スメラギ 2
♢35♢
最初はスメラギという男についてね。
この男は、なににも興味のない男だった。王の座にも。支配にも。ただ一つだけ自分の欲望以外にはね。
永遠を生きられる男が望んだのは、自分と同じもの。同じ存在。始まりはそんなところね。
その過程で作られたのが支配者の魔法。眷属を作り出す魔法ね。あるものを変えるのではなく、無から作り出す魔法。
でも、自分と同じ存在。結局そんなものは作れなかった。自分一人ではね。
だから、スメラギは可能性の域を出ない方法を試した。人間に子供を産ませたのよ。それがワタシ。
貴族と呼ばれる生き物は次代で完成したのよ。不死性以外の全てにおいて、自分たちを上回る生き物を生み出せた。
けれど、男にワタシは価値のないものだった。
求めた同じ存在ではないし、元より愛情などあるはずがない。結果だけが必要だったんだから。
そんなワタシは幽閉され、何不自由ない生活をしていた。ワタシは籠の中しか知らない。そんな女の子だった。
ある日、その籠を壊してくれた人が現れた。
その人はスメラギを討ち、ワタシを外に連れ出してくれた。助けられたワタシは、その人を王子様みたいに思ってた。
ふふっ、可愛いでしょ? 昔のワタシは。
その人はやがて魔王を倒し、勇者と呼ばれるようになった。
それで世界は平和になるはずだった。あと少しのところまでいったのに……。
しかし勇者は死に、世界は貴族と名のる支配者たちに統べられるようになる。
ワタシにも地位に権力。それが与えられた。スメラギに憧れた男からね。
そこからは前と変わりばえのしない生活だった。
あとは取り入ろうとしてくる人間に、顔色を伺う人間。そんな奴らばかりだった。
どっちも気に入らないから全部追い出してやったわ。
そんなことをして何年か経ったころ、一人の男が訪ねてきた。見覚えのある男だった。だって、勇者の横にいた男だったから。
聞かされたわ。事の顛末を。それは信じるに足るだけの話だった。
男には、右腕と、仲間、恋人、友人、名誉、あったはずのものは全部無くなってた。
──そんな嘘はないでしょう?
女の子を一人連れた男は、ワタシに持ちかけてきたわ。とても面白い話を。
復讐の手伝いをしたら、全部くれてやると。お前はスメラギのしなかったことをしたいはずだと。
それが始まりね。この商会という組織のね。
そして私たちは互いを利用することにした。
信用の証として、ワタシは男に右腕と名前をプレゼントしてあげたわ。その人形の右腕をね。その人形はワタシが作った完全な人よ? すごいでしょ!
名前はね、前の名前は使えない。だってみんな知ってるもの。だから付けてあげたのよ。
あるのにないことを意味する零って名前を。お似合いでしょう? 何もかも無くした男には……。
──どう、面白かったかしら?
♢
「以前から気になっていました。会長とみんな呼ぶのに、トモエさんだけは零と呼んでいるのが」
「そう。それよ! せっかく名前付けたのに、会長、会長って。マナまで会長って呼ぶ始末だし」
「それに会長は英雄と呼ばれる人だったんですね。そんな話一度だって……」
「するわけないじゃない。アナタたちも言っちゃダメよ? 誰も知らないんだから」
「そんな重要な話を、何の前触れもなくされても……」