だから、この物語を「愛」と訳す。
目を開けると、目の前に大好きな彼の顔があった。覗き込むようにしている彼の顔からは涙があふれている。その涙が窓から差し込んだ光に照らされて輝き、そして私の頬に落ちてはじけた。
「……あれ? 生きてる?」
視覚、彼がちゃんと私の目に映っている、聴覚、彼の情けない鳴き声が聞こえる、嗅覚、彼の匂いがする、触角、頭の後ろで彼の脹脛がある感触がある、今のところそれぞれに全く異常がない。味覚はちょっと今は確認できないけど…まぁたぶん正常だと思う。私の勘がそう言っている。
「いや、残念。君は死んじゃったよ。」
彼は涙をたくさん含んだ眼と、耳まで真っ赤になった顔で少しだけ怒ったようなそぶりを見せて、どこかを指さした。その指の先を見ようとすると、彼が私の目を手で隠してしまった。
「見ないで。」
彼は私を諭すように、まるで年上のお兄さんが年下の妹をあやすかのような口調でそう、私に言った。全く、生意気な!私の方が年上だというのに、昔は私がいなきゃすぐに泣いてたくせに。
「見ないから、何があるのか教えて?」
本当は何があるかなんて明白なんだけど、火を見るより明らか、じゃないかこの場合だったら血を見るより明らかかな。
「僕の大好きな人が、僕の事を精一杯考えて行動してくれた跡がある。大好きだった人が朽ちた跡がある。」
彼はぶっきらぼうに、そう私の質問に答えた。でも若干照れていることが隠し切れていない所が可愛い。
「ねぇ、私がここまでしたんだよ?何か言うことがあるんじゃないのかな? 言ってくれないとこのまま膝の上は私が占拠したままになるよ?」
そうやって私が彼を茶化すと、彼はちょっと呆れたように嘆息を漏らす。でもだんだんと頬が高揚していっているのを隠しきれていない。
「後悔してない?」
「してるように見える?」
そんな先に立たない物を考えることはしない。彼の耳が赤くなっているのを笑いながら眺める。もしかしたら隠そうとすらしていないのかもしれない。そして彼は少しも躊躇わず、真っすぐと私の目を見て言ってくれた。
「あなたが大好きです。ここで、僕と一緒に暮らしてくれませんか?」
これが私の描いた最高の結末。現実を捨てることで得ることができた宝物。
かけがえのない大切な人。
願わくばこれからいつまでも、彼とここで。
「はい、喜んで。」
お付き合い頂きありがとうございました。