最後の日 5
♢19♢
出口が見えんな……。
糸を垂らして進んでいるから、同じ場所なら分かる。いつかは出口に辿り着くが、魔力が足りない。
すでに六日経過しているから仕方ない。人から奪った魔力ではもう保たん。
一度、体に戻らなければと思っても、それもできない。
まったく、頭のいいヤツかと思えばこれだ。
妾としてはコイツが生きてさえいればいいが、本人は違う。律儀なことだ……。
外に連絡がつけば助けも呼べようが、ここから出られない。入ることは容易にできても、出ることはできん。
結界とは厄介だ……。
こんなことだから遺跡の調査もろくにできない。
あー、眠い。これは本格的にマズい。
アスカも失っては何と言われるか……。
小娘が気づきメイに知らせれば、ここを見つけるかもしれないが、あの娘だから素直には頼るまい。
自力での脱出か。もう、いっそのこと天井を破壊させてみるか?
「アスカ、天井をぶち抜くというのはどうだ?」
「無理だ。実弾でないこの銃では傷一つつかない。さっき一発逸れた弾が当たったが無傷だよ」
地道に進むしかないのか。
「互いに魔力が尽きればお終いか。少し休め。通った道には糸がある。敵が触れれば分かるから、前方だけ警戒しろ」
「そうするよ。銃を握ってるのも辛くなってきた。持ってるだけで魔力を消費し続けるっていうのはキツい……」
──その手があったか。
「アスカ、その銃を可能な限り撃て」
「……今、休めって言ったのに?」
「お前、さっきの失敗を反省しろ? 言われたとおりにするのが正解だぞ」
「理由くらい言ってくれないと……」
「いいから、やれ!」
ついでだ。辺りの魔物も消しておくのがいいだろう。さて、上手くいか……。
♢
メイと呼ばれた彼女は、通信機というらしい箱のあった部屋から出ると、建物の入り口の方に歩いていく。
このまま遺跡とやらに向かうのか? と思ったのだが違うらしい。
入り口付近のテーブルに突っ伏しているローブの人に近寄っていく。
実は、ここに来た時から気になってはいた。一切微動だにしないその姿に。
彼女はその人の背後まで回り込むと椅子の脚を蹴った。
──えっ?
当たり前だが、座っていた椅子は抜け床に倒れる。急に倒され頭を打ったローブの人はのたうちまわる。
……あれは痛い。
「仕事ヨ。サボってないで働け」
「いたい」
「目覚めたカ? マナも会長もいないと、本当ダメネ。トモエと変わらないヨ……」
「…………」
「まだ寝たフリするのか。トモエに約束した酒、実は二本ある。一本やろうと思ったのに……」
その言葉でローブの人はむくりと起き上がる。
なんだろう。物で釣られる人多いな。
扱い方が分かってるとも言えるかもしれないけど……。
「内容は?」
「遺跡の入り口まで、彼女を連れてって──」
「──やる! そんな簡単な仕事ならいくらでも」
「まだ最後まで言ってないヨ。でも、口にした事は取り消せないからナ」
「……あれ? だ、だましたな!」
騙してはいないと思う。
フードで顔が見えなかった彼女。
その声と、立ち上がった姿を見て分かった。
女の子だ。背丈はミネラより少し高いくらいの。
明らかに自分の体に合っていないサイズのローブを着ている。下擦ってるし……。
今だに顔は見えていないんだけどね。
「こんどはなにをやらせるつもりだ! いい仕事があるからって言ったくせに、ついてきたらサイアクだったんだけど?!」
「簡単に金になる仕事なんて、あるわけないヨ?」
「悪い大人にだまされた……」
「遺跡まで彼女を案内したら、眷属共と延々と戦ってほしい。簡単だロ?」
「…………は?」
…………は? 私もそう思った。
「ちょっと待って! 何でそれ知ってるの!」
それは私たちの役目だ。
アスカと二人で眷属を集め、ルプスたちが船まで無事に辿り着くのを援護する。
魔物のいないこの国では、あの黒い兵士にだけ注意すればいい。
もちろん強さが必要だけどアスカなら問題ない。
「なんでもなにも、他に戦力がないだロ。狼が引率なら、その役はアスカしかいない。そんなに難しい話じゃないと思うけど?」
「オオカミ? ルプスのこと?」
「あぁ……狼もいないんだった。犬ヨ、分かりやすく説明すると。あの男は狼の獣人。スカーレット、狼につなぎつけてくれ。アスカの抜けた穴埋めてやるとネ」
「なんで協力してくれるの?」
それが分からない。何の得もないはずだ。
それどころか、貴族の怒りを買うだけのはず。
「失敗するよりは上手くいった方がいいから。それに、アスカには手を貸してやれって命令だからネ。半分仕事ヨ。ちゃんと利益はあるから、そんな疑わなくても大丈夫ヨ?」
「……わかった。ルプスに伝えてくる」
「出来れば直接話したい。それも伝えて」
一人で考えていてもしょうがない。
私はあくまでも脇役にすぎないから、どうするのかを決めることはできない。
頼るのかどうかを決断するのはルプスだ。