなんだよな……。
黒崎が俺たちを盗賊だと誤解していたのは、盗賊たちと遭遇した際の残り香。それが原因だった。
あの時、カレンは馬車で盗賊たちを轢いた。煙幕で見えなかったから、俺は気がつかなかったがカレンは盗賊と接触があったらしい。
その際に服に匂いがついた。
狼はその匂いを発見し、黒崎は森に先回りしていたんだ。
「カレンは冒険家とか向いてそうだよね。世界一周とかしたそうだし」
「リックの旅も変わらないんじゃないのか?」
「カレンほどの探究心はないよ。学者とかも向いてるかもね」
冒険家はありそうだ。世界を見て回りたい目的とも一致するし。
黒崎に質問して答えを回収する姿は、学者にも見える。知識欲が旺盛な面もあるな。
♢
「あの魔法はなんなの。生き物を作る魔法?」
「支配者の魔法というらしい。貴族の使う、眷属を作る魔法と同じだよ」
「……でも、黒の魔法じゃないよね?」
「カレン。君、そんなことも知ってるんだ」
「なんの魔法なの? 名前とかあるの?」
「夜ノ魔法。そう名付けられた」
「夜。なにを掛け合わせたの?」
「黒と白を」
「あなたが黒。それとも白?」
彼女の質問は続く。
♢
黒崎が盗賊の討伐に加わったから、ここから先の展開が変わった。
俺たちは待ち伏せるつもりだったんだけど、黒崎が提案してきた。
「五人いるんだ。分かれて盗賊を探さないか? この村に姿を見せるまで待ってることもないだろう」
俺と黒崎は一人でも盗賊くらいに遅れはとらない。
「振り分けは任せるよ」
「黒崎がカレン。優がリック。それぞれ連れて南北を探せ」
指揮は慣れてるスターク。
日頃から指示を出す立場なやつがいてよかった。
会長がいる時は全然分からなかったけどな。
「スタークは?」
「ここに誰もいなくなるのは避けるべきだ」
「僕はそれで構わないよ」
俺も構わないけど……。
「魔物避けは? 無いと、俺めんどいんだけど」
「──ボクが使えるよ! 一人旅には必要だからね」
リックは魔法も使えるのか。黒崎も使えるし……。
俺とスタークだけか、使えないの。
「火神。君は力のコントロールが下手みたいだね」
「これでも少しはマシになったんだぜ? 俺が教えても理解しやしねー」
あの教え方で言われてもな。スタークは教えるのには向いてない。
「探索には鼻が聞くこいつを連れて行ってくれ。どちらかに反応があれば案内するから」
黒崎の背後。その影から狼が二体現れる。
影に潜れるのか、あの狼。
今のを見れば、森の中でもそうだったのだと分かる。
「発見したら判断は任せる。俺からの指示ない。ただ、一つだけ……」