6話 鍛冶屋と新しい武器
次の日。
俺は6時に起床した。
俺は朝食を適当に済ませて部屋に戻り、SAGの世界に入った。
ログアウトのときと同じ様な感覚の後、視界が戻ると、場所は自分の部屋から宿屋の部屋に変わっていた。
俺は宿屋から出てひとまず噴水広場まで歩く。
掲示板で騒がれたみたいだが、俺の姿を見れた者はいないようだ。
特に注目を浴びる事なく噴水広場に着き、端にあるベンチに座る。
そう言えば、この中では3日が経ってるんだよな。
俺のレベルを越えた者も出てきているだろう。
「あー、この後どうするかなー。やっぱり鍛冶屋の知り合いが欲しいところだけど」
「やあ!鍛冶屋をお探しかい?」
突然声をかけらた。
声のした方向を向くと、そこには一人の女性プレイヤーがいた。
20歳位だろうか?
赤い髪を短めに切り揃え、少し切れ長の目は髪と揃えて赤くしている。
「あんた誰だ?話した事は無いと思うんだか」
「うん、そうだよ。まずは自己紹介からかな。私は【センカ】っていうんだ。貴方は?」
「俺は【キョウ】だ。で、どういう用だ?」
「いやね、私は鍛冶屋なんだよ。君が鍛冶屋を探してるみたいだから声をかけたんだ」
成る程、さっきの言葉を聞かれていたんだろう。
「で、何で俺なんだ?他にもプレイヤーはいるだろう」
「実は、私も貴方みたいなプレイヤーを探してたんだ。東エリアのモンスターから鉱石は採れるから、素材はあるんだ。でも、それで作った武器を使うプレイヤーがいなくてさ…」
「で、丁度その時俺が居た、と」
ふむ、これは結構良い話しなんじゃないか?
こんな早い段階で生産組と知り合いを持てるのは今後が助かるだろう。
「俺の武器を作ってくれるのか?」
「うん!使う人は居なくても武器は作ってたからね。スキルのレベルは上がってるんだ」
「俺の武器は爪だが作れるのか?」
「作った事は無いけど問題ないよ。作る時にウィンドウで爪を選べば良いんだし」
ほう、生産はそんな風になっているのか。
それはともかく、爪は作れるみたいだな。
なら決まりだ。
「じゃあ、宜しく頼むよ」
「え、良いの?やった!あ、でも……」
ん?どうかしたのだろうか。
「スキルのレベル上げに持ってた素材を全部使っちゃったんだ。だから、今は素材がなくてね。素材を集めてくれた知り合いは、今は西エリアにいるって言ってたから……」
「それなら問題ないよ。俺が採ってくる。どんなモンスターを倒せば良いんだ?」
「ホントに!?ありがとう!じゃあ私の工房の場所、メールで送るね」
お、メールが来た。
てか、生産組のプレイヤーは工房もらってるんだな。
「で、倒して欲しいモンスターは鉱石ヤドカリなんだ。アイツを倒せば鉱石がランダムで落ちるから、鉄鉱石を10個集めて持って来てねー」
そう言ってセンカは人混みに走り去って行った。
「じゃあ、俺は東エリアに行くか」
俺は爪を装備して東エリアに向かう。
東エリアに着いたが、西エリアに多くのプレイヤーが向かっているのか、プレイヤーは少なかった。
進んで行くと、更にプレイヤーは少なくなる。
と、モンスターがいた。
「アイツはなんて奴だ?」
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【鉱石ヤドカリ・希少】Lv9
詳細:石系レアモンスター。硬く、ダメージが通り難い。通常よりもレアな鉱石を落とす。
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「レアモンスターか。使う鉱石は良いやつの方が良いだろうし、丁度良いな」
でも、こちらの攻撃が通じるかどうか…。
結果。
心配は無用だった。
他のエリアのモンスターよりは強かったが、その硬さだからか、HPが少なかったみたいで何回か攻撃すると簡単に倒せた。
「でも、俺の攻撃に何度か耐えるなんて凄いな。やっぱりレアモンスターだから強かったのかな?あ、それよりドロップアイテムだな」
どんな鉱石が落ちたんだ?
メニューを開いてインベントリを確認すると、[緋炎石]と言うアイテムが3個加わっていた。
取り出して鑑定で見てみる。
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[緋炎石] レア鉱石
詳細:炎を纏った緋色の鉱石。その炎は不思議な事に、触ってもダメージも受けず、熱さも感じない。
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「すげぇ……。綺麗な鉱石だな。あ、そう言えば10個必要なんだっけ。次もレアモンスター探してみるか。もう、これを見ちゃうと鉄じゃあ、我慢出来ないからな」
そうして、その後は西エリアを走り回った。
普通のモンスターは無視してレアモンスターだけを探す。
ステータスの運が高いからか、少し時間はかかったが、さっきと同じレアモンスターを4匹見つけた。
こちらに気づかれる前に一気に倒す。
ドロップアイテムは、やはり運が高いからか、更に[緋炎石]を12個と、[焔の塊]と言う名前の水晶を3個が落ちた。
新しく手に入れた[焔の塊]の鑑定結果がこれだ。
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[焔の塊] レアアイテム
詳細:炎属性の装備を作る時に材料に入れると、完成した装備の炎属性の効果を高める事が出来る。
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「強化アイテムだな。やっぱり運を高くしたからかな。このタイミングで炎属性の強化アイテムが出たのは。まあ、別に役に立ってるから良いんだけど」
じゃあ、センカの工房に行くか。
工房は街の東辺りにあるみたいだった。
意外と近くだったので、直ぐに着く。
この辺りに工房が集まっているみたいで、それなりの数のプレイヤーを見かけた。
目の前のレンガで出来た小さな建物のドアをノックする。
ドアは直ぐに開いた。
ドアを開けたセンカは、先程来ていた初期装備ではなく、作務衣を着て、頭にタオルを巻いていた。
「あ、キョウ君じゃん!結構遅かったね。まあ、とにかく中に入りなー」
そう言って中に戻っていく。
俺も中に入ると、そこは狭いながらもちゃんと整理整頓された部屋だった。
奥には炉があり、壁際にはベッドが置かれている。
「あれ?センカさんはここに泊まってるのか?」
「うん、そうだよ。初期スキルを完全に生産に偏らせたプレイヤーには、小さな工房が配られるみたいなんだ。で、この工房は私の持ち物だから寝る場所も小さいながらあるって訳」
へぇー、そうなのか。
まあ、生産に偏ってると、最初は宿屋に泊まる金も稼げないからな。
「それよりも鉱石だよ。ほら、こっちに送って」
「はいはい、わかったわかった」
俺はメニューを操作して、手に入れた[緋炎石]と[焔の塊]を全てセンカに送る。
「あれ?鉄鉱石じゃない?何これ………え、えぇぇぇ!?」
あ、説明するの忘れてた。
「ね、ねぇ、キョウ。何でレア鉱石とかレア水晶をこんなに持ってるの?」
「ん?センカは鑑定を持ってるのか?」
「工房と同じで、生産に完全に偏らせたプレイヤーはインベントリに入ってるやつなら詳細を見れるの。それより、何で持ってるの?」
「ああ、東エリアで最初にレアモンスター見つけてさ。その後もそいつだけ狙い続けて東エリアを走り回ったんだよ」
「だから遅かったんだ…。分かった。じゃあ、作って欲しいのは爪だったよね?普通は一つのものを作るのに5個必要だから、あと1個作れるよ。なんか作る?」
あと1個か……。
「鍛冶はどんな物が作れるんだ?」
「えーと、金属製の武器に防具だね。私は細工のスキルも持ってるから、アクセサリーとかも作れるよ」
「じゃあ、ピアスって作れるか?」
「うん、作れるよ。それにする?」
「ああ、頼む」
「OK!私に任せといてよ」
センカはそう言うと、炉に近づきメニューを操作してから、緋炎石を10個と焔の塊を2個取り出して炉の中に放り込んだ。
少し後に、透明で中で焔が渦巻いている緋色のインゴットが二つ出てくる。
センカさんはそれを手に取って、また炉に投げ入れた。
また、炉からインゴットが出てきた。
今度は、さっきよりも透明度が増し、中で渦巻く焔が激しくなっている。
センカさんはそれを何かの道具で抑えながら側に置いてあった金槌で叩いていく。
10回叩くと、鉱石が光りだした。
センカさんは手を止めて、ジッとそれを見つめている。
光が収まると、そこにはインゴットではなく、左右二つの爪装備が並んでいた。
爪装備は直ぐに消えて、代わりにセンカさんの前にウィンドウが現れる。
センカさんはウィンドウを操作すると、こちらに来た。
「出来たよ、キョウ君。これが君の新しい武器だ」
そう言ってこちらにアイテムを送って来る。
俺は直ぐにそれを装備してみた。
籠手が主体になっていて、手の甲部分から5本の長さ45cm位の刃が付いている。
籠手の部分は布の部分が黒色で、金属の部分は紅色になっている。
金属の部分は炎をモチーフにしているのか、紅色に緋色で装飾がされている。
爪部分は、紅い刃が40cm程真っ直ぐ伸びていて、残りが緩やかに内側に曲がっている。
俺は名前を見ていない事に気付き、急いで鑑定した。
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[緋炎の紅爪] ユニーク装備
詳細:レア鉱石[緋炎石]にレアアイテム[焔の塊]を使って作り上げた。炎属性の武器で、爪を振るうと紅い軌跡と火花が残る。斬ったところから炎が燃え上がり、追加継続ダメージを与える。
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「緋炎の紅爪か……。かなり強そうだな」
俺が受け取った爪を見ていると、センカさんが話しかけてきた。
「ねぇ、キョウ君。その爪はどうかな。気に入った?」
「ああ、気に入ったよ。大満足だ」
「そう、良かった。あ、そうそう。その爪、今じゃまだあり得ない位の武器だから、他の人には渡したりしちゃ駄目だよ」
俺は素直に頷く。
俺も面倒は要らないのだ。
「じゃあ、ピアスの方も作っちゃおうか」
センカさんは、炉に近づきウィンドウを操作してから残りの緋炎石と焔の塊を投げ込んだ。
先程と同じ様にインゴットが出てくる。
また、ウィンドウを操作してインゴットを投げ込んだ。
今度は圧縮されたのか、サイズが小さくなって出てきた。
センカさんは、それを持ってベッドの側の机に向かい、机に置く。
センカさんは椅子に座ると、小さな道具でいじり始めた。
何をしているのかよく見えない。
少しすると、センカさんが近づいてきた。
「センカさん、出来たのか?」
「うん、出来たよー。はい、これ」
送られてきたので、取り出して見てみる。
形は……勾玉か?
耳に付ける部分は小さいリングになっている。
そこから4cm程チェーンがあり、最後には勾玉が付いていた。
リングとチェーンは金色で、勾玉は紅色だ。
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[紅玉の耳飾り] ユニーク装備
詳細:紅い勾玉が付いた耳飾り。炎に耐性ができ、ダメージが減る。
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耐性か。
これは結構便利だな。
「ありがとな、センカさん。そう言えば値段はいくらなんだ?」
こんな凄い装備なんだし、結構高いだろう。
「いやー、お金は要らないよ」
「え?」
「素材は全部キョウ君に用意して貰っちゃったし、レア鉱石だからかスキルのレベルも一気に上がったしね」
「いや、それでも………」
「もう、男の子なんだから堂々と貰ってけばいいの!」
そこまで言われたら受け取るしかない。
感謝、感謝である。
「じゃあな、センカさん。また会おうぜ」
「うん。あ、じゃあフレンドに登録しておこうよ」
そうしてフレンド登録した後、センカさんとは別れた。
てか、このゲームにフレンド機能なんてあったんだな。
美那と鴉に会ったら登録しとくか。
その日はもう暗くなっていたので、NPCの屋台で夕食を済ませて適当な宿屋で寝た。
明日はどうするかな。
今度は防具でも探すか。