表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/337

 最後の日 8

♢22♢


 花火が上がった。いよいよ行動に移す時だ。


 客は全て街の中。港にはいくらかの人数しかいない。眷属も引きつけてくれている。


 後は、可能な限り早く辿り着くだけ。

 花火の音に混じって衝撃音が聞こえる。

 向こうで戦闘が始まったようだ。


 ……スカーレットは遺跡に向かったか。


 結局、夕暮れになってしまったな。

 別れの挨拶くらいはしたかったはずだ。この子も、あの二人も……。


 俺には託された者としての責任がある。

 人並みに、それなりに幸福に。それは見届ける。必ずな。


 アスカもスカーレットも、実に人間らしかった。

 この国で長く暮らす、俺には余計にな……。


 ここではない場所から来た少年は、一人の女の子を救おうとした。

 偶然この子だったが、誰であっても変わらなかっただろう。結局は助けに入った。


 それが当たり前なんだろう。アスカのいた場所では。


 貴族との繋がりがあるようなスカーレットも、優しい娘だった。

 どんなヤツなんだろうか……その貴族は。

 少なくとも、俺の知るものとは違うのだろう。


 貴族がそんな奴らなら、世界は違っていたのか? こう、ではなかったのか?


 ……答えは分からない。

 ただ、そうあって欲しかった。


 俺は己が守りたいものを守るため、他を切り捨てた。俺は英雄じゃないからな。


 万人を救おうなどとは思わない。

 守りたいものだけ。救いたいものだけ。それだけでいい。


 ♢


 邪魔だ……。


 港の眷属を処分する。引裂き、握りつぶす。

 おかしな匂いもない。潮の匂いがするだけだ。


 早く着きすぎたな。


 ミネラという少女を抱えてだったが、村から向かう奴らよりは早く着いてしまった。

 俺の方が距離が近かったぶん仕方ない。


 先に船を頂くか。


「ここに隠れてろ」


 一言も発さない少女はただ頷く。

 好かれるとは思っていないが、こうも怖がられるとはな……。


 一番大きな船に近づく。


 十分な大きさだ。乗組員は使えない。

 貴族を、雇い主を裏切るわけがない。なら、障害は排除しておく。


 夕闇に包まれた船内を駆ける。

 一人ずつ確実に息の根を止める。海に放り込む。

 船の中に誰もいなくなるのに時間は掛からなかった。


 俺一人ではここまでだな。後は合流してからだ。

 少し血の匂いが染みついてしまったな。


 この街を見るのも最後か……。

 思うことが無いわけではないが、これからを考えるべきだ。


 ♢


 全員が合流した。出港の準備も整った。

 残るは、この子を船に乗せるだけなんだが……。


「アスカもスカーレットも来ない。乗るのはオマエだけだ」


 嫌だと首を振られる。

 先ほどからこのやり取りを繰り返している。


 どうしたものか……。

 無理やり乗せるのは簡単だが、果たしてそれが正しいのか?


「──ルプス、もう準備は出来てるんだ! 急げ!」


 確かに。時間はかけられない。

 商会も出港を確認したら逃げると言っていた。

 ここでもたつけば困るのはお互いだ。

 この子には悪いが頼まれたんでね。


 少女を抱え上げ甲板に飛び上がる。


「ちがう。ちがうの……」


 初めて口を開いた少女の言葉の意味が分からなかった。そのまま甲板に到達する。


 ──その時だった。


 足が沈み込む。木材だったものに。色は失われ黒く変わる。


「やあ、ルプス。待ちくたびれたよ」


 ロミオ……。どうなっている。


 呑み込まれていく。船であったものに。


「いい出来だっただろ? 君の鼻すら誤魔化せた」


「……気づいていたのか?」


「勿論。私は君の強さを評価していたんだよ? 残念だ」


 こんな真似ができるとは……。

 だが、乗組員は? あれは本物だった。


「ルプスくん。残念でしたねー。あと少しだったのに!」


 サウス。コイツの仕業か……。


「逐一情報は得ていたんですよ? 知っていて黙ってました! 面白くてね」


「サウス、下がれ」


「いいじゃないですか? 私めに語らせてくれても」


 おかしな魔法を使うことは分かっていた。

 手の内を見せずに篭りっきりの、この男の情報は少なかった。無視できると思っていた。


「別に、見逃してあげても良かったんですよ?」


「──何?」


「ただ、少し状況が変わりまして……。ルプスくんに、是非お願いしたい事がありまして!」


「こんな真似をして。お願いだと?」


「あー、もはや命令になってしまいました。許してください。なに、君なら可能性がありますから!」


 今日の演し物だな。

 ロミオはそれしか興味がないだろうし、サウスの口ぶりからすると、いいモノが仕上がったと言ったところか……。


「いいだろう。ただし、オレ一人だけにして貰おう」


「出来ない相談ですね。実は思ったより消費が激しくて、困っているんですよ?」


「雑魚では勝負にすらならなくてな……」


 ロミオの言葉に違和感を覚えた。

 コイツは一方的な展開にならないように、コントロールしていたはずだ。


 それなのに……この口ぶりは何だ?


「ルプスくんの出番はもう少し後ですから、しばらく見物していてください」


「──待て!」


「メインは最後に。ですよ? お仲間もそれまでは無事ですから」


 ちっ、今なら船ごと破壊できるか?


「そこで暴れない方がいい。お前はともかく、他は死ぬぞ? 嘘でも、ハッタリでもない」


 ロミオは嘘を言わない。必要ないからだ。

 口にした言葉は真実。そう思った方がいい。


「やはり、オマエを殺すのが確実だったな」


「出来ないことは口にしない方がいいぞ? お前には無理だ」


「隙あらば、と思っていた」


 だが、コイツは隙を見せない。

 絶対に。何があろうとだ。

 従うオレたちにすら、一瞬の隙も見せやしない。


 ロミオは最初から誰も信じていない。

 だから気を許さない。心を見せない。


「もし、世界に信じるに足るものがあるとするなら、それは自分だけだ。ルプス、お前もそうだと思っていたんだが……違ったようだな」


「オレだけじゃない。アスカも違う……オマエとはな?」


「どうかな。守るモノがなくなれば、アスカはこちらに来ると思う。最後には黒を選ぶ……」


 それは間違いだ。

 アイツは人間だ。貴族じゃない……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ