盗賊 3
♢6♢
盗賊に襲われた村を見つけたのは、スタークの言った背後にいる者について何か情報がないかと、一番近くの村にやって来たからだ。
着いた時には誰一人として生きていなかった。
あそこで盗賊たちを倒していたとしても、この村のことはすでに起こったあと。
誰かを助けられたわけじゃない。だけど、もっと早くこの地に来ていたら。そう思うことしかできない……。
奴らはかなり大人数の盗賊団らしい。勧誘に乗る奴も多い。そういうことなんだろう。
排除する存在が無ければ、膨れ上がり蹂躙し尽くす。この国に飽きれば他所に行く。そんな奴らだ。
「日が明けたら支部のある村に行く。ウチなら情報もあるはずだ」
商会の支部にいけば、荒しまわる盗賊の情報は得られる。だけど、その間に他の村や人がと考えてしまう。
「大丈夫だと思うよ? ボクたちの与えた損害は小さくない。仲間を見捨てずに拾ったってことは、手当なりをしに潜伏場所に戻ると思うから」
リックはこう言った。組織で動いていて切り捨てないのなら、体制を立て直すだろうと。盗賊が街や村に潜伏していることはないともだ。
貴族の支配する土地より人が少ないこの国に、街と呼ぶべきところはない。唯一あるとするなら商会の支部のある村だ。
そこには成り上がりの人間がいる。
貴族のいない土地に、わざわざやって来て権力者を気取るやつ。支配者も権力者もいないのなら、自分がそうなろうとする人間だとスタークから聞いた。
♢
土まみれになった俺たちは、カレンにシャワーを借りた。マナさんの貸してくれた秘密基地の中は、必要なものは揃っていて住めると言っていい。
あの人。これを勝手に作ったとか、怒られるくらいでよく済んだな……。
(ところで優。リックって男の子だよね?)
カレンがひそひそ話しかけてきた。
先ほどから秘密基地の中で、リックはスタークと何やら旅の話をしている。共通の話題なんだろう。
(女の子だろ? 盗賊もそう言ってたし……)
だけど、正直どちらにも見える。
服装がカレンのようにスカートでも履いていれば、女の子確定だっただろう。
リックは体の線は細く身長はカレンと同じくらい。下は足の露出したショートパンツ。上も薄着だが性別の特定には至らない。
声は女の子っぽく聞こえるのだが、やはり決め手にはならない。
(本人に聞くのは……)(……失礼だよね)
胸がないから男の子だ。なんて発言をしたら、マナさんあたりに酷い目にあわされそうだ。
逆に女の子みたいだ。も男の子だった場合失礼でしかない。
((どうしよう……))
♢
外で寝るのをキャンプみたいだと言ったら、そんなのは最初だけですぐにベッドが恋しくなると言われた。
寝るのは馬車の荷台にした。あのテントに男二人で寝るのは狭い。カレンは秘密基地だし……問題はリックだ。
「ユウ、どうしたの。朝になったら出発でしょ? 寝ないの?」
「なんで、ここにいるんだ?」
リックの荷物には寝袋みたいなのがあった。当初はそれで寝ると言ったので、男なのか女なのか問題は先延ばしになったというのに。
「テント狭いし、見張りの交代までスタークは起きてるでしょ? そんな隣じゃ寝れないよ」
「だからって、俺のところに来なくったって……」
「じゃあ、カレンのところに行っていいの?」
今の発言は男の子だととれる。男の自分が女の子と一緒の部屋に寝てもいいのかと。
「リック。正直に言う。男と女どっちなんだ?」
「やっぱり……そんなこと考えてたんだ」
この反応。薄々、勘付かれていたのか。
「──確かめてみる? ボクがどっちなのか?」
──えっ? それはどういう……。
♢
何やらさっから外が騒がしい。厳密に言うと、秘密基地の真横の馬車が。
優は、一人でなにを騒いでいるんだろう?
「──ちょ……やめ……。……もう ──リック」
少ししか分からなかったが、最後の部分。
……リックって言ったよね?
女の子に見えなくもない。だけど、男の子だと思う。男同士なら気にすることもない。ふざけあっているのだろう。寝よう。
「──脱ぐな! もう分かった! おまえの言うとおりだった! だから、女の子が簡単に脱ぐな!」
────?!
今なんて聞こえた? 女の子と聞こえなかったか。もしも、リックが本当は女の子だったとしたら……。
「──ちょっと?! なにやってんの!」
ベッドから慌てて飛び起きドアを開ける。そんな私の目に飛び込んできたのは、裸のリックと手のひらで自らの顔を隠す優。
「あれ? カレン、どうしたの?」
「……なにやってるの?」
「ボクが男なのか女なのか、分かりやすく説明?」
見ているこっちが恥ずかしくなる格好なのに、リックは特に気にしたふうがない。
「──カレン! こいつに服を着させてくれ!」
気持ちは分かる。同性の私から見ても……。
「やっぱり女の子だった! リック、服を着なさい!」
「だから、ユウにも言ったけどさ……」
女の子だと思ったら……。
「きゃーーーーーーーーっ!」
「まだ、どっちでもないんだよね。ボク」