記憶のアルバムの隅っこに。
「こー君待ってよ。」
「×ーちゃん、遅いよ。早く早く!」
私は年下の彼にせかされて、大きく一歩を踏み出し彼に追いつこうと走ってみた。しただけ見てると私の視界をどんどん道が流れていく。
坂を上ってるとは思えないくらいの速さで道が流れていっているので、もうすぐ彼に追いつくかな? なんて思って前を向いたら思っていた以上に進んでいなくてちょっとがっかりした。まだあんな先に彼がいる。
もっと早く、もっと力強く。
そう思って足を出すとそこは階段だったことに気づき、段に引っかかって大きな音を立てて転んでしまった。
痛い。顔は何とか大丈夫だったみたいだけど、膝のあたりがひりひりするような痛みが継続的に私を襲った。
顔をしかめながらもなんとか起き上がろうとすると、タッタッタッっと駆ける音が近づいてきて私の耳元で止まった。
「×ーちゃん!ねぇ大丈夫? 立てる?」
彼は私が立ち上がるときに肩を貸してくれた。全くこれじゃぁ私の方が年下みたいじゃないか。私の方がホントは年上のはずなんだけど。
「いたっ。」
膝の方から尖った痛みが伝わり、見てみると血が出ていた。おぉ赤い、赤い。痛い、痛い。
自分の傷口をちょっとだけ観察し拙い感想文を思い浮かべていると、彼が今にも泣きそうな顔をして私を眺めていた。
泣き出しそう、じゃないかもうすでに泣き出していた。
なんで泣くんだか。私には訳が分からないけど。呆れた顔をしつつ……でも君の泣き顔を見るのは私は得意じゃないからさ、早く泣き止んでほしいと思った。
「よしよし、痛くない痛くない。大丈夫だから。泣かないで?」
ホントは痛いよ? 痛いけど我慢できないほどじゃない。久しぶりに彼に年上らしいことをしてあげれる、その事実は私の痛みを少し奪っていった。