最後の日 2
♢16♢
これは、交わした言葉の一欠片。
眠りにつくまで話したことの一部分。
「ずいぶんと慕われているようだな。この娘に」
「僕が?」
「子供とは単純だな。簡単に信用する。 ……まあ、悪くはないか」
「そんなこと思ってもみなかった」
「好意を口にされなければ分からんタイプか……。何も無しに、懐いたりはしないということだ」
「実際、何もしてないと思うんだけど……」
してあげらたことなんて、あっただろうか?
「お前にはそうでも、この娘にとってはあったんだ。言わんぞ? 妾はそこまで口は軽くない」
「ペンダントは買ったけど、あれはスカーレットが言ったからだしな……」
「…………ワザとやっているのか?」
「何を?」
「もういい」
スカーレットも似たようなことを言っていた。
誰かに優しくされたことは、絶対忘れない。
どんなに辛くても、苦しくても、それがあったから生きてこられた。
他が全部暗くてもたった一つだけでも、楽しかったことや嬉しかったことは絶対消えない。絶対に。
理由なんて、その時は分からない。
でも、今になって分かる。
あれがあったから私は今も生きているって。
ミネラにもそれが必要だったんだよ。今日は連れ出して良かった。
安物だって、貰った相手によって価値は変わる。
何にも代え難いものになる。どんな宝石にも負けない輝きになる……。
そうなんだろう。わずかな時間であったとしても、そこには時間以上のものがあったんだ。
「話は逸れたが必要があれば呼べ。力を貸してやる」
「そんなことにはならないよ」
「なら、いいがな。歯車を一つ抜いたところで変わるとは思えん」
「意外と心配性なんだな」
「心配もするさ。いちいち面倒を見なくてはいけないからな……」
「キミは、何でスカーレットと仲悪いんだ?」
「知らん。向こうが突っかかってくるんだ」
「絶対に理由はあるだろ……」
サラサの言葉が現実にならないように願った。
ただ殺し殺されるなら簡単だ。だけど、そこには色んなものが絡んでいる。
複雑に、ほどきようのないくらい……。
それはもう切ってしまうしかないのだろう。
「アスカ。お前はある男に似ている。最後には必ず踏み外す。そのままではな……。回避するには、一筋の光が必要だ」
──それはなんだったのだろう?
「お前は掴んだ手の、その相手だけは救いたかった。それすら叶わなかった時……」
意識はまどろみにしずんでいく。