表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/337

 スメラギ 5

 一通りの話は聞いた。必要であろう装備一式も用意してもらった。

 明日からは、近くのゴミ掃除からでも始めようと思う。しばらくはここら辺にいてほしいと頼まれたからだ。


「そうね、黒崎(くろさき)くんに協力する気があるのなら、お願いがひとつ。大きな戦いが近くある。それには手を貸して?」


 これは、好きにしてくれて構わないと言ったトモエさんに、僕は勝手にやると伝えたからだろう。


「戦いですか。手を貸してってことは、トモエさんも戦うんですか?」


「まさか。ワタシはこの地の貴族として逆賊を討つ側よ?」


「……僕がその逆賊なんじゃないですよね?」


「そう。逆賊側についてほしいのよ。それでシモウサとシモツケ。どっちでもいいけど貴族の注意を引いてほしい。本命がやりやすくなるように……。どう、頼めないかしら?」


 あくまで自分は貴族として、か。


「──本命っていうのは?」


「遺跡は見たんでしょ? あれが地上に出ている場所がある。人の力を制限してるところ。イワキの真下のヒタチの国にね。そこを守るために周りは貴族だらけ。攻略するには、邪魔者はどけなくちゃ──」


 思わず身震いするくらいの圧を感じた。今度こそ、本当にこの人も貴族なんだと思った。


「うちで一人はどっちかの貴族の相手をさせるわ。制限が解除されれば、後はどうにでもできる」


「それって全部で四ヶ所あるんですよね。一ヶ所だけで、大丈夫なんですか?」


 一つ潰してしまえば警戒は高まるだろう。同時に狙うとかしなくていいんだろうか?


 いや、商会の戦力も詳しくは分からないが、トモエさんは無策ではない。道は見えたとも言っていた。それでやれるのだろう。


「ヒタチの国が祀ってるのは火。うちの魔法使いは火の魔法使いたち。最初にここを落とせば、後は簡単なのよ? 楽しみよね……どんな顔をするのかしら? 魔王様は……」


 人の悪い。そんな笑い顔だった。

 恨みや憎しみとは違うけど、この人の内面に巣くう闇を確かに感じた。


「分かりました。それまでは好きにやってますから、時期がきたら知らせてください」


「その笑顔の裏には、ドロドロしたものが詰まってそうね?」


「……それが人間でしょう?」


「そうね。そろそろいい時間だし、ご飯でも食べに行きましょうか」


 そして何ら普通の会話に戻る。その内に隠したものを感じさせないくらい当たり前に。


「僕はお酒は飲めませんからね? 最初にこの部屋に来た時の匂いはお酒ですよね。匂いだけで酔いそうだったので」


 これは断っておかなくてはいけない。絶対に誘ってくるはずだ。


「……えっ? 嘘よね」


「それに、僕たちの世界では未成年の飲酒はダメなんです。異世界だからといって飲んだりはしませんので」


「ここではワタシが法よ」


「ダメなものはダメなんです。分かってください」


 なんとか飲酒は避けられた。

 トモエさんは一人で飲んでもつまらないらしく、本当に普通にご飯を食べに行っただけだった。


 ♢


 あの子は、なんでアレで成立してるのかしらね?

 取り繕うのが上手なのかしら。それとも、ずっとそうだったのかしら?


 別にどちらでもいいのだけれど……ただ、まるで誰かさんを見ているようね。けど、似てるけど違う。

 彼は弱いけどアイツは強いからね。力でも魔法でもなく……心がかしらね?


 そう言えば。そろそろ掛けてくるかしら?


 結局、今日も一人でグラスを傾けてる。誰も構ってくれないし仕方ない。


 その後、言った時間に通信が入る。


 ♢


 絶句と表現するしかない。

 何で? どうして? どうやったら?


「──どうやったら、あの義手が壊れるのよ! どいつがやったの! 生かしておかないから!」


 喋っている自分でも分かるくらいキーンと音が響く。向こうの零には何割り増しかで聞こえていることだろう。


 しかし、声を荒げずにはいられなかった。だって、あの義手を壊したとか……。


「──貴族がやった?! あの猪男ね。今すぐ息の根を止めに──」


 そうだった。猪男はもういないのだ。

 なんて忌々しいんだろう。とんだ置き土産だ。


「……もう寝る。ベッドを涙で濡らしながら寝るわ……」


 本当に泣きそう。それ、誰が直すのよ……。

 どのくらいの破損なのか……想像したくない。イヤーーーーっ! って叫びたい。


「だから、帰ったら付き合うとからしくない事言ってたのね?」


 そんなことでワタシのご機嫌をとろうなんて甘いわ! お酒には付き合ってもらうけどね!

 壊した奴がいないなら、アナタに八つ当たりするわ。そしていいこと思いついた。


「明日には帰ってくるのよね?」


 呼び戻せばすぐに帰って来るだろう。

 上手くお膳立てしてあげましょう。ワタシいい人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ