表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/337

 スメラギ 4

♢36♢


「他に聞きたい事ある?」


 スメラギについて。商会について。

 この二つの話は聞いたし理解した。ムツから気になっていた商会は、やはり両方の世界を繋ぐものであると思う。


 他に聞きたいことがあるかと言われれば、いくらでも質問するべきことはある。

 正直言って地理すら危うい。同じ日本だとしても全然違う。一緒なのは大陸の形くらいだろう。


「あり過ぎるので、近くのことから。 ……その右腕の無い人形が人なんですか?」


 秘書の女性。ここまで彼女になりきって案内してきた人形は、今は動かなくなり黒いマネキンのようになっていた。


「そうね。人間の体を作り出すこと自体は簡単だった。その上を目指した時、材質を考えうる限り最高の素材で作った。もちろん人間じゃない。そっくりに作れても、心とか魂と呼ばれるものは作れなかった」


「なんでこんなものを?」


「業かしらね。ワタシたち貴族の子は全員持ってると思う。スメラギの作りたかったもの。それがワタシにしたらこれだった」


 力だけでなく、その業まで受け継ぐのだろうとトモエさんは言った。なら、彼の業とは何だったんだろう……。


「作り出したから満たされたのかは分からないわね。でも、これ以上はない最高の出来よ。それ」


 義手として差し出された右腕を失った人形。

 置物としては不気味でしかないが、トモエさんにとっては置物ではないのだろう。


「じゃあ次は……どうして執務室にベッド持ち込んでるんですか?」


 何故だか執務室に天蓋のついたベッドが存在している。これを質問するなというのが無理だ。


「遊び歩くのにこちらの方が近いからです。夜な夜な遊び歩けて、寝るのに近いからです。執務室をこんなにしてしまって……」


 ……そんな理由なんだ。

 そんな理由で城ではなく執務室で寝泊まりしてるのか。人と距離が近いと言えばいいことのように聞こえるけど、この人いちおう貴族だよな?


「いいのよ、ここ。飲み屋は近いし、遅くなっても誰にも文句言われないから」


 それは単に言う人がいないだけで、何も言われないとは思えない。

 もしかして誰も叱る人とかいないのか? トモエさんが貴族だし……。


「私の言うことなんて全然聞いてくれませんし。皆さんには、本当に早く帰ってきてほしい……」


 秘書の女性が一番苦労してそうだ。トモエさんは自由奔放すぎるのだろう。

 だけど、この国は自分のものだと言った時の彼女は貴族らしかった。その飄々とした雰囲気がなくなったから。


「もういいわよね? 眠いからワタシは寝ます。後はこの子に聞いて……」


 そう言い残してスルスルとベッドに潜り込む。

 寝る時に着ているものは邪魔なのか、毛布の隙間から今まで着ていた服が投げられる。


「はぁ……ああなるともう無理ですので、後は私がトモエさんに代わってお聞きします。ここではあれですから場所も変えましょう」


 貴族らしいと思ったのは訂正する。やっぱり全然、貴族らしさなんてない。


 ♢


 場所は変わり一階部分に下りてきた。商会と呼ばれる組織の中枢であるここは、とにかく人の出入りが多い。

 一度全ての品物はここに集まり、そこから各地に振り分けていく。連携は密になっていて物だけでなく、あらゆる情報も入ってくる。


 多分だけど、それが最も重要な部分なんじゃないのか?


 この世界は魔王によって、貴族によって支配されているというけれど。本当はスメラギ……商会によって支配されているのではないか?


 それも表だってではなく裏から。そうだとするなら、こんなに恐ろしい事があるだろうか。

 支配者たちはある日突然地位を失い。いなくなる。ムツの国。ムサシの国のように。


「私も仕事がありますので片手間になってしまいますが、質問があれば遠慮なくどうぞ?」


「その前に……この書類の山はなんですか?」


 彼女の机の上には山となっている紙の束。これも気にするなというには無理な量だ。


「本当ならトモエさんが対応しなくてはいけないのですが、一切手をつける気がないようでして。これらは私でも処理できないものばかりでして……」


「どうするんですか、これ?」


「会長が戻られたら、全部処理していただこうと思っています。 一日缶詰にすればなんとかなる筈です!」


 自分なら絶対に嫌だ。こんな量を見せられただけで逃げ出すだろう。


「これは見なかったことにしていただいて」


「分かりました……」


 聞かなければ良かったな。あの量は一日では不可能だろう。


「まずは地理からですね?」


「お願いします」


 片手間にと本人は言っていたが、そんなことはなくきちんと質問に答えてくれた。

 なんだか申し訳ない気分になったので、簡単な雑用を手伝ったりした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ