最後の日 4
♢18♢
ムツの国で最も大きな貴族の治める街。
その街の中で一番大きな施設。貴族が直接管理する舞台。
その場所の地下には空間が存在し、その空間がさらに下の遺跡との中間にあたるここ。
そこに貴族と呼ばれる男と、その従者が訪れていた。客入り前の確認。これも、いつもと同じ。
一つだけ違うのは、今日は予定を変え新たなものを試そうとしていることだった。
♢
ここに来て上手くいくとは思わなかった。
いつかは形にするつもりだったが、それは案外早く訪れた。
幾度も失敗を繰り返した甲斐もあった。
サウスには感謝しなくてはいけないな……。
事の始まりは魔物の強化。
魔物を掛け合わせるのは難しくなかった。おかげで、より丈夫で強いものを作り出せた。
……問題はその先だった。
魔物同士の対戦では盛り上がりにかける。慣れればそんなものだろう。
そこで相手を人に変更してからは上手くいっていた。
──なら、その上はなんだ?
客は血が見たいのだ。それも人の血が。
泣き叫び、浅ましく、誰かを犠牲にして生き残る様を見たいのだ。相手も人なら今以上に──。
そう思っては見たが、只の人間を戦わせたところで、それは上手くいくまい。
なら、作るしかない。
人でありながら人でないモノを。
そして今、──それは目の前にいる。
「言葉は分かるのか?」
「はい。サウスの話では記憶もそのまま。今も人間だと、本人は思っているようです」
「そうか。 ……アスカは?」
「地下に。失敗作の巣ですが、彼なら死にはしないでしょう。彼も守るものが無くなれば考えを改めるかと思います。所詮、彼の目的には無関係なモノですから……」
「あぁ、アスカは他者よりも己が目的を優先するはずだ」
そう。そこが自分と同じだと思った。
だからだろう。初めて対等だと思った存在は。
貴族である自分に並ぶものが本当にいるとは思ってもいなかった。
ここでは無い場所から来たのは間違いではない。
半信半疑だったが、実際にいたのだ。
人間でありながら支配者の資質を持つものが。
「できれば見せたかったな」
「この先機会はあるでしょう。それより船の方は問題ありませんか?」
「そっくりなモノを作った。乗り込んでも気づくまい。入った時点で腹の中だ。どうとでも出来る。そのまま舞台に飛ばすこともな……」
「それはまた、今日はこれまでで最大の人数の役者たちです。さぞ会場は湧くでしょう」
そうでなくては困る。
さて、これの性能も見ておきたいな。
自分では壊してしまう。何かちょうどいいモノは……。
……ああ、コレでいい。
サウスを代わりにすればいいだろう。
音も無く黒い兵が現れる。
自分の周りを囲うように。
「どうするのですか?」
「なに、アレの性能を確認しようと思ってな」
「ロミオ様が戦われては……」
「──違う。お前だ」
意味が分からないといった顔をする。
……コレはなんと言ったか?
別にいいか。すぐにいなくなるのだから……。
もう少しで開演だ。
ルプスにはせいぜい踊ってもらおう。
絶望は深ければ深いほどいい。
今まで隣にいた従者の悲鳴が地下に響く。