最上へと至る 9
黒崎 飛鳥は生まれた時から損なっていた。
もう、混じっていた。最初から。
だから彼は悪くない。両親も先祖に至るまで誰も。
本来なら目覚めることのなかった素養。
彼の世界を生きるうえで必要の無い。その黒。
突如出現した異世界への扉。ゲートと呼ばれたものの影響で、彼は発症したのだ。
だからこそ彼は見出された。
ただの一般人であったはずの少年は。だけど、彼が異世界にいるのは自分のせい。
何が、誰が、悪いわけではないのだ。
「アスカ。いいこと……お前の知りたいであろう事を、教えてやろうか?」
サラサという彼女も損なっている。最初から。どうしようもないくらい。
そんな彼女は、何故だか世界が愛おしい。壊してしまいたいくらいに……。
「黒は伝染するんだ。病のように……。近くにいる、同じような資質、素養を持つ者に」
ゲートが影響している。そのサウスの見解は間違いではない。けど、全部ではない。
「伝染した黒は蝕んでいく。少しずつ。お前のように誰もが強いわけではない。その人間に強さが、扱うだけの矛盾が足りないとどうなるのか……。そろそろ気づいたか?」
彼女は教えてあげる。彼が知りたいと思って。これは善意であり、悪意ではない。
「お前の妹を苦しめる原因は、お前自身だ」
彼が近くにいれば進行は早くなる。
妹が急変したのはいつだったか。
まさに、その時その場所に、彼はいたではないか。
「そんな顔をするな。もう、お前は黒で無くなった。黒ですら無くなったんだ」
だから、もう影響しない。
入りこんだ黒が消えることもないのだけれど。
「お前が消え、こちらにいる間は大丈夫だ。進行は進まん。ただ、あちら側も変化している。お前のような黒が現れるのは時間の問題だかな」
異世界が、魔法という技術が認識された世界。きっと彼のような人間はいる。
「まあ、心配するな。妾と同じ顔をした奴がなんとかするさ。それに駒もある……」
彼女は失敗を悔いない。
それに意味など無いから。
次に繋がるものに変える。
「このまま貴族が蔓延れば、もう一つの世界にも今以上に影響が出る。貴族は存在するだけで悪であり、黒を撒き散らすものだ。残さず滅ぼすしかない」
そして獣は創り出された。
♢
舞台に貴族が降り立つ。
自分と同じだと思った彼と、対等に向かい合うために。
「酷いことを言う。あんなことを言われれば、我先に港に向かうだろう?」
「だから、ああ言ったんだよ。きっと船で逃げようと思うはずだから……」
「散っていた力を戻した。そのくらいしなければ、君とは遊べそうにないからな」
貴族は親を見捨てた。
いつかはそうしようと思っていたから。
「ロミオ。僕のやったことが分かるのに、人の気持ちは理解できないのか?」
「必要のないことを、理解する必要などないだろう?」
「君は、怒ってすらいない……」
「特に理由もないからな? 舞台も国もまた作ればいいし、客もあれだけではない。逆に楽しみになってきたよ。次はどんな国にしようかと考えるとね」
親も他も大差ない。それほど興味もないのだ。
そんな貴族は、唯一認め友人とさえ呼んだ彼に尋ねる。
「アスカ。君こそ、どうしてソレを未だに守っている? ルプスはもういないのに、何故そんなものを気にするんだ?」
「僕は人間だ。死に際の願いくらい自分にできるなら、やってやるさ」
「理解できないな。ソレは君を、私を見るのと変わりない目で見ている。そのくらい気づいてるだろう?」
「それでもだ……」
それすら捨ててしまえば、人ですらなくなってしまう。そんなものになろうとは思わない。
僕は、お前たちとは違う。