ムサシの国。その後。
お久しぶりです。此度もウサギがご案内いたします!
今回は、旅立ちから出会いまで。
誰が? どこで? 誰と? どのように?
そんなお話でございます。
少年は新たな仲間を見つけます。
……出会いとはそれでしょうか?
ワタクシも全部は知らないのです。
明らかになることもあるでしょう。
誰かのしたことは、誰かの道に繋がっているのです。
分からないならそれも一興!
では、また次回……。
♢1♢
ムサシの国の貴族が討たれて、今日で一週間になった。未だに私たちはムサシの国にいます。
……明日には出発できるかな?
怪我人だった優とスタークも回復し、今は調子も良さそうです。この作戦も今日で三日目。これで終わりだと思う。
「だからー、違うつってんだろ! 何で貴族と闘ってた時は出来てたのに、今はできねーんだ!」
「あの時は必死だったんだよ! 教えるなら、もっと丁寧に教えてくれよ!」
この二人の言い争いは三日間続いている……。
感覚で教えようとするスタークに、理論で教えてほしい優。どうにも噛み合わない二人。
私が教えられたらいいんだけど。魔法以外はからっきしだから、ムリ。
「──いい加減にうぜーぞ、テメェらは!」
「──話してんだから邪魔すんな!」
それぞれの一撃が魔物を屠る。
そう。私たちが今やっているのは、ムサシの国の魔物の駆除。この国のこれからに必要な作業であり作戦。
「カレンも言ってやってくれよ? ぜんぜん分かんないんだけどー」
「──なんで分かんねーんだよ!」
魔物もめっきり少なくなった。優の魔物寄せにかかる数が少なくなってきたのが証だ。
この作戦はムサシの中心である街の近くで行われている。ここに魔物を集めるのが効率がいいとの会長の発言と、つっ立ってるだけで魔物を集める優くんの使い道。とマナさんの発言があったからだ。
本当なら、あの人たちも参加するはずだったのだけど一足先にイワキの国へと戻ってしまった。
それも無視できない事柄だから仕方ない。二人の代理として商会から一団と、砦の騎士たちが代わりに参加している。
北の砦に騎士たち。南の私の村に商会。私たちが中心の街。それぞれに陣どり魔物を狩り尽くした。
ただね。東と西から現れる魔物は、真っ直ぐここに来るから大変だった……。
一日目がやっぱり一番大変だった。ひっきりなしに現れる魔物を、永遠と倒し続けるなんてことは初めてだったし。
二日目は一日目を反省し、改善できるところはしながら乗り切った。
そして今日は、魔物の数も大したことなく、今のが近くにいた最後の魔物たちだったのだろう。
「もう終わりでいいんじゃねーか? あれで最後みたいだな。カレン、優に魔物避けかけてくれ」
私もスタークの意見に賛成だ。
魔物避けの魔法は視認されると効果がない。見つからないことが前提だから、魔物の姿が見えないなら魔法をかけて終わりにするべきだ。
「カレン。一回杖から降りてから魔法つか……──あっ!」
優の言葉もむなしく、私はバランスを崩す。
終わったことに気を抜いたのか、杖から落ちる。
マナさんからの宿題? とでもいうべき基本的な魔法の特訓中である私は、無意識でも浮いていられるようにと練習中だった。
それを二人のフォローをしながらやっていました。
「いたっ……」
手をついたところを擦りむいてしまったようだ。
「マズイぜ。優……」
「ああ、最後の最後に……」
何故だか二人の顔色が悪い。 ……どうしたんだろう?
「オシオキ。オシオキ」
そうマナさんの残していった小鳥が喋った。
あの小鳥の視点はマナさんも見ることができるらしい。私たちのお目付役といったところだろう。
「ついにやらかしやがったな? 魔法使いは生命線だから、怪我させるなって言いましたよね!」
小鳥から、ここには居ないはずのマナさんの声がする。
「今のは俺たちのせいじゃねーだろ?」
「そうですよ!」
小鳥は飛び回り空中に魔法陣が描かれる。あっという間に青色の魔法陣が空中に現れた。
すごい! こんなこともできるんだ……。
「──いい訳はあの世で聞こう!」
青色の魔法陣から巨大な水で作られた腕が現れる。それはマナさんの感情がそうさせるように動く。優とスタークを狙って。
「マナのやつ、なんか機嫌悪いぞ……」
「なんだそれ。八つ当たりじゃないか!」
二人には悪いことをしてしまった。手当はしてあげるから……ごめんなさい。
♢
酷い目にあった……。
あの小鳥。これからもついてくんのか?
あれとは、ここでお別れしたいな。
だけどマナさんの言うことも分かる。カレンがいなかったら、この三日どうなっていたか……。
絶対に戦力の割り振り方おかしいだろ! って思ってたんだけど、カレンの魔法は凄まじかった。俺たちが必要ないんじゃないかと思うくらいにだ。
一日目はカレンが魔物の大半を焼き尽くした。魔法使いとは凄まじい。改めて理解した。
その魔法使いを守る。戦術としては当然だと思う。
でもさ、それにしても判定厳しすぎるよな……。絶対に八つ当たりだったよな、あれ。
「ちゃんと手入れしてるんだ。それ」
カレンが話しかけてきた。
俺たちが今いる場所は街の商会の支部。一週間もいれば、もう住んでるくらいには勝手知ったるなんとやらだ。
「一振りしか無いらしいからな。借り物だし、手入れはきちんとしないとさ」
手入れをしているのは黒い刀身の剣。貰った刀をあっさり折ってしまった俺に会長が貸してくれた。
漆黒の刃とその重さ。刀が玩具くらい感じるくらいの重量だ。
「慣れてるのね?」
「昔はよく見てたからな。結構、覚えてるもんだな」
「そうだよね……」
ある程度の事情を知ったカレンはバツが悪そうだった。全部本当のことだし気にしないんだけどな。
「ようやく終わったな」
「うん、これなら安心して旅立てそう」
「なら良かった。俺はもう少し試したかったけどな」
異世界に来て気づいた。俺には積み上げてきたものがあったらしい。
剣術に体術。これらは現実世界では役に立たなかったけど、異世界ならこれほど頼もしい護身術はないだろう。騎士と呼ばれる人たちにも褒められるくらいだった。
「ここにも慣れたみたいだね? 名残惜しくない?」
「カレンこそ、ここにいていいのか? まだムサシの国にいるんだから、家に帰らなくてさ」
「一週間で帰ったら、かっこ悪いじゃない……」
「それもそうだな。明日には出発するんだろ?」
「スタークがそう言ってた。本人はそれだけ言って、準備があるっていなくなっちゃったけどね」
いよいよ始まるわけだ。世界を救う旅ってやつが。
最初の目的地はイワキの国。そこまでの旅だ。
♢
会長のあれは頭を冷やせってことか……。
さっさと残りの仇を、殺しに行きたい俺に。
「スターク。お前がユウとカレンを、イワキまで連れてこい」
「──はぁ?! あんたが自分でやりゃあいいじゃねーか!」
「焦ったところで結果はついてこないぞ? 今まで待ったんだ。もう少し我慢しろよ」
会長はツギハギの義手だし、マナは本部にいなくちゃならない。そう分かってるはずなのに……。
「──ガキの面倒なんて今更見てられるか!」
「一人でどうにかできるのか? もう少し成り行きを見て動け。これは命令だ」
はぁ……分かってますよ。熱くなってた。
まったく情けないな。自分のことで頭ん中がいっぱいとは……。
ムサシからイワキまでは、馬車を使えば大したことない距離だ。道中もスメラギの領地に入っちまえば不測の事態もない。そんな簡単な仕事にさえ難色を示すとは。
どうかしてた……。
魔物共を狩ってるうちに熱も冷めた。
二人も貴族がいなくなったと聞いたからか?
貴族を殺せる奴が現れたからか?
そいつらに先を越されると思ったからか?
焦りの理由は、その全部だ。
そいつらを利用して復讐の機会を作るくらいじゃなきゃダメなんだ。簡単にそんな真似できねーけどな。
遠いな……あの背中は。どっかで追いついた気になってた。
本当にそんな気になってた。だな。
貴族が死んだと聞いても、会長は表情一つ変えやしなかった。それすら利用して先に進むんだろう。
俺は甘いか……。その通りだよ会長。