最後の日 3
♢17♢
「アスカがいない? それはいつからだ」
──分からない。
私が屋敷に行った時には、ミネラしかいなかった。そのミネラも分からないと言っていた。
彼が何も告げづに出かけてるとも思えない。
まさか、ルプスに聞いても何の情報も得られないとは思わなかった……。
「オレはアスカ抜きで作成を進める。元より無かった戦力と思って行動する。そっちは任せた。 ……違うな。悪いが構ってる余裕はない」
ルプスのところへ来たのは、ここが一番可能性が高いと思ったから。そこに手掛かりすら無いとは。
アスカは私が一人で探すしかない。
でも、どこを? 他に何か……。
商会の人。彼女ならどうだ?
何か知ってるかもしれない。
彼女たちはルプスの村に居ると言ってた。急いで向かおう。
今日はすでに転移を使ってる。
次もし空振りだったら二回目。
なるべく節約しなくては……。
回数を重ねるごとに疲労によって精度は落ちるし、少しずつズレていく。
飛ばせる質量も減るだろうし、失敗の可能性も増える。
そうなってくると、誰かを一緒に転移させるのは避けたい。お願いだからそこにいてよ。
「アスカ? 来てないヨ。どうかしたカ?」
ここにも来てない。
本当に何処へ消えてしまったのか。
「いないのよ。今朝から……」
「それは困ったネ。分かった。手伝ってやるヨ」
大して考えた様子もなく彼女は答えた。
「どうするの?」
「企業秘密ネ。探してやるから、あの嬢ちゃんのとこ戻ってロ」
「ミネラは大丈夫よ。私はアスカを探す」
「オマエも言い出したら聞かないやつカ。まあ、好きにしたらいい」
ついてこいということだろう。手招きしてる。
どうする。付き合う理由はない。
一人で行動した方がいいはずだ。
悪い奴ではないのだろうが、信用には値しない。
だけど、闇雲に魔力だけを消費するよりはマシか……。
夕方までは、まだ時間がある。
駄目だと思ったら見限ればいい。
案内されたのは商会の支部。
その中の何やら大きな箱がある部屋に通された。
──あれは何?
何か触ってるけど、どんな意味があるんだろう……。
「あー、私ヨ。トモエいるか?」
「メイじゃない。なによ?」
不思議なことに箱から声がする。もう一つの声も女性だった。
「珍しいネ。トモエが出るなんて……」
「そうねー、自分でもそう思うわ。暇だったからかしらね?」
「……暇だったカ。絶対に嘘だロ?」
「そんなことないわ。暇よ。誰も遊んでくれないし」
「みんな働いてるからナ。ちょっと頼みがあるんだが?」
「──めんどくさいからイヤ。世間話なら付き合ってもいいけど」
「引き受けてくれるなら、いい酒やるヨ?」
そんな物で釣られるわけ。そう思ったのだが、
「いいわよ。約束よ? 絶対守りなさいよ」
いいらしい。なんだろう、この人……。
そして得られた情報は一つだけ。
この街にはいない。そう言われた。
それじゃ何も言わず居なくなった?
ううん、信じない。ミネラを置いていくはずがない。
「無駄足だったわ。あとは自分で探すから」
一度、ミネラのところに戻って……。
「オマエちゃんと聞いてたのカ?」
「──聞いてたわよ!」
「トモエは感じられる場所にいないって言った。地上にはいないんだロ。つまり下ネ」
下? なにを言って。
「ここには地下がある。それも巨大な地下がね。自分で入り込んだとは考えにくいから、何かあったのは間違いないヨ」
「そんな話……」
「貴族のいる場所の近くには必ずあるヨ。遺跡のような遺物。中は感知できないし、知らなければ気づきもしない。そんな場所ヨ」
♢
──くそっ、くそっ。
暗い地下に銃声が響く。
弾は元が何なのか分からない生き物を貫く。
銃声に引き寄せられ、また他の生き物も集まってくるだろう。
……浅はかだった。
ここに落とされて、どのくらいの時間が過ぎた?
陽の光もなく、時間の感覚も分からない。
出口なんて本当にあるのか? この迷宮に……。
「いい加減、気が済んだか? 敵に自分の位置を自ら知らせ。わざわざ集めているのさえ気づかないのか?」
「──分かってるよ。そのくらい!」
「焦ってもどうしようもないぞ? だから言ったのだ。話などせずに撃ち殺せと」
彼女の言葉を無視し、サウスを問い詰めたのが間違いだった。
最初は問い詰めろと言った彼女は、サウスの診療所を見るなり、
「アスカ、これはマズイ……。サウスという医者、ここで殺しておけ。理由は後で説明してやる。出会い頭なら確実にヤレる」
そう言った。その通りだったんだ。
──そうしておけばよかった。だけど、できなかった……。
銃をつきつけサウスを問い詰めた時も、軽かった引金が重く、銃口を誰かに向けているだけで息が詰まりそうだった。
その結果がこれだ。
危機を知らせることもできず、こうして無駄に時間を消費している。
ルプスに知らせなければ……作戦は筒抜けだと。
それすらも遊びとして消費するつもりなんだと。
ロミオは分かっていて放置してきた。今日の為に大がかりな準備をして。
企みを行動に移せば終わりだ。村人全員が今日の役者となってしまう。
今日の魔物はいつもと違うんだ。あれは──。
急いで地上に出なくては。
ここでの一秒で、誰かの生き死にが決まる。
スカーレット。僕のことはいいから、ミネラを頼む……。