最上へと至る 3
サウスというこの男は、魔法使いとしては一流なんだろう。教えることが上手いとは思っていたけど、戦う事も出来るのだから。
けど……残念だけど、この程度だろう。
エクセラの言葉は正しかったわけだ。
強さをステータスとした場合、僕たちは逸している。足りなかったのは少しばかりの時間。
それももう、必要無くなったみたいだけどね。
「どうしたんだ、サウス? お前の魔法は一つだって、僕に届いていないようだけど……」
展開された障壁は全てを阻む。何一つ通さない。
これは魔法によるものだ。仮にもし破られたとしても、その先には自分を覆う魔力の壁がある。
「他への影響なんて気にしなくていいんだぞ? どんな魔法だって……傷なんてつきはしないんだから」
この防御力に武器で得た攻撃力。
「アスカくん。君だって同じでしょう? 致命傷にできないのだから」
「違うよ。出来ないんじゃない。しないんだ……」
「言いますね。大したことも出来なかった、君が」
「なぁ、サウス。今、痛いか? 苦しいか? ……だけど、ミネラはもっと痛くて苦しいはずだ。お前たちには、それ以上を味わって死んで欲しい」
ただ殺すのは簡単だ。けど、それじゃあ意味がないんだ。
もう少し、あと少しでナニカに届きそうなんだ。それまで待ってくれよ?
僕がそこに至るまで……。
♢
適正の無い魔法を使うのはシンドイわね。
一時的だし、大して意味があるとは言い難いけど、少しは時間を稼げるはずだ。
この見よう見まねの癒しやの魔法。
あとは、前が見えなくなってるヤツをぶん殴るだけだ。
「ミネラちょっと待っててね? いま、お兄ちゃんを連れて来てあげるから」
ミネラは力なく頷く。
時間稼ぎは必要だ。この子を助けるために。
「ルプス、先に謝っておくわ。ごめんね。私は一人しか運べない。あなたを助けることはできない……」
この子は助けるけど、あなたは助けないと宣言する。なんて残酷な言葉。
「……いいさ。オレはやりたいようにやった。守りたいものも守られてる。これ以上は望まない……」
もう動くことすら出来ない男は言う。
「それより急げ。もうじきアスカはたどり着いてしまう。そうなったら誰の言葉も届かなくなる……。ただ、その悪意を撒き散らすモノに成り果てる」
貴族のようなそれに。
ひたすらに己の欲望を満たそうとする存在に。
けれども始まりはただの願い。
強くありたい。支配したい。死にたくない。これはいくつかの例え。
しかし、行き着く先は奈落の底。何の光もささない場所。
後に残るのは、願いという名の呪い。
白であったはずのものは黒く染まる。
そして至るのだ。その果てに。その終わりに。
その結果が、この世界。
「大丈夫よ。サッと行って、ぶん殴って連れてくるから」
「大した娘だな……」
「あたりまえよ。諦めるなんてことしないわ」
♢
アスカを女が殴りつける。
障壁に阻まれない……。敵ではないのか。
何なのかはどうでもいいが、そろそろ幕引きとしなくてはならなくなった。
外の様子が尋常ではない。
何かが眷属を根こそぎ刈り取っている。そう報告があった。父の眷属から。
同種の力。人間には区別などつかないだろう。
今、外を埋め尽くすであろう眷属は父のものだ。
自分はここに力を使い過ぎている。
したがって外まで手は回らない。
アスカの他にもう一人いる。恐ろしく強い奴が。
外が感知できないのもおかしい。
何も異常など感じない……だが、それが異常なんだ。
アスカが落ちるのが先か、父の限界が先か。
どちらを取り。どちらを切り捨てるか。
少しばかり悩んでしまうな……。