最上へと至る
♢25♢
私たちは間に合わなかった……。
一秒だって無駄にしなかったはずなのに。
この結末に、涙が溢れるのに時間はかからなかった。
ごめん。ごめん。ごめん……。
そう頭の中で繰り返す。
私の責任だ。私がミネラを。
私がちゃんとこの子の側にいれば──。
後悔だけが大きくなっていく。
駆け寄り抱き上げようとして、ドロリとしたものに触れる。止めどなく血が溢れる。
ミネラは口を開くが言葉にならない。
何と言っているのか聞き取れない。
それでも、私ではなくアスカを呼んでいるのは分かる。この子は彼に伝えたいことがあると言っていたから。
アスカはこちらに背を向け歩き出す。
まるで、この子を見ないように……。
歩みを進める最中、引きちぎった紙を投げ捨てる。
恐ろしいくらいに力が込められた大量の紙が宙に舞う。
私たち。ミネラにルプス。ルプスの村の人たち。
その全員を守るように、幾重にも重なる魔法が現れる。ドーム状に防御の術式が展開される。
こちらに怪物のいくつもの腕が襲いかかるが、傷一つ付けられない。
全て、ことごとく防がれる。その意思の描いたとおりに。
アスカはふらふらと、ただ歩いていく。その怪物に向かって。
怪物の眼前まで行き、引き金を引く。
無感情に。当たり前に。怪物の言葉を無視して。
放たれた弾は、怪物を貫通し弧を描く。
そして再び同じような軌道を辿る。それが何発も放たれる。
容易く怪物を貫く光の軌道は、まるで螺旋のように見える。
永遠と続くその螺旋。
光はやがて、怪物の再生する速度を越える。
それでも螺旋は消えない。怪物が跡形も無く消え去るまで……。
振り返らないアスカからは、嫌な感じがする。まるで貴族のような。
「スカーレット。アスカを止めろ……」
「ルプス?」
「落ちるのは簡単だ。だが、戻れなくなる。アイツにそんな道を歩かせるな……」
「どうやって」
「引っ叩いてでも……連れて来い。ゴホッ……ゴホッ……」
ルプス。あなた、もう……。
この男はミネラを庇ったのだ。最後の力を振り絞って。
無意味だなんて私は思わない。
そんな言葉が出る奴らが狂っているのだ。
貴族と言葉を交わすアスカを見る。そして倒れている二人を。
ミネラ。少し待っててね。助けてみせる。
私には無理でもアル様なら……。
こんな結末なんて認めない。
この子が死んでいいはずがない。
♢
僕は女の子一人救えなかった。
なんと許しを乞えばいいのだろう?
……僕のせいだ。全部。
ミネラもルプスも、そのせいで。
黒い感情が渦巻く。
ロミオの言葉通りなんだろう。
涙すら出やしない。悲しいとも思えない。
自分はあちら側なんだろう。
この状況を楽しんでいる、奴らと同じ。
だから、なんだろうか……。
こいつらを絶対に許せないと思うのは?
全部消し去ってやりたいと思うのは?
惨たらしく殺してやりたいと思うのは?
もう、引き金は重くない。
こんな奴らに向けたところで、心は痛まない。なら一切合切殺し尽くしてやろう。
黒く染まっていく。
数が多い。それだけが問題だ。
これだけいると時間がかかるな……。
その間に逃げられてしまう。
それじゃあ駄目だ。意味が無い。
魔力も尽きるだろうし、どうしようか?
……まあ、やるだけやってから考えよう。
口元が歪むのが分かる。
なんだか楽しくなってきた。
悲しみはなく、ただ黒い感情だけが存在する。
因果応報。お前らに、それ以上に似合う言葉は無い。
さあ、始めよう……全部を終わらせてやる。