最後の日 6
♢20♢
三度目ともなれば慣れたものだ。
異世界という未知の場所に対する処置。
勇者たちそれぞれに掛かる魔法。
対象者の危機に反応して回収するという機構は、戦闘や事故には強いが、そこ以外は脆い。
条件さえ分かれば意図して発動させることができる。
発動する条件は二つ。
肉体の死に関わる損壊か、魔力の異常な枯渇。
損壊の場合は傷の移しと本体の回収。
自分の使った魔法の維持が難しくなった場合は本体の回収のみ。
それを監視管理しているのが劣化の分身。魔法に編み込んだ自分の意識。
死なせないため。己で身代わりとなっても……か。
カガミの際は顔を合わせることになったが、此度はそれすら避けよう。
アスカの魔力量が一割を切った時点で反応があった。現実へと回収するための陣が起動する。
──やはり魔力の蓄えがあったな?
でなければ、魔力が尽き回収が出来ない状況が発生するからな。
幾重にも重なる支援の術式。全てを把握したわけではなかったが、予想通り。
そこから術式を傷つけないように魔力だけ奪う。
これで一日くらいは猶予ができたな。
多少は魔法も使えるな。
さて、遺跡内部の構造を把握するか……。
ここまでは垂らすだけだった糸を、魔力の許す限り全部を遺跡内部へと広げる。
この糸は魔力の塊にして、この体と同じ。感覚すらも同じ。
糸はそれぞれ遺跡の端に到達する。
やはり、歩いているここに出口に繋がる道はない。
少しずつ上に範囲を広げていく。
──見つけた。使える出口が一つ。
この場所が街の下だとすると遠い。おそらくは街の外だろう。そこまでの道筋だけ残し糸を戻す。
あとは、アスカが目覚めれば脱出できる。
失った魔力も回復するだろうし、それから移動だな。それまでは辺りを警戒しておいてやろう。
外を見に行く選択肢もあるが、主役はこいつだ。
どんな物語であれ。どんな結末であれ、な。
どうなるのか……楽しみだ。
♢
呼び出してそれほど時間がかからず、会話の席は設けられた。
呼び出された側は、協力という申し出を断る理由もなく、思惑があったとして、この国を出る自分たちには関係ないからだ。
呼び出した側は、仕事だから。
少年に手を貸すと言ったからには、その相手が関わる案件を無視はできない。
恩も売っておいて損はない。あくまで商売の一部。
「呼び出してすまなかったネ。やはり直接話をしないと、相手のことは分からないからネ」
「最もだ……」
「アスカの穴はこっちで埋める。それだけでいいカ?」
「それをやってくれるだけで十分だ。港と反対方向に誘導してくれ」
「分かった。開始時刻は?」
「ロミオが会場に入ったらだ。アイツは席を離れない。対応は眷属に任せるはずだ。そうなれば、港まで辿り着くのは容易だ」
「成る程。仕えてるだけはある。出航を確認したら、私たちも撤退するヨ?」
「懸命だ。国の境を越えればスメラギの領地。ロミオも手は出せないからな……」
準備されていた作戦。
多少は変更があれど誤差の範囲。
必要な役割を担う者さえ揃っていれば問題ない。
「大まかな流れはいいとして、ここからは細部まで話を詰めておくカ」
「あぁ、情報はできる限り共有しておきたいしな」
「情報が大事なのは、分かってるみたいネ」
そう、情報が大事なのだ。
知っていることが多い方が有利なのは明らかだ。
知らないことが致命的なことと同じくらい……。
この時点で間違えていた。
勇者の代わりはいないのだ。
なによりも優先するべきだった。
それを真に理解していたのは一人だけ。
サラサという彼女。
重要性を知っているからこそ、近くにいる。必要だから力を貸す。
力を秘めてはいても不出来な彼らに。
どこまでが、誰の思惑なのかは分からない……。
分かるのは、彼なしに物語を進めれば、待っている結末は悲惨なものになるということだろう。
それを知らない彼らに避けるすべはない。




