表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/337

 ムサシの国。その後。 2

♢2♢


 一夜が過ぎ、いよいよ出発となった今日。


「忘れもんはないな? 忘れ物取りに戻ってくんのとか嫌だからな」


 スタークがそんなことを言う。

 持ち物といっても俺は手ぶらだし、カレンはピンクのポシェット一つだけ。とても旅立つ人間の装備ではないが、それには理由がある。


「俺、何も荷物なんてないけど……」


「私も大丈夫」


 唯一の荷物は背中の剣くらいだ。


「いちお確認だよ。それと(ゆう)。お前さんの荷物ってのは届いてたぞ?」


 俺の荷物? そんなのあるわけが──。


「さっき届いたらしい。この鞄、そうだろ?」


 それは確かに俺の鞄だった。

 学校に持ち歩いていた鞄で、異世界に来る直前まで持っていた物だった。


「──どうしたんだ。これ?」


「女の子がずいぶん前に届けにきたらしい。マヨイビトの人のだから。って言ってたらしいな。思い出した村のやつが、さっき届けにきた」


 俺は鞄を最後の瞬間に持っていたか? 分からないけど、目の前にあるってことは持っていたのか?


「最初に届けにきたのってムサシの国の子か?」


「そこまでは分かんねーな」


 中身も変わりない。財布に携帯。学校からのプリント類。携帯は、流石に充電切れてるか……。


「どうすんだ? 邪魔なら支部に置いてくか?」


 使えそうな物はない。あっても邪魔なだけだし、置いていくか。


「まだポシェットに余裕あるし、持っていったら?」


 ──その手もあった。


「いいのか? 本当に使い道ないけど」


 鞄はカレンに預かってもらうことになった。必要にはならないだろうけどな。


 ♢


 カレンの持つピンクのポシェットの話をしよう。

 女の子の旅には入り用な物が多い。そうマナさんが言った。しかし、大きな荷物なんて持ち運びできない。


 それをあのポシェットは解決した……。


 俺たちに用意された移動手段は馬車。荷台がある商会のやつだ。

 馬車を引く馬は生き物ではなく人形。つまりはゴーレムだ。今のこの世界で生きてる馬を使うのは、金持ちと貴族だけだと聞いた。


 俺とスタークは荷台で寝てもいいけど、女の子であるカレンはそんなわけにはいかない。

 カレンはテントでもあればいいと言ったんだけど、マナさんが難色を示した。


「野郎たちはともかく、カレンちゃんは心配です」


 カレンだけを心配するマナさん。


「テントがあれば、私は別に……」


「ダメですよー、カレンちゃん。野郎たちを信用してはー」


 そう言ってピンクのポシェットを持ってきた。


「──だから、これを貸してあげます!」


 効果音がつきそうな感じで、マナさんはそれを高く掲げる。しかし、ただのポシェットじゃん。と思う。


「ユウくん。ただのポシェットじゃんって思いましたね? しかーし、違うのです!」


 マナさんはおもむろにポシェットを開き、手を突っ込む。


 ……んっ? 手を突っ込む? あの大きさに?!


「まずは、お土産を移動させないと……」


 そう言って、お土産の袋が比喩ではなく山のようにポシェットから出てくる。そして山が形成される。


 見たことのあるブランドの袋たち。中は洋服だろう。

 他には様々なお菓子に、お酒。日用品。電化製品。オモチャ。本当に多様なものが出てくる。ポシェットからだ。


「──いや、おかしくないですか?! そんな小さなバッグに入る量じゃない!」


 それもおかしいのだが、この後さらに驚くべきことが起きる。


「お土産はこれで全部かな? ──スタークくん。全部馬車に載せ換えて〜」


「なんで最初から馬車に入れねーんだ!? 二度手間じゃねーか!」


 最もなことを言われている。それでもやってあげるスタークは良いやつだと思う。


「実演ですよ。実演。見たほうが早いから」


「確かに驚いた……」


「あぁ、ビックリしたな」


 俺とカレンは、すでに引くくらいに驚いているんだけど、更に驚くことが起きる。


「──んしょ。ちょっと、さがってください」


 お土産の山より、はるかに大きいものがポシェットから引っ張り出される。それは……家。家?!

 実際には家というほどの大きさはなく、プレハブ小屋より少し広い建物。


 ──なっ、本当に無茶苦茶だな。この人。


「このマナの秘密基地を貸してあげます! 寝泊まりはこれでだいじょーぶ! シャワーもついてる優れもの!」


 自慢の玩具を自慢する子供のようなマナさん。しかしだな……俺たちからは見えているけど、彼女はまだ気づいていない。


「ほう、これが噂の秘密基地か。どこから費用を出して、こんなものを作ったんだ? マナ……」


 ギギギギッと音がするように、マナさんの首が後ろに向いていく。


「成る程。これならサボるのにも、さぞ重宝しただろう。ちょっと来い。話がある……」


「か、会長……いつからそこに? こ、これはですね?」


「──いいから来い!」


 マナさんは首を押さえられ引きづられていった。


「あれっ? いいことしたはずなのに、アレっーーーー?!」


 俺もカレンも無言になるしかなかった。


「おい、マナのやつはどこいったんだ? これ割れちまいそうだから、自分で持ってけって言おうと思ったんだが……」


「スターク。このポシェットの欠陥は?」


「一個作んのに馬鹿ほど費用がかかることだな。その道具は三つしかないぞ?」


「それでも三つもあるんだ……」


「作ってから報告しやがったからな」


 こうして家となんでも入るポシェットを手に入れた。マナさんがどうなったのかは想像に任せる。


 ♢


 そんなポシェットの中身の積み込みは、俺とカレンも手伝った。そのお土産の話だ。


「あの人、お土産にいくら使ったんだ? ちょっと考えたくない額なんだけど……。こんなに会長が買ってやったのか?」


「会長ならこんなに買ってこないな。これは全部マナが買ったんだろ……。金の出どころは偉いおじさん。って言ってたな」


 会長は俺たちの世界で、誰とどういうふうに繋がりがあるんだろう?

 偉いおじさん。親父も確か偉い人に会うと言っていたな。この人物が同じ人とは考えすぎか?


「はぁ、また怒られてしまった……」


 ガックリと肩を落としてマナさんが帰ってきた。

 そんなにへこむなら最初からやらなきゃいいのにな。


「──ちょっとカレンちゃん?! それ逆。逆だから! 割れちゃうから!」


 珍しそうに眺めながら積み込みしていたカレンに、マナさんから注意が入る。


「こう? こっちが上でこっちが下……」


 カレンが逆さまに積もうとしていたのは酒だ。箱に入ってるやつ。それもかなりの数ある。

 一つ二つなら最後に積めばいいが、量が量だ。一番下にするしかないんだが、マナさんの言うように逆に載せて重ねたら割れるかもな……。


「あぶねー。うっかり割って文句言われるところでした」


「マナさん。誰がこれを買ってくれたんですか?」


「会長のお友達のおじさん。ダイジンって呼ばれてました」


 ダイジン……──大臣?!

 大臣と友達って、あの人もどうなってんだ。

 もしかして国が関わってるのか? この異世界に。


「おじさんのくれたカードで全部買いました」


 ♢


 もう少しだけ、お土産の話をする。

 実質大半がマナさん自身のお土産だったわけだが、その中にはスタークへのお土産もあるはずだった。


 だから、スタークはお土産の積み込みをやることにしたのだ。それを自ら回収しようと探す傍ら、馬車に入れていた。しかし、それを発見することなく荷物は全部積み込まれた。


「マナ。俺の煙草はどこだ?」


 スタークは煙草が欲しかったようだ。

 異世界でも作れはする。けど、それじゃないとダメらしい。


「スタークくん。本当に申し訳ないのですが、買えませんでした……」


「忘れたのか?」


「マナはそんなに薄情じゃないです。買えなかったんです……」


 あぁ、俺は分かった。買えるはずがない。


「……どういうことだ?」


「──子供には売れないって言われました!」


 だと思った。見た目小学生のマナさんが、煙草を欲しいと言ったところで買えるわけがない。


「お前、子供じゃないだろ……」


「スターク。マナさんの言ってることは本当だ。絶対に買えない」


 そこの出身である俺の言葉は効果があったようで、スタークは狼狽える。


「……冗談……だよな?」


「「本当」」


「だけど、マナさん。それならお酒はどうしたんですか? 」


 煙草が買えないなら酒も買えないだろう。しかし、酒は山ほどある。


「無いとトモエちゃんが暴れるので、会長に頼んでお会計してもらいました」


 トモエちゃん。誰だ?


「──そうだ! 会長が一緒だったよな!」


「スタークは煙草吸いすぎだから買わないって……」


「──なんだそれ! 文句言ってくる!」


 会長のところから帰ってきたスタークは、いつになく不機嫌だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ