医者 2
ばあさんに話を聞くのにと、手術中の部屋に近づくなと言うために、入口のところに戻ってきたんだが……。
テーブルに座り飲み物を飲んでるリックと男の息子。その前に座り話をしているばあさん。
それに何故だか全員倒れているチンピラたち。そして、チンピラたちの真ん中に立ったままの優。
「なんだこりゃ……」
他に言いようがない。
てっきり文句を言うと思っていた優は、
「スターク。男の人は? カレンがそっちいっただろ」
そう言っただけだった。
「手術中。だそうだ。誰も近寄るなと言っても、チンピラ共がこれじゃあ心配いらないだろうがな」
「手術中。やっぱり酷い怪我なんだな……」
「──そうそれだ! お前、あの女が医者だって分かるのか?」
「だって、白衣着てるんだから医者だろ?」
白衣ってのは、あの白い装いか。
あれを着てるのが医者。
「あの女。アオバって言うらしいんだが、マヨイビトには見えなかった。なのに、違う世界の装いの医者か……。ややこしいのが現れたな」
技術の出所の件もある。
ちゃんと話は聞かなくちゃならないな。
しかし、今は盗賊たちの方が先だと思い、ばあさんたちの方に歩こうとするが足元のチンピラに引っかかる。
「そういや、こいつらはどうして伸びてんだ?」
「イライラしてた優が全員倒した!」
「絡まれたからだ。しつこかったからな」
こいつら見境なしか……。
「ばあさん。このチンピラ共はなんだ。商会は人手不足でチンピラを雇用し始めたのか?」
「チンピラの親玉みたいなやつがよく言うよ……。そいつらは、護衛希望の見習いたちだ。どうだい護衛の責任者としちゃ?」
「いらねー」
こんなの使いもんにならないだろう。
優一人に全員のされてる。それにガラが悪い。こんなのが下にきたら俺は追い出す。
「口もガラも悪いが、やれと言ったことはやるし、言うことは……それなりに聞く」
「いらねー」
「……まぁ、決めんのは会長だ」
絶対に必要ないと言おう。
そんなことより、
「ここに来たのは理由がある」
面倒ごとはあったが本来の目的を達成しないとな。
「この子から聞いた。盗賊だね。現れ始めたのは二週間くらい前からだ。ちょうど、貴族がこの国に来た日からだね」
「さっきの野郎が黒幕か。盗賊を使う目的はなんだか分かるか?」
「女だね。若い女のいる村が襲われてる」
「女攫ってムツの国にか。すでに無いとも知らないで……」
「──どういうことだい?」
まだ、知らされてないのか?
支部には通達してもいいと思うんだが……。
「もしかして通信機ないのか?」
「そいつらが壊してね。修理は頼んだが、ここはルートから離れてるからね」
やっぱりいらないなこいつら。ロクなことしてない。
♢
アオさんの手元は淀みなく動く。
魔法で癒すわけではない、この人に興味があった。
私の村を訪れた時も旅をしてる途中だった。
その時、偶然見たその治療方法を教えてくれと頼んだら、少しの間ならいいと快く教えてくれた。
「カレン。短い間に上達したね。水の癒しは人の体を水が占めているからこそ有効だけど、他の属性でも似たような事はできる。私は風だし、カレンは火。誰も使わないのは知らないから」
始めは意味が分からなかった。魔道書にも書いてなかったから。
「魔法は万能じゃない。でも、それを万能に近づける方法はある。薬に医術。私はそれを極めたい。そのためには、どうしても行きたいところがある。それが旅の目的よ?」
あの時は分からなかったけど、今なら分かる。
アオさんの行きたいところとは、この世界じゃない場所だ。その世界に行く方法を彼女は探しているのだ。
「──はい、終了!」
「相変わらず楽しそうですね」
「あら、私が患者を治すのは楽しいからよ? 培った技術を使えるし、命だって救える。こんないいこと他にある?」
「治すのが好きなんですよね」
「怪我人っていう言葉も好きよ。いないに越した事はないけど、いなくちゃ医者は死んじゃうの」
嘘ばっかり。
でも……アオさんならあり得るかも。
「さっきの続きだけど、どっちが本命なの?」
「──だから違うから!」
♢
「ユウの兄貴。飲み物をどうぞ!」
「スタークの大兄貴。火です!」
──どうしてこうなった?
ムサシの国のこと。ムツの国のこと。
それをスタークが話したのを、こいつらも聞いていたからだろうな。
「まさか貴族を倒すなんてね。それでこんなところにいるのか……」
「あぁ、スメラギの領地まで余裕だと思ってたらこれだ。盗賊に貴族。嫌んなるな」
正面向いてるスタークは気づいてない。俺の横のリックがすごい顔してることに。
「ユウ。そんなこと一言も言わなかったよね?」
「どこにこの話するところがあったんだよ!」
「昨日一緒に寝たじゃないか! いくらでも言う気になれば言えたはずだ!」
そんな誤解を生む発言はやめてほしい。
「流石です。ユウの兄貴!」
そんな声が聞こえる。
知らないやつからしたら、女の子が一緒に寝たと言っているわけだから。誰でも勘違いするから。
「でも、貴族を倒してどうするんだい?」
リックは真面目な感じでこう聞いてきた。
誤魔化すつもりも、嘘を言うつもりもない。
「世界を救う。そのために来たんだから……」
リックは表情を変えなかった。
「あんた、マヨイビトか。それじゃ前の勇者と一緒だね」
「──そうなのか。つーか、ばあさん何でそんなこと知ってんだ?」
「何年、生きてると思ってんだ。しかし、平和ってやつは儚いからね」