盗賊 6
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商会の支部を後にした俺たちは、次に狙われるであろう村を目指している。商会で必要な情報は手に入った。
盗賊は複数のグループに分かれて行動している。
昨日、遭遇したのはその一団だった。十人編成だとしても複数グループが存在するなら、人数は膨れ上がる。被害だって大きくなるはずだ。
手足を潰してから頭を潰す。
盗賊を倒してから貴族を。そういう話になった。
聞きたい事は他にもあったのだが、また機会はあるだろうし、今は一刻も早くあの盗賊たちを倒さなくてはと思った。
だから、あの後すぐさま村を出た。
商会の建物を出るとき一つ重要なことを言われた。
「最後になっちまったが、夜中に訪ねてきたヤツがいてね。あの子も、あんたと同じマヨイビトだと思う。女を一人匿ってほしいと連れて来たんだ。盗賊に攫われた女だった。その子は──」
俺たちと同じようなことをしているマヨイビト。それは、五人の中の一人なんじゃないのか?
「クロサキと名乗った。歳もあんたと同じくらいだね」
クロサキ。そいつもこの国にいる。
♢
目的の村に行くには、左右を木に覆われた森の中の道を通る必要があった。そこは明るくても薄暗い場所だった。
「アオバさん。あそこに残ってくれて良かった。男の人を見ててくれるみたいだし」
「あれは趣味みたいなものだから」
「人助けが趣味とか、いい人だな」
「違う。治療が趣味の変な人だよ……」
カレンのその言い方をされると変な人になってしまう。流浪の医者か。あの人のことは何も聞けなかったな。
「──ユウ、森の中になんかいる!」
リックがそう声を上げる。
「嘘。だって何の反応もないよ?」
カレンの魔法に反応がないのに、リックは何かいるという。
「血の匂いがする。それも人間の血だ。ユウ、行くよ!」
スタークは運転手だし、カレンは魔法使い。出張るなら俺とリック。
「カレン、援護頼む!」
それだけ言い残して馬車を飛び降りた。
「どこにいるんだ?」
馬車は停止せずに移動を続けている。早くここを抜けた方がいいからだろう。
視界も良くないし、木に覆われてるから何がどこにいても分からない。
だから、カレンは索敵を続けていた。
「わかんない。匂いはあるのに姿はない」
カレンの魔法は機能してる。リックのこれは獣人の嗅覚というやつか。
ウゥ──
今、微かだけど唸り声が聞こえた。
何かいるのは間違いない。けど、どこだ?
木々の間、それとも上か?
前後左右どっちからなのかも分からない。
「──ダメだ! 今の声、馬車の方からしたよ!」
後ろを振り返ると、何か黒いモノが地面から這い出るところだった。
狙いはあっちか!
「カレンは気づいてない。リックは弓で狙ってくれ。俺が前に出るから」
「わかった。 ──ユウ、速! 弓より早いとか……」
黒く大きな生き物が地面から現れた。ソイツは俺の速度が乗っている、背後からの一撃を簡単に躱す。
コイツ、犬か?
それにしてはデカい。人間とサイズが変わらない。
嚙みつこうとしたソイツが見せた鋭い牙。それを見た瞬間に犬とは違うと分かる。
それと同時に、もしかしてと思う生き物を思いついた。
もしかして……狼なのか? コイツは。これも魔物なのか?
あくまでも狙いは馬車のようで狼は、俺を早々に無視して馬車に向かっていく。リックの矢も難なく躱される。
「素早いね。矢が当たんない……」
「それより馬車だ。何であっちを狙うんだ」
狼とは別に、キラリと光るものが馬車に向かっているのに気づいた。それは白い光線のようにこの位置からだと見える。
カレンも接近に気がつき、応戦するために魔法を使おうとした。狼に向かって。
光線にカレンは気づいてない? それに狼もカレンを狙ってるのか? やらせるかよ……。
「──カレン!」
木を蹴って飛び上がり、迫る光を剣で弾く。そのまま狼も斬り捨てようと剣を振るう。
直上からの攻撃を避けられない判断したのか、狼はその爪で剣を受けた。
……重っ。
斬るどころか剣は受け止められ、その上押し負ける。力負けではなくコイツが重すぎる。
それもそのはずだ。狼が脚を地面に着けた場所がヘコむ。俺は剣を振り切れない。
あの動きで、こんな重量なのかコイツ?
「──リック! そのまま馬車に戻ってカレンと二人で援護してくれ。コイツは俺がやる」
「了解」
新たに二つ、白と黒の光がカレンに向かっていく。
どうあってもカレンを狙うのか……。
今度も同じように弾くつもりだったのに、剣は空を切る。直前で光の軌道が変わったのだ。
なんなんだ……。この狼も光も。
光は逸れた軌道のまま一周し、再びカレンに向かうんだろう。
カレンが言ってたよな。森の中には何もいないって。なら、誰も巻き込まない。
だったら──
剣の黒い刀身が輝きを放つ。
盗賊の折の量ではない魔力を剣に与える。
──これならどうだ!
森の木々を全て斬り裂いた。背後の馬車のいる方向以外を全部。
斬撃に光はかき消え、狼は地面に潜った。
♢
足場だった木々が一撃で全て斬られる。
それどころか一キロくらいは広がっていたはずの森が無くなる。
狼の一撃も難なく受けた。
あんなヤツが盗賊にいるのか?
軌道を操った弾ごと対処するためか。
相手の人数は四人。
……どうしようかな?
斬撃をまともに受けた少年は、ひび割れた障壁を見てそう思った。