盗賊
♢4♢
盗賊と呼ぶにはいい身なりに生きた馬。しかし、金持ちと貴族。そのどちらにも当てはまらない。
そして行いは盗賊そのもの。出会ったのはそんな奴らだ。
盗賊に囲まれていた女の子を助け出した。
「──大丈夫か?」
「ありがとう。助かったよ」
「何だって一人で盗賊なんかに……」
「それより、あの人はいいの?」
あの人とはスタークのことだろう。
俺は彼女の前にいるし、カレンは無理やり手綱を握らされて四苦八苦している。
ムサシの国で盗賊に荷を奪われた。思い出せば、そんな話を聞いていた。
キレたスタークは、カレンに馬車の手綱を握らせ一目散に盗賊に向かっていった。
「テメェら、あの時の奴らだな! ぶっころして汚名返上しなくちゃならねぇ!」
「コイツ商会の……」
「頭たちはまだか? ヤベェぞコイツ……」
スタークは銃を撃たない。多勢に無勢だからか?
……いや、そんな男じゃない。貴族にだって臆さなかったんだから。
「キミ、名前は? あの人と馬車の子も」
「俺が優。あっちがスターク、女の子がカレンだ!」
「ボクはリック。少し手伝ってくれると助かる!」
「スタークが、やる気みたいだからな」
手早く片付けてしまおう。
「人数が増える前に、後ろのヤツが持ってる袋を奪いたい。アレ、ボクのなんだ……」
彼女がいうように一番後ろの馬に乗ってる盗賊が、確かに袋を持っている。
「アレを取り返そうとしてたのか?」
「──そう。ユウ、右から頼むよ。ボク左から行くから!」
リックは左から回り込む。右手には弓。左手に矢。矢は淡い光を纏う。
速いな……。それに魔法。
マナさんは色が属性って言ってた。光は緑。風の属性か。
リックの矢は盗賊そのものを狙っている。いけねっ、観察してないで俺は右からだったな。刀は抜くけど峰打ちでいこう。
少し出遅れたが、放たれた矢より早く盗賊の一人の前まで移動する。
「コイツ……いつの間に!」
盗賊の一人がそう叫ぶがもう遅い。
その銃を撃つのは間に合わない。刀で銃をはたき落とし、盗賊を馬から引きずり下ろす。
「ぐはっ……」
そんな声を出して仲間が地面に落とされたのに、他の奴らも気づく。だから、飛んでくる矢とスタークの銃に反応が遅れる。
「余所見とは余裕だな。お前ら……」
銃声は六発。スタークの銃の全弾であり、盗賊を撃ち抜いた数。
俺が一人。スタークが六人。リックが一人。計八人の盗賊が馬から落下した。残りは……。
──あと二人!
弾を装填するスタークに、次の矢を尻尾で手に持ってくるリック。
……はぁ? 尻尾だって?
♢
器用に尻尾が動き盗賊から袋を奪い返す。弓を持ったまま尻尾で袋を奪い、すれ違いざまに矢を放つ。
尻尾に驚いていたら、リックが自分で奪い返してしまった……。
「あと一人。ユウ任せたよ!」
馬たちも銃声に驚いているようで逃げていく。俺は残りの一人の盗賊に語りかける。
「一人になっちまったな!」
こいつも銃。多分全員持ってた。それに腰には剣。見てはいないが他にも武器はあるだろう。
どれも馬に乗ったままじゃ使えないだろうけどな。
「──ユウ、下がれ! 狙撃だ!」
スタークが叫ぶ。
──狙撃? 後ろに下がれば当たんないと。
ならばと素早く後ろに下がり、狙撃の到達を確認してから再び盗賊に向かう。
「銃声がしないくらいの距離からか……」
最後の一人も峰打ちで倒し、弾が飛んできた方向を見る。新たに盗賊がここで倒れてる数の倍以上、人数を連れて近づいてくる。
「ぞろぞろと……。アレみんな仲間か?」
足元にいる盗賊に聞いてみる。しかし答えはない。どうやら気絶したようだ。
単純に弱い。
全部遅いし馬に乗ってるから、動きも制限されてる。貴族と比べては駄目なんだろうが話にならない。戦った感想は魔物以下だ……。
「スタークにリック。ちょっと試したいことがあるから俺より後ろにいてくれ!」
一度やってみようと思ってたが機会が無かった。ムサシじゃ横は街だったし。
それに対してここは見通しがいい。周りに建物もない。盗賊以外の人もいない。
ただの猿真似だが試してみよう。この刀を──。
会長は鞘に戻しての抜刀だったけど、魔力量のある俺には必要ない。力を蓄積する時間はいらない。
ただ、振るえばいい。魔力を込めて。
「──おらっ!」
下から上への斬り上げ。向かってくる盗賊たちを全部巻き込む一撃が飛ぶ。
「魔法じゃないよね……これ」
♢
思ったより規模は小さかったけど上手くいった。会長ほど綺麗にとはいかなかったが、使えるな。
カレンにばかりは頼ってられない。自分で出来ることを増やしていかなければ。
もれなく全員を馬から落とすつもりだったのだが、斬撃は届くことなく相殺される。
「盗賊にも魔法使いっているのか?」
「──いるに決まってるだろ! 何すんのかと思ったら馬鹿なのか!」
「ユウ、スゴイね! あんなの初めて見たよ!」
盗賊たちに強化魔法の光がかかる。馬ごとだ。
馬の強化もできるらしい。これはゴーレムには出来ない芸当だな。
「人が魔法使いの有無を確認する前に始めやがるし……」
だから、撃たなかったのか。防がれては不利になるのは自分だもんな。
「……にしても厄介だな。あの一撃を防いで、強化魔法を全体にかけられる奴がいるぞ」
「頭ってヤツだね。強いよ……相当」
その盗賊の頭が現れる。俺たちの近くまで来て、そいつは馬を止め話しかけてきた。
「兄ちゃん強いな。どうだ一緒に盗賊やらねぇか?」
髭を生やした隻眼の男。こいつが頭か……。
「盗賊に興味なんてないよ」
「待遇は優遇するぜ? オレらは実力主義だ。新入りだろうと強いならいくらでも稼げる。女だって好きなのを買える。そんな獣の混ざりもんじゃなくてな?」
……リックのことか。
「売りゃあ金にはなるが、女としちゃダメだ。女なんざいくらでもいるんだ。ソイツじゃなくたって──」
「その口を閉じろ……。俺は人を人とも思わない奴が大嫌いだ! 手加減はしてやるけどキツいの覚悟しろよ!」
「ユウ……」
「誘いには乗らないか。残念だが、なら始末するしかないな。 ──やれ!」
今まで大人しかった盗賊たちが襲いくる。