表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/337

 夜ノ色 8

 勇者とやらはすぐに見つかった。だが、意識はあるが正気ではないか……。

 己が創り出した物にされ心配されているしまつ。


 無様といえば無様だが、それだけ必死だったのだろう。何も知らぬ異世界に来て、何かの為に戦ったのだから。


 本来ならこの世界の人間。いや、我がやるべき事なのだ。その重荷を背負わせた。


 この少年も帰すべきだろうか……。

 自分の世界へ。自分の現実へ。


 まずは、正気を取り戻させてからだな。


「月に魅入られたか?」


 そう話しかける。


 少年ね自分を見る眼は、貴族と認識した我を殺そうとしている眼だ。白でも黒でもない。その力。


「その力を使いこなす術は、己の中にしかない」


 そして微かに残る黒の残響。あの武器に纏わりつく残り滓。


「貴様がそれを会得するまで付き合ってやろう。娘が世話になった礼だ」


 あの黒は邪魔をするつもりはないようだ。逆に手を貸すと。貴族にもおかしな奴がいたようだ。


「全て吐き出してしまえ。内に残る黒を」


 日が昇る、その直前までその遊びは続いた。

 そして少年は意識を失い、創られたものも姿を消した。


 ただの遊び。戦いなどではなく戯れただけ。

 その跡はとてもそうは見えないのだけど。


 ♢


「待たせたな。思ったよりも時間がかかった」


 そう、未だ防御の魔法の中にいる村人たちに話しかける。


「……そいつは……」


 村人たちは、ここまで運んできた少年を見るなり後ずさる。


「意識はない。それに、どう思おうと貴様らは救われたのだ。この少年にな」


「分かってる。分かってるが、オレたちは全部を見てた。 ……そいつは貴族と変わらない化け物じゃないか……」


「人間だ。貴様らと同じ。全部を見ていたのなら理解できるはずだ」


「…………」


 納得はできんか。仕方ないな。


「次は遺跡を壊さねばらんのだが、この下にも遺跡の一部がある」


 少年を抱えながら片手で防御の魔法に触れる。それは音を立てて、ひび割れていく。


「術者が倒れても消えんとは、少し驚いたが──」


 粉々に砕け散った。何層にも重なる魔法が。


「これから起きる事。命が惜しければ他言するなよ?」


 そう聞いた時には、全員が空中に浮いていた。


「──墜ちろ(おちろ)


 発せられた言葉はそれだけだった。


 直後に街のあった場所。そこから貴族の城があった場所。さらに西にもそれは起きる。

 上から押し潰されたように地面が沈む。瓦礫になるどころではなかった。一切が平らになっていた。


 その力の加わった場所は大穴が開いていた。

 それだけの破壊にも関わらず、地面が揺れることも、音が聞こえることも無かったのだ。


「遺跡もこれでいい。あとは貴様らをどうするか」


 目の前で起きた惨状を見て、村人たちは恐怖した。


「その様子では、ついて来いと言っても駄目だな。人間の一団が近くにいるな。街の方向に向かっている」


 村人たちはそれに思い当たる相手があった。


「商会の人たちかもしれない……」


「商会? 耳にする名だ。奴らを頼るか?」


「あぁ……ルプスに手を貸してくれた。話くらいは聞いてくれるはずだ」


 本当は、目の前の貴族より、意識の無い少年より、マシだと思ったからだ。


「分かった。下まで送ろう」


 村人たちの言った通り、下にいたのは商会の一団。ここでの異常を察し戻ってきたのだろう。


 ♢


 少年をどうしようかと思っていると、女が声をかけてきた。


「それ、預かるヨ。アスカは間違いなく正しいことをした」


「認められてはいないようだがな……」


「しょうがないヨ。それでも守りたかった者の為に戦ったそいつは勇者だと思うよ」


「そうか。なら、少年は預けよう。長居しすぎた。そろそろ帰らねばならん」


 知り合いがいたのなら、そちらに託した方がいい。この後、少し荒れるだろうからな。


「ところで、お前がスカーレットが言ってた貴族カ?」


「なんだ、アレとも知り合いなのか」


「ミネラは無事カ?」


「ミネラ? ……これをつけ付けていた子供のことか? それなら無事だ」


 そのペンダントは、間違いなくアスカが買い与えたものだった。


「そうか、本当に助けられるのか、お前。アスカ良かったナ。ちゃんと救えてた。これなら、先に進める」


「……ミネラ……」


 少年はそう口にした。女は意識があることに驚いているようだった。


「回復も問題ないな。これで頼まれた事は片がついたな。ただな少年、一つ言っておく。あの女とは手を切れ」


「……自分で決める」


「好きにしろ。だが、もし気が変わったら訪ねてこい」


「考えておくよ」


「その子供の件もある。急ぎ戻るのでな……」


 女が呼び止める。


「名前くらい名乗っていけヨ」


「アルハザード。それが我が名だ」


 それは父から継いだ名。貴族と呼ばれる存在の中で唯一、愛され生まれてきた子。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ