彼女f
ドン。
「あ」
どうしよう、とうとうやっちゃったよ。一応車を降りて確認してみるけど…たぶん殺っちゃったよねぇ、音も大きかったし衝撃もかなり酷かったし、何よりこれだけスピード出してたんだから。
「あー…」
あたりに散らばった内臓、この血の噴き出し様、しかも動いてないし。もう手遅れ、てか即死か?んーこういう時どうすればいいんだっけ?中学校くらいで習った気がするんだよなー、心肺蘇生法。AEDだっけ? ってかAEDってそもそも何だったのかすらよく覚えてないんだよなぁ~。まぁとりあえず、確認くらいははするべきだよね。生きてるかどうかわかんないと何も始まんないわけだし、って言っても始まるも何も、何もかも全てが終わってる気がするけど……。行動は慎重に、なんて事故っておいて今更って感じだけど。
「もしもーし。あのー死んでますかー?」
とりあえず一番おっきな肉塊に話しかけてみるけど、これどこの部分だっけ?んー大きさ的に頭じゃなさそうな気もするなー。あ、このサッカーボールみたいな奴が頭カナ?赤くてなんかよくわかんないけどなんとなくそんな感じがする。昔からよく勘だけは当たるのだ、これで間違いないと今は断言しよう。
「あのー…つかぬことをお伺いいたしますけど、死んでらっしゃいますか?」
んーダメかな、もう首だけになって少なくとも二分は経つはずだし、かの有名なギロチンで首だけになった人だって二、三秒しか持たなかったらしいし。でも思いがあれば奇跡は起きる!なんて言ってみよう。奇跡はいつだって常識なんか二段ジャンプでピョンピョン飛び越えて、ハッピーな結末を招いてくれるんだ。だから喋ってみよう、赤い塊!
「………」
ざーんねん。生きてればちょっとは実刑が軽くなったのかもね。甘んじて受ける気なんてこれっぽっちもないけど。
「う、あぁ、ああぁあぁぁぁ」
おっと、マジか。奇跡が起きたね。でもまぁハッピーにはならないけど。
「キャー!」
ナマクビガシャベッターーーびっくりまーく!
大きく足をスイング。我ながらナイスシュート。車の荷台にゴールイン!サッカーの起源は生首を子供たちが蹴って遊んだことらしいけど、蹴ってみてわかる、これ結構重いし丸くないし靴汚れるし固いし全然サッカーボールと比にならないくらい蹴りづらい。子供たちよ君たちが生首で遊んだことで今や世界を熱狂させるスポーツが誕生したんだ。生首を蹴るなんていう発想がなければ今頃はつまらない世界だったのかもしれないな。そんなこと思ったらさっき私がやった華麗なキックがちょっと誇らしくなってきた。さすが私! 的な。
さてさて気分も乗ってきたところで後片付けでもしようかな、幸いこんな山道を通る人なんていないだろうし、何か通ったとしても猪か蛇ってところでしょう。熊出てきたら死を覚悟しましょう。
まぁまぁ焦る必要なんてこれっぽっちもないさ! 夜が明けるのはもっともっと先だ、でも夏だからそんなにゆっくりもしてられないのかな、日の出は何時だったっけ…まぁ大丈夫。間に合うさ!根拠なんてないけど私の勘がそう言っている! つまりそうなるんだ!
さてさて。
よいしょよいしょ、あー腰がつらい。これでもまだピッチピチの二十代のはずなんだけどなぁ…おばさんになってきてるのかな、クッ、年は取りたくないもんだぜ。
スルスルスルーおぉ人の腸って意外と長いな、紐みたいでしかも弾力がすごい。商品化したら工事現場なんかで使われるんじゃないのかな? 伸縮自在命綱、みたいな。あっでもバンジージャンプの紐のほうが適役かもしれない。
フニフニ、フニフニ。あっヤバい。この感触好きだわ…伸ばしてもフニフニつまんでもフニフニ、この前プチプチなんてものにまったけど、そんなのよりこっちの方が断然癒されるなぁ~、フニフニフニフニ。
ブチっ。「あ。」
やっぱり工事現場やバンジーで使うにはちょっと強度がたりないかなぁーせっかく思いついたのに実にざーんねん。割とまじめにこの血生臭い悪臭さえどうにかできれば不可能な話でもないと思ったんだけど。
ヨット。ホイ!。ほっ。トイや。アベシ。
これで最後カナ?ちょっと疲れちゃったんだけど、まぁ私がやったことだしね、後かたずけ位しなくちゃ、罰が当たるってもんだよ。荷台はもうパンパンだしもういっかな。
おっと左腕発見。危ない危ない置き去りにするとこだったぜ、ほらほら左腕君、独りぼっちは寂しいだろ? そんな何かを強く握ってないで、さあおいで、君を轢き殺したお姉さんと一緒に行こう。
んー後はこの血なんだけど、どうしよっかなーモップとか持ってるほど掃除好きで女子力高いわけじゃないし、ってかいくら女子力が高くったってモップ常備してるような人間は存在しないと思うし、いたとしたらその人は女子力が高い人じゃなくって、掃除のおばさん力の高い人だよ。まぁそんなものは存在しないんだけど。でもまぁいっか、何となく明日の朝、雨が降りそうな気がする!
私の勘は世界一~♪
さて、そうと解ればさっさとこの場を立ち去りましょう、不幸中の幸い全財産は手元にげん玉であるわけだし、このまま田舎の心優しいおじいちゃんやおばぁちゃんのところに転がり込んでゆっくり畑仕事でもしながら余生を過ごそうかな。
結婚は……大丈夫、田舎にだってイケメンくらいいるはずさ!これは勘じゃなくてただの希望だけど。
ドライブの続きをしよう、ラジオの音全開にしてさ、このしみったれた森に、死体に、空気に、そして私に轟かせよう。
「私、DJ・ハートが独断と偏見でお送りします、真夜中のロックラジオ!続いてお送りしますのはー、アップテンポで最近熱い、この曲だ!ggレディでタフネス・ハート!!!」
なんか聞いたことのある歌をうろ覚えで熱唱、あはは…こりゃぁジャイアン顔負けの歌声かもしれない。
はぁ…
付いてないな~君も。もちろん私も。
「あーしたあーめになーあれ!」
でも私の心だけ晴れになーあれ!
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