盗賊 7
──今の一撃で視界が開けた。
遮っていた木々はなくなり、斬られた木が辺り一面に散らばる。それでも相手の姿は見えない。
代わりに地面から狼が現れる。
狼は今度は馬車ではなく俺を狙ってくる。
相手は魔法使いで、あの光は魔法。そう考えてる。
この狼との関係までは結びつけていいのかは、まだ分からない。ただ、マナさんの鳥とは違う気がする。
狼は容赦なく襲いかかってくる。
動きの速いコイツを仕留めるのは困難だ。
馬車は先に行ったんだな。援護してくれって言ったのに……。
なら俺も、足止めをある程度したら追いかけよう。
目的地に着くのが、盗賊たちが優先だ。
得体の知れないヤツに構ってる場合じゃない。
そう考えていると、また光線のような光が上に登り降り注ぐ。
今度のは躱してもついてくる。誘導弾なんだろう。光と狼と動きが合っている気がする。
なら、この狼と魔法を使ってるのは同じ奴だ。
♢
生えていた木々は全て倒れ、今はその倒れた木に隠れている。
駄目だな……。この相手は強い。
これだけじゃ仕留められないな。あと一撃貰ったら障壁も割れる。
一度、退くべきだろうか?
……いや、強い駒を出して隙を作ればいい。相手はまだ、こちらの位置を掴んでない。
六発。空中に銃弾を放つ。
目で見て操作することはせずに、感覚だけで動かす。相手は気配が大きい。見なくても位置が分かるくらいに。
わざわざそんなことをする理由はない。つまり、力を操るのが下手なんだ。
突くべきところはそこだ。
魔物も寄ってきてる。引き寄せられているんだ。強い力と気配に。
そこまで誘導すれば、大駒はいらないか……。
♢
狼が増える。一匹だと思っていた狼は、一匹ではなかったのだ。重なり合いそう見えていただけ。あの重量の理由はそれだ。
斬ってもキリがない。スライムみたいだ……。
狼は再生するとかではない。斬った奴は消えてなくなる。だけど、キリがない。
いくらでも別れて、襲ってくる。
剣を振るい増えた狼を斬る。黒い狼は血を流すこともなく、霧のようになって消える。
そして目の前だけに集中もできない。死角から光が飛んでくる。
光という表現は正確じゃないと思う。しかし、形すら自在なこれを表せる言葉は見つからない。
威力は大したことない。
魔力を帯びた攻撃だから、痛いは痛い。魔法というのも間違いではなかった。
「うっ……痛……」
避け損なった。
体勢を崩した俺に容赦なく狼が襲いくる。
一匹なら対処できても複数いては難しい。
──グゥゥゥアーーグゥァ!!
そんな音がした。
光に次いで狼の一撃もくらい、俺は地面を転がる。なのに追撃はこない。
それもそのはずだ。狼たちは一匹を残して、一斉に地面に消える。
音の正体は鳴き声だった。
鳥のような体。二本の足で立ち、羽が腕。頭は鳥ではなく爬虫類のような顔。
──なんだ、この魔物。
それがかなりの数現れた。
♢
──誘導は成功。
その魔物に食い殺されるのもいいけど、殺してくれと頼まれたからね……。
──トドメは刺してやるよ。盗賊。
これまでの単発の射撃ではなく、集束させた一射。貴族を貫いた一撃。
それが必要だと思ったからこそ使う。
そのくらいの相手だと評価したから。
「じゃあね」
集束した弾丸が放たれた。
♢
「──ユウ!」
声と共に射掛けられた矢が魔物に刺さる。
もう一つ。炎が光線とぶつかる。
「リック! カレン!」
自分たちだけ先に行ったのかと思っていたが、違った。馬車が、スタークがいないということは、馬車だけは先に進んだんだろうか?
「優。相手は魔法を使った位置にいる」
──光の放たれた直線上か。やっとその顔を見れそうだ。
「コイツら任せた!」
魔物は二人に任せ、駆ける。
視界に入ったが、相手は逃げようとはしない。手に持つ銃を俺に向け引き金を引く。
銃だったのか……。
それが光の正体。あれは弾だったのだ。
撃たれる、その弾を斬り捨て進む。
互いの距離はなくなり、俺は剣を、相手は銃をそれぞれ突きつける。
声も届き、顔も見える距離になった。
「やっとご対面だな」
「……盗賊にしてはやるね」
そう言葉を交わし、相手に気づく。
服は俺と似たような格好。肩にかかるマントくらいの違いしかない。
だけど、髪に瞳の色。自分と同じ。
相手も同じようなことを思ったのだろう。
「「──あれっ?」」
俺たちはそう口にしていた。
異世界の人間ではないと分かったから。
「盗賊じゃない……」
「お前こそ──」
そこまで言って思い出したことがあった。
「もしかして、クロサキってお前か?」
「どうしてそれを……」
当たりらしい。
これが出会い。自分と一緒に異世界に来たやつとの最初の出会い。
黒崎 飛鳥との出会いだった。