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できそこないの勇者 『ツイノモノガタリ』  作者: KZ
 火神 優(かがみ ゆう)
1/337

間際

『──そこはあなたの住むところとは異なる世界。その世界は長い長い時間をかけ光を取り戻しました。ですが光を得た時間はとても短く、再び世界は闇に覆われてしまいます』


 意識が覚醒するまでのわずかな時間の中。

 眠りから目覚めるのとは違う不思議な感覚の中。

 どこかで聞いたことがある女の子の声がする。


『これが物語なら、なんと酷いことでしょう』

『人々は光を取り戻した者を信じていました』

『再びの闇も、必ず(はら)ってくれると』

『再び世界に光をもたらしてくれると……』


 女の子が語る内容は以前に聞いたことのような気もするし、いま初めて聞いたことのような気もする。

 これは似たような物語を読んだという記憶からそう感じるのだろうか。


『しかしその者は敗れ去り、闇の思うままに世界は支配されてしまいます。それからまた時間は流れ、闇は今やこちら側にも影響を与え始めています。このままでは世界は最悪の結末を迎えてしまうでしょう』


 これがあの物語なら、このあと女の子は物語の主人公となる少年たちに頼むのだ。『──だからお願いします。あなたたちの力で世界を救ってください』と。

 そんなことをと思うかもしれないが、そんなことがあるから物語は始まるのだ。


◇◇◇


「…………。今のは、夢か?」


 ふと、朝露(あさつゆ)に濡れる森の中で目が覚めた。

 辺りの空気はひんやりしていて肌寒いくらいで。

 余計な音は何も聞こえず、辺りは静まり返っている。


 それだけに自分の鼓動がよく聞こえる。

 心臓の鼓動が少しずつ大きくなっていく。

 それが自分ではっきりとわかる。


 自分の知る現実ではない場所。異なる世界。

 そんな実感も少しずつ理解されていく。

 息をするたび自分の中に、実感と不安が入りこんでくる。


 異世界と呼ばれる場所である、ここ。

 この世界はどんなところなんだろうか?

 俺はこの世界でやっていけるのか?

 不安は急に大きくなる。

 一人でいることに慣れた自分らしくない。


「──なんだ?」


 静かすぎる森の中に微かに声が響いた。

 今のは……子供の声だ。

 脚は自然とその方向に向かう。

 まだ物語は始まっていない。

 きっと、この先に行けば始まるのだろう。


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