最後の日 11
♢25♢
死角からの攻撃もダメ。首を落としてもダメ。どこを壊そうとダメ。
これでいったい……いつまで戦えますかね?
しかし、流石に強い。正直侮っていました。
足手まといを抱えてなお、これほどだとは……。
まあ、盛り上がるので良しとしましょう。
魔物や人間では相手になりませんでしたからね。
ルプスくんの頑張りをちゃんと観察し、次に繋げませんと。
やはり、人間に組み合わせるなら人間ですね。
魔物を加えられると面白かったのですが、残念ながら無理でした。
獣の力を持つ存在がいるのだから、作れると思っていたのですがね。二つは何が違うんでしょう?
それはルプスくんの死体でも解体して調べましょう。
今の時点で腕は十二本。足は四本。目も現れましたね。
全方向に対応でき、ルプスくん以外を狙うのにも使えますからね。ちゃんと成長してますね。
蓄積された情報を利用する。人間ならではの強みですかね。
ただ、未だに自分を人間だと思っているあたりが、残念な感じですけど。
♢
自分で作り出したモノを見て、男はこう思うだけ。
今、必死になって仲間を守ろうとしているモノも同じ。心なんて咎めない。良心なんて存在しない。
自分のしたいことができれば、それでいい。
そんな男にとってこの国は最高だった。
人体実験だろうと容認され、そのための材料が勝手に集まる。この国が。
貴族の遊びに付き合っていればいいだけ。
ここで任された仕事は管理。
使えるモノと、使えないモノを分け、魔法によって管理する。
医者という肩書きも表向き。
集まったモノの管理をするのに最適だった。
医者だと言うだけで誰も疑わない。
裏側など気づきもしないのだから……。
おっと、そろそろ庇いきれなくなってきましたね?
君が崩れれば、一瞬で皆んないなくなってしまいますよ?
男は笑う。観客たちとは違う意味で。
♢
一人の少女が舞台に上げられる。
少年が守りたかった存在。
始まりは、妹に重なって見えたから。
それだけだったはず。
だから、助けたかった。
だから、救いたかった。
だけど……その手を離してしまった。
予想出来なかった少年の責任だろうか?
違うはずだ。少年の行動は少女のためだったのだから……。
それでも、起きるべくして起きてしまう。避ける事はできなかった。
始まりで少年が助けなくても、同じような結果になっていただろう。
例えそこでなくても、どこかで同じような結果になっていた。
この国は、そんな場所なのだから。
ならば何がいけないのだろう?
決まっている。
この国が、この世界が間違っている。
正す事は出来るのだろうか? その方法は?
少年は間違った道を選ぶ。
けれど、それを責めることはできない。
間違えようと、少年は少女のために決めたのだ。
♢
ルプスはすでに限界だった。
彼は己が守りたい者のために戦った。力の限りを尽くして。
それもこれまで……。
彼は力尽き、その命はもうすぐ終わるだろう。
そんな彼の目に一人の少女が映る。
異形と成り果てた盗賊は、少女を覚えていた。
「──オマエのようなガキのせいで!」
そんなようなことを口走る。
俺が倒れれば、あとは無い。
そうは分かってはいても、もう体が言うことを聞かない。
最後だ……。
ルプスは最後の力を守るために使った。
アスカの守りたかった少女のために。
しかし、結果は無情なものだった。
自分も少女も貫かれる。細く伸びたものに。
多少は軌道がズレただろう。それだけだ。
無様に倒れる自分。
その直前に人影が舞台に現れる。
「ミネラーーーー!」
間に合わなかった少年の叫びが聞こえた。
たった一人すら救えなかった少年は染まる。
黒い感情に。
少年は涙すら流さない。代わりにただ一つ願う。
全て消えてしまえ……と。